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山口先生へ

新選組にハマったのは中学一年生の頃だった。
自由に使えるスマホもパソコンもなく、お小遣いだって少なかった当時、借りた本を読むことが唯一の楽しみで、足繁く学校の図書館に通っては好きな小説や気になる本を借りて読んでいた。

ある日、もうほとんど庭と言って差し支えないほど熟知しすぎていた図書館を歩いていると、一冊の本が目に入った。
『新選組の大常識』(ポプラ社/2003)だった。
恐らく近藤勇をイラスト化したであろう人物がこちらを睨むように表紙を飾っており、お世辞にも小中学生が読むようなものではなかった。(私の学校は小中連携校だった)

今でも「なぜあの本を借りたのか」と思うことが多いのだが、大して知りもしない新選組の、ワクワクする表紙ではない新選組の本を借りて、読みふけった。おそらく二、三回は読み返した。
返却期限を迎えるころには、もう新選組の魅力に取り憑かれており、ほぼ入れ替わりで司馬遼太郎の『燃えよ剣』を借り、池波正太郎の『幕末新選組』を買い、幕末に関連する本は読み漁り、尋常ではない量の知識を、瞬く間に付けていった。
現在色んなことのオタクをしているが、紛れもなく新選組に触れたことは自分のオタクの発現であった。

つい二年ほど前までは、ジャニーズにうつつを抜かしていた中学一年生のわたしは友達や両親に「新選組が好きだなんて、変わっているねえ」と言われていたのだが、それをすごく喜んでくださったのが、当時の社会科の先生である山口先生だった。

中学生の歴史ではほぼ触れられない新選組に興味を持ったわたしに、たくさんのことを教えてくださった。
購読されているであろう歴史の月刊誌の新選組特集の本や、学術的な本を与えてくださった。大学で教職課程を修了した今なら、その行動の凄さが分かる。多分、一般的には良くないと思う。

山口先生の歴史の授業を友だちはみんなつまらなさそうに聞いていたけど、わたしはすごく楽しかった。京都の伏見の話が出てくれば、先生は悪戯っぽく「な?和三盆、伏見と言ったら、な?」とニコニコ笑い、私も「鳥羽・伏見の戦いですね!」と答えていた。

中学二年生のときに、修学旅行で京都に行った。クラスメイトを乗せたバスが西本願寺の前を過ぎるとき、一番前の座席に座っていた山口先生はずっと後ろのわたしに向かって「和三盆!これが西本願寺だよ!」と声をかけてくださった。
フィールドワークで新選組の屯所である八木邸に行く自分を「たくさん見ておいで」と快く送り出してくれた。

その歳のわりには渋い趣味だね、と言われ、新選組のこととなると話し相手がいなかった自分の知的好奇心を伸ばしてくれたのは、紛れもなく山口先生だった。
あれから、九年くらいが経ってしまった。
山口先生とは三年前の同窓会以来会っていない。現在の赴任校も知らない。
元気でいらっしゃるだろうか。
相変わらず、上杉鷹山の言葉を引用して怒ったり、生徒たちが進むべき道を説いたりしているだろうか。

北海道大学に進学した中学校時代の同級生は、私が新選組を好きだったことを覚えていて、冬にメッセージもスタンプもなく、雪が積もった函館・五稜郭の写真を送ってくれた。

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山口先生、わたしはその後、近代にハマり、今は大学院で古代の文学研究をしています。
幕末は今でも好きです。
先生の記憶の中で、まだ「新選組が好きだった生徒・和三盆」の記憶はありますか?

いつかまた会えたら、今までのことを、そしてこれからのことをお話したいです。

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和三盆
普段は文系院生として過ごしているため、学費や資料の購入に回します✩゜*⸜(ू ◜࿁◝ )