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エッセイ: 少しでも生きやすい社会を作るには

※今回も、ショートショートではありません。最近考えていることを、エッセイという形でまとめたいと思います。

 今の日本は、どんどん貧しくなっていると言われています。色々な経済指標を挙げるまでもなく、普通に何十年か生きていれば、そのことは明確に感じられることでしょう。

 これには様々な要因があると考えられますが、中には政治家や官僚などの統治機構を批判される人もおられるかもしれません。確かに、今の日本の統治機構は数十年前と比べても明らかに劣化していると、私も思います。ですからそれも一因であることは否定しませんが、それだけではなく、今の日本が抱えている少子高齢化をはじめとした様々な社会問題はおそらく根本的な解決が不可能なものであり、そのことを悟った政治家や官僚たちが学習性無力感に陥ったり、まともな人たちがそのような成果の出しようのない仕事を避けるようになった結果、今の状況があるようにも思うのです。

 このことに関連して、私は以前、「個人主義の時代へようこそ」という作品を書きました。

 この作品を通して私が言っていることは極論だとは思うのですが、私はこの作品を通じて、個人主義が浸透して、「全体のために奉仕する」という精神を人々が失ってしまった今の世の中を、描写したつもりでした。ただ、この作品は「それでも仕方ない。自分は自分の人生を生きるしかないのだ。」という結論で締めくくられていますが、そこに関しては私自身、少し懐疑的ではあります。というのも、私たちの多くは個人主義の価値観のもとで生きているとはいえ、私たちの生活の基盤を支えているインフラとして、法治システムや貨幣経済という、国家権力の介入なしには成り立たないものも含まれるからです。どれだけ国家権力が劣化、腐敗しても今の生活が保たれるとは、さすがに私も考えてはいません。そこの部分は、補足させて頂きたいと思います。

 さて、少し脱線してしまいましたが、ここから先の議論は、今の日本が経済的に悪くなってきているし、これからもそれは続いていくだろう、という前提のもとに続けさせて頂きたいと思います。

 経済的な豊かさが失われると、心の余裕も失われる。そのことには疑いの余地がないでしょう。誰しも、低賃金で毎日不毛な労働を強いられ、娯楽や他人との交流を楽しむ暇もなく、ただ生きているだけの生活を強いられたら、辛いでしょう。しかしそれが、今の日本の若年層の多くに起こっていることなのです。

 これは社会問題のようなもので、おそらく解決の方法はないです。これからもそういう人たちは増え続けるでしょうし、そのことに関して政治を批判する方もおられるかもしれませんが、それも無駄でしょう。例えば裏金議員が問題になっていて、私もそれがいいことだとは思いませんが、実際のところ彼らが横領した金額は国家財政の規模から見れば点のようなもので、大勢に影響ないし、そもそも政府も私たちが考えている以上に余裕がないのが、実情だと思います。

 では、経済が良くなる兆しがない中で、物質的な豊かさを多くの人々が手に入れられる兆しがない中で、私たちはどのように生きていけばよいのでしょうか?多分、昔の人が思い描いていたような「幸せな生活」というのを追求するのではなく、他人に寛容になることで(すなわち精神面を変えることで)、「少しでも生きやすい社会」を作っていくことしかないのだと思います。

 例えば今の日本ではまだ、経済的に苦しい状況に置かれている人を、蔑む風潮があると思います。しかし、経済のパイが縮小する中で、「明日は我が身」と真剣に考えている人は、今現在、苦境に置かれている人を前にしても、蔑むことはないでしょう。そういう考えで生きている人が増えるだけでも、社会の生きづらさは少しは解消されるように思うのです。

 実を言うと、私自身が様々な理由から、人生のどん底のような状態を経験したことが、過去にありました。そのときに感じた他人からの視線は今でも忘れられないですし、他人からの「人助けの体裁をとったマウント」、「善意の皮をかぶった悪意」を、たくさん経験しました。私はそういう態度を取ってきた人たちを今でも許していませんし、社会の中に充満しているその類のものをなくしていくだけでも、救われる人がいるように思うのです。

 結局のところ、「人助け」なんて、そんな簡単なものではないのです。もちろん、本当に人助けができるなら素晴らしいことですが、多くの人はそんなことができる余力も覚悟もないわけですし、それなら苦境に置かれている人に対して、「俺ならこうする」とか、「俺についてきたらどうにかしてやる」とか、無責任なことを言うものではないのです。

 私にもとても、人助けをするような余力はありません。しかし、転落する人にもその人なりの事情があることはよく理解できますし、少なくとも傷口に塩を塗るような人間にだけは、なりたくないと思っています。

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