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MAD SOXⅡ ~世紀末ヒャッハー会計士伝説~  VOL.5 内部統制狂騒曲 その①

【この記事は事実を題材にしたフィクションです。特定の個人・団体とは関係ありません】

2006年8月末 日本

関東地方某所

素材メーカー「萬事浮利マテリアル社」工場の社長室

「経理部の工場労務者入ります」

「工場労務者君が入社して2年になるか。当社の居心地はどうだ?」

「ネクタイ無し、作業着着たまま自動車通勤できて食堂は158円で満腹、金が貯まって工場労務者最高ッス!」

「それはよかったが・・。実は親会社でグループ企業の社長対象に経営コンサルのレクチャーがあったんだが、かなり面倒な話で脅されてな。その講師の肩書に、たしか君の履歴書で見たスパイ?みたいな資格があった。その件で君に意見を聴きたいと思っている」

「スパイというと、『CIA』?」

「そうだ。その他、いかにも『内部統制のプロです』の資格」

「プロというのは違うと思いますが、『内部統制評価指導士』?CCSAとも言います」

「名刺交換したので・・・・・っと、確かにそうだ。CPAを筆頭に、CIAとCCSA。それにしても、何で君がそんな資格持ってるんだ?」

「前職の親会社『伊達巻製作所』監査室に修行という名目で(懲罰)出向をさせられまして、その時に取りました」

「監査室は全員持っているのか?」

「いえ。監査室は伊達巻製作所で役員になり損ねた人が系列会社の役員に降りていく前の(1~2年を役員になれなかった鬱憤晴らしで過ごす)場所です。積極的にCIA資格を取ろうとする人はいないです。私の場合は室長命令の『自腹取得』です」

「なぜウチに移ったんだっけ?」

「私の所属会社の『伊達巻インターナショナル』が伊達巻グループ再編で外資ファンドに売却されまして、戻るはずの工場に巨大ショッピングモールが建設されて止む無くリストラ受諾です」

「わかった。『内部統制システム』と『J-SOX』について知っているか?」

「内部統制に『システム』を付けた意味が不明ですが、いずれも米企業統治法の日本ローカライズとして認識しています。J-SOXは制度化されたのですが、肝心の『内部統制監査実施基準』の公表が遅れているので、文書化の内容が明確にならないのが問題です」

「話が早い。萬事浮利グループ全体で『J-SOXプロジェクト』を立ち上げることになった。コンサルが言うには『内部統制』がないと話にならん、早急にコンサルを入れて内部統制を作るべきと力説されたのだが。そういう物なのか?」

「『内部統制』の無い上場企業はいま現在でも存在しないし、将来も存続し得ません。それはコンサルのブラフです」

「本当に大丈夫か?」

「『内部統制』は、もともと会社にある『制度』・『組織』・『方法』および『手続』、当社で言う『BR(BUSINESS RULE)』などの規則で定められたルールです。既に存在するもので、新たに作るものではありません。強いて言うならば、『再構築』でしょうか。それでも天地がひっくり返るほど大騒ぎをするものではありません」

「わかった。さっき『CCSAは内部統制のプロとは違う』と言ったが、どういう意味かな?」

「単純に日本語名称の付け方がミスリードを招く物だったということです。日本名をそのまま読むと『内部統制の評価を指導する資格』、いかにもプロっぽいですが、英文名称は、『The Certification in Control Self-Assessment』、直訳すると『内部統制の自己評価に関する証明』です。その意味するところは『内部統制の評価は中身を良く知らない他人が行うのでなく、そのプロセスを実行する部門が自らワークショップ形式で行うのがベスト』だが、内部統制の意味を知らないと議論が明後日の方向に行きかねないので、『内部統制を理解した者がワークショップの自己評価の議論の司会』をおこなうことでより妥当なものとなる。その司会者としての技能認定がCCSA。つまるところ『内部統制の自己評価に関する議論の司会者としての技能認定』が日本名としては妥当だと思います。試験内容もプロからは程遠いものでしたし」

「わかったような、わからんような・・。試験は難しいのか?」

「なんというか、内部監査人協会の資格はCIAも同様で、ビジネススクールのケーススタディを択一問題にしたような、手応えが無いというか、ワケわからん問題を延々解かされて精神を削られました。正直なところ合格ラインから何点マージンがあったのか全くわかりません」

【続く】

※内部統制評価指導士(CCSA)は、公認リスク管理監査人(CRMA)資格に統合されたが、2018年12月14日までに初回受験申込をした場合は2020年12月31日まで受験可能だった。
 なお、CCSA試験の日本における最終合格者総数は599名(日本内部監査協会2020年度事業報告より)。
また、統合されたCRMA資格の日本における合格者累計は165名(日本内部監査協会2023年度事業報告)。2019年度の同152名に対して13名の増加にとどまっている。
つまるところは・・・・CCSAホルダーはJ-SOX騒動時の内部統制コンサルが大多数を占めるということだろうか?

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