迷物講師が「民法」に目覚めた時のこと
今回は、「迷物講師(小口忍 )の言いたいこと」からの記事です。
音声ファイルも初めて投稿してみましたので、良かったら聴いてください。
司法試験の勉強をしながら、宅建の非常勤講師等をしていました
私は、昭和59年頃から平成2年頃まで、司法試験の勉強をしながら、バッタ屋(よく言えば雑貨販売業)、タクシー運転手、宅建の非常勤講師などを掛け持ちしていました。
A先生の司法試験受験者用の某ゼミナールがすごかった
当時新宿にあった司法試験受験者用の某ゼミナールに入れてもらってから、ガラリと変わりました。
特に、A弁護士にゼミ形式の講義をやってもらうようになってから、民法に目覚めました!
目からウロコを人生で初めて体験した瞬間でした!
A先生の講義
あるとき、10人程いたゼミ仲間にA弁護士が問題を出しました。
(A先生)
旨いラーメン屋があったのでラーメンを食っていたら、そこのオヤジの過失で調理場から出火してヤケドを負ったんだよ。小口君、この場合、ラーメン屋のオヤジの債務不履行責任を問えると思うかい?
(わたし)
それりゃ問えますよ。オヤジの過失で調理場から出火したんだから…。
(A先生)
…ニヤニヤしながら…じゃ聞くけれど、この場合のラーメン屋のオヤジの債務は何だよ?
(わたし)
それはですね、旨くて衛生的なラーメンを客に食わせることですね。
(A先生)
俺もそれには異論がないよ。
じゃ、客をヤケドさせないで店から出すのは、ラーメン屋のオヤジの債務だと思うかい?
(わたし)
鉄道会社の運送契約だったら、客をケガさせないで目的駅まで無事運ぶことが債務の内容になることは明らかだと思うんですが、ラーメン屋の場合は、ヤケドさせないで客を店から出すことまでは、債務の内容じゃないように思えてきました。
(A先生)
いい線いってきたな!俺も小口君と同じに思うよ。ラーメン屋のオヤジの債務は、あくまで旨くて衛生的なラーメンを客に食わせることだよね。
(わたし)
ということは、客をヤケドさせないで店から出すのは債務の内容ではないですね。そもそも債務不履行は、債務の内容を履行しなかった場合の責任ですから、債務の内容でないものに債務不履行責任は問えないという理屈になりますね。
(A先生)
小口君は、この間宅建に合格したんだよな?
(わたし)
ええ、どうにか。
(A先生)
宅建業法では、契約前にお客さんに重要事項の説明を義務づけているよね。
じゃ聞くけど、宅建業者が宅地の売主になって、お客さんに自社物件を買わせようとする場合に、重要事項の説明義務に違反して、契約締結の判断に重要な影響を与える情報を、お客さんに提供しなかったんだよ。そのために、お客さんが契約を締結したことによる損害を被ったとする。この場合、お客さんは宅建業者に債務不履行責任を問えると思うかい?
(わたし)
えへへ!先生の言いたいことが分ってきました。宅地の売買契約で、重要事項の説明義務を果たすことが債務の内容になっているかの問題になりますね。
私は、宅地の売買契約の売主の債務は、宅地の引渡しとか登記が主だと考えますので、重要事項の説明義務を果たすことは、債務の内容になっていないと考えます。重要事項の説明は行政上の規制で、当事者の合意に基づくものじゃないからですね。したがって、上の事例では、お客さんは宅建業者に債務不履行責任を問えないと思います。
せいぜい問えるのは不法行為責任だけですね。
(A先生)
…うなづきながら満足そうな表情…
民法で出てくる、「債務不履行責任」ってどういうこと?
平成24年度宅建試験問8の肢1は、こんな問題でした。
「AがBと契約を締結する前に、信義則上の説明義務に違反して契約締結の判断に重要な影響を与える情報をBに提供しなかった場合、Bが契約を締結したことにより被った損害につき、Aは、不法行為による賠償責任を負うことはあっても、債務不履行による賠償責任を負うことはない。」
この問題の結論はマル(正しい)です。
今日書いてきた(A先生)と(わたし)のやりとりをご覧になれば、結論がマルの理由がお分かり頂けると思います。
有名予備校や有名講師でも、ここの理由付けを誤解して「契約締結上の過失」なんて難しい話に無理に引っ張って受験者を混乱させているようなので、書いてみました。プロにも参考にして頂きたい記事です。
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