旅のはじまり

事の始まりはなんだったのか、ふと考えてみた。なぜわたしは旅をしようと思ったのか。

初めてひとりで旅をした場所、それは名古屋だった。アニメ「胡蝶綺」の影響で、どうしても織田信長に会いたくなったのだ。当時、大学に通っていたわたしは、どことなく閉塞感を感じていた。制服で学校に通い、みんなと同じ授業を受け、部活に行き、毎日同じことを繰り返す。その中で生きてきたわたしにとって、大学に通うということは文字通りの自由を意味していた。しかし、待っていたのは、思い描いていた自由ではなく、縦と横に伸びただけの教室だった。
そこで何を思い立ったのか、髪を赤く染めて、名古屋という街に夜行バスで向かうことにした。まるで夜逃げのように、誰もわたしを知らない街へひとりで足を踏み入れた。

どこに行こうと何を食べようと誰に相談する必要もない。部屋に戻った時の静けさに少し寂しさを覚えるものの、自分一人だけのパラダイスに胸が高鳴っていた。そして、今でも覚えていることがある。確か名古屋パルコのWEGOの店員さんに、「赤い髪、素敵ですね」と声をかけられた。嬉しかった。誰もわたしのことを知らないこの街で、名前も知らないわたしを認めてくれたのだ。これはわたしの人生において、今でも忘れられない瞬間である。
最終日、すでにクレジットカードを学生満額(10万円)分使っていたわたしは、銀行に行き、口座残高が5000から0になるのを見届けた。天むすを駅の立ち食い蕎麦屋で食べた。大層なものではなかったけれど、ひつまぶしも食べた。バスに乗る前に、タピオカを買った。そこで財布が空っぽになった。東京に着いて、東京で働いてた友達に久しぶりに会いに行った。自由の"楽しさ"と"責任"を背負いながら、足取りは以前と何も変わらなかったけれど、でもそれでよかった。

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