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クレジットカードを拾ったお話と欲望

友人と朝カフェでひとしきり現状報告をした帰り道、道端でタクシーを止めて乗り込もうとした時。足元でキラリと光る銀色のカード。見覚えのある白黒のキャラクターが若干煩いそれは、紛れもなくクレジットカード。

目の前に落ちているクレジットカードを認識した瞬間に、頭の中には2つの選択肢が浮かぶわけで。拾うか拾わないか。拾う人間になるか、拾わない人間になるか。to be or not to be……?拾わない選択肢もあったけど、それでは「見たのに見てないと嘘をついて、困っている人を見捨てる悪人」になってしまう。

そしてなんといってもこの時の私、超重要な舞台の当落発表を数日後に控えていた。ここは少しでも!徳を!積んでおきたい!!もはや神頼みな、日本一チケットが取れない舞台の当落。もしこれを拾わずして、もし舞台のチケットが取れなかった場合、わたしは今この瞬間の判断を一生悔やむことになる。むしろこれはチャンスでは?面倒くさいとか言っている場合ではない。

脳内でひとり「ブラッシュアップライフ」みたいなこと考えながら、半ば己の欲望のために「拾った」んだと思う。親切心と欲望がちょうど半々。その間ほんの10秒。親切心100の人間にはまだなれていない。

思考ってものすごい勢いで駆け巡るなぁと思いながら、タクシーの運転手さんに行き先を伝えてカードを眺める。有効期限は切れていないし、使用感もある。名義的におそらく女性。もし知ってる人だったら直接届けるか、なんて思ったけど、ローマ字で刻まれたその名前に聞き覚えはナシ。

私が悪党だったら、このクレジットカードを不正利用するんだろうな……?当たり前だけど、そこの二択なら私はいい人サイドの人間なんだなと。若干汚れたソレをティッシュに包んで、厳重に鞄の最奥にしまって。

警察に届けるべきなのか、タクシーの運転手に預けるか?(いやタクシーは全く関係ない。車内で拾ったならそれでいいだろうけど)少し考えて、さっき別れたばかりの友人に「今クレカ拾ったんだけど(困った絵文字)」とだけLINEしたら「それクレジットカード会社に連絡するのが一番早い」と一発アンサー。翌日から海外出張なシゴデキはやっぱり違う。日常生活面のポテンシャルも無意味に高い。なんでそんなこと知ってるの。


そうしてこうして慣れない状況に若干緊張しながら、某クレジットカード会社のフリーダイヤルに電話をかける。タクシーの中で電話するのあんまり好きじゃないけど今回は仕方がない。電話の間、運転手さんに道聞かれませんように!簡単な行先でよかった。

最近のコールセンターって、ナビダイヤルだとかAIだとかで延々遠回りさせられた挙句「現在込み合っているため後程かけなおしてね!じゃ!」みたいなアナウンスで突き放される苛々パターンが多いのに、こういう要件の問い合わせ先は一瞬で生身の人間に繋がって、おーおー区別されてんな?なんて意地悪なこと思いつつ、電話の向こうのやたら丁寧&高めパウダリーな声色の男性に誘導されるがままに情報を提供。これ詐欺だったらカード情報全部筒抜けのやつやん?と若干不安になりながら。この丁寧かつ事務的な電話を以て、この落とし物カードは利用停止処理がされるらしい。そしてきっとカードの持ち主に「落としたでしょ?拾ったって連絡あって止めたから大丈夫だよ」の連絡をしてくれるんだと思う。(もし公共料金とか諸々の支払先にしてたら変更手続き面倒そうだな……そういうの一括で切り替えてくれるサービスあったらいいのに)

ちなみに私が拾ったカードはクレジットカード会社に返却しないといけないようで、後日我が家に返信用封筒を郵送してくれるそう。わたしの住所と名前を告げて、めちゃくちゃ丁寧にお礼言われながら受話器を置いた。嘘、スマホ。声高かったなぁ……そういうマニュアルなのかも。


そして数日後、返信用封筒が届いたから早々に処理を済ませて。ワルイモノを持っているわけではないけど、他人名義のクレジットカードを所持してるのはどうにもスッキリしないから手放せて本当にほっとした。クレジットカードにハサミ入れるの、何度やっても緊張する。ちなみにこの一連の流れで、私はカード会社から幾ばくかの謝礼をいただけるらしい。何が貰えるのかな。きっと商品券だろうけど、また報告するね。


そんなことよりもっと大事な報告を先に。
舞台のチケット!!!取れました!!!!!当選!!!!

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