「メロドラマ」を聴きながら
私は車の運転が好きだ。決して上手ではないけれど。閉じた空間の中で、好きな音楽を聴きながら、あれこれと思いを巡らせる。
最近のプレイリストの中の一曲。「助手席」という言葉に、取り留めもなく、他愛のない思い出が広がっていく。
父の車の助手席にいつも陣取って、変わっていく風景を眺めるのが大好きだった。
いつだったか、父が友人から借りた外車に乗せてもらったことがあった。いつもとは逆側の助手席からの眺め。不思議な感じがしていた。見慣れているはずの街の大通りが、違って見えた。少し雨が降っていて、夜の街灯がきらきらしていた。
かつて、一緒に過ごしたあの人。彼の愛車は左ハンドルだった。もうその頃は自分でも運転するようになっていたから、彼の助手席に座っていると、自分で運転している眺めなのにハンドルがなくて、慣れるまで妙な感じだった。楽観的で鷹揚な彼は、よく笑っていた。
父も彼も、今はもういない。
でも、大切な人。大切な思い出。
私は手をのばして、「メロドラマ」をまたリピートする。