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『マーケティング「つながる」思考術』連続講座⑪マーケティングのリアルを理解しよう~日常的に買う商品はどう売れる?~

マーケティングの理論やフレームワークはあくまで、「人間が買い物する際の思考や行動」を法則化したものに過ぎません。だれだけ学んだとしても、そこに「リアリティ」がなければ現実味のない戦略を描いてしまう危険性があります。

今回の記事では、「最寄品(日常的に頻繁に購入される商品)」をテーマに日常生活を例にして理論やフレームワークを「リアリティ」を帯びた実務に活かすための考え方を解説します。

こんな人におすすめ

  • これまで学んだことをどのようにマーケティング戦略に落とし込むかを学びたい方

  • 購買行動と理論の結びつきを学び、マーケティング戦略づくりの基礎を身に着けたい方

  • 自分自身が行っている購買行動を抽象化して考えるための考え方を知りたい方


売上へ到達する山の登り方

マーケティングの目的は、「お客さまに買い続けていただく事」です。そのためには、適切な課題に対して適切な処方をする事で課題を解決していく事が重要になります。

また、売上は「トライアル売上」と「リピート売上」2つで構成されています。同様にマーケティングにおける売上の山は、「最寄品」と「専門品」の2つの山に分ける事ができ、それぞれの山の頂上へ向けてのルートは異なります

下図のC/Pバランス理論にあるように、リピート売上に最も影響するのは商品・サービスのパフォーマンスです。リピート売上については、商品・サービスに一定満足してもらえているという前提で、リピート売上を促す考え方を解説していきます。

最寄品の主要ルート①:トライアル売上

まずは、売上の地図を用いてトライアル売上につながるルートを解説します。

「カテゴリーエントリーポイント」つまりニーズが購買活動の起点になります。その際に、ニーズに応えられるパーセプション(認識)が形成されている商品・サービスのグループに自社の商品・サービスをいれ、真っ先に想起されるほど売上に直結しやすいメンタルアベイラビリティを構築できていると言えます。

また、売上に大きな影響を及ぼしているのが「売り場」、つまりフィジカルアベイラビリティです。最寄品は特にフィジカルアベイラビリティの影響が強く、買いたい時に買える状況でなければ、容易に競合に売上を奪われてしまう事があります。また、多くのお店に配荷されることに加え、お店の中でより目立つ場所や広い販売面積を獲得する事が重要です。

想起(メンタルアベイラビリティ)と売り場(フィジカルアベイラビリティ)が売上につながる大きな変数であり、想起を高めるためにはプレファレンスを高い状態にする必要があります

プレファレンスを高める要素は、「価格」・「ブランド・エクイティ」・「製品パフォーマンス」の3要素ですが、トライアル売上においては製品パフォーマンスを評価できる状態になく、ロイヤリティが形成されているケースも稀です

そのため、トライアル売上においては「価格・「ブランド・エクイティ」が強く影響します。特に、最寄品は価格の増減がプレファレンスに強い影響を与えます(価格弾力性が高い商品カテゴリと言えます)

また、「ブランド・エクイティ」に影響を与えるのがPESOメディアで、最寄品の場合はヒューリスティック処理(直感的)で手に取られるため、検索はほとんどされません。そのため、オウンドメディアは重要性が高くなく、そのほかのペイド・アーンド・シェアードメディアが主に考えるメディア戦略です。

トライアル売上の構成要素

トライアル売上を構成する要素は下図の通りです。

グレーになっている「人工」と「購入個数」はアンコントローラブルな要素のため直接マーケティングによって干渉できません。最寄品の場合は「想起率」と「配荷率」をできる限り高めることが求められます

最寄品の特徴を理解する

購入頻度が高い最寄品は、価格が安く、失敗したと感じるリスクは低いため、関与度は低くなります。比較検討はほとんど行われず、レビューも見ずにほとんど考える事なく衝動的・直感的に買う商品・サービスを決定します。

カテゴリーエントリーポイント(CEP)の注意点

想起の入り口となるCEPですが最寄品の場合は注意が必要です。なぜなら、ほとんどの最寄品はCEPが限られていることがほとんどだからです。自社の商品・サービス(最寄品)において「まだ見つかっていないCEPを見つけ出そう」と考えるのは危険です。

最寄品における真実の瞬間

最寄品の場合、ZMOTにもっとも影響を与えているのは広告です。最寄品を製造する企業は利益を出すために販売数が必要なため、ターゲットは限定せず広くあまねく知ってもらうためのマス広告の重要度が高いと言えます。

FMOTは左右の軸(理性的か情緒的か)によって異なります。左は「良いか・悪いか」と「(競合と比較して)安いか・高いか」で、右は「好きか・嫌いか・無関心か」で比較されやすくなっています。

ZMOTには「思い出してもらうまでのZMOT」と「思い出してもらってからのZMOT」が存在します。最寄品の場合は、FMOTに至るまでに比較検討に時間をかけないため「思い出してもらってからのZMOT」が存在しません

買回品・専門品と比べるとクチコミの重要度は高くありません。期待・意向や報告のクチコミがSNS上に多くある状態を作ると店頭で想起されやすくなる事が期待できます

最寄品の戦略立案時には、いかに広告を中心に有利なZMOTを獲得し、想起されやすい状態で店頭に来てもらうか(そして店頭に配荷されているか)が重要なポイントです。

マーケティングコミュニケーションファネルマップでみる「打ち手」

最寄品の場合は広くあまねく知ってもらえていること、買い求めやすい状態になっていることが重要なため、施策の選択肢は多くありません。基本的には、おさえておくべき施策を徹底的にやり切る事が重要です

「ブランド・パワー」で最寄品における重要指標を理解

知ってもらえているか(助成想起)、興味関心を持ってもらえているか(純粋想起に入っているか)、買ってもらいやすい状態にあるか(想起集合に入っているか)の3点をメディア戦略(特にペイド・アーンド・シェアード)によるインプットでバランス良く高めていく事が重要です

最寄品の主要ルート②:リピート売上

リピート売上の構成要素

最寄品は、買回品・専門品と違い購入頻度が高く想起されるものが異なりやすいため、再想起率を下げない事が重要です。そのため、トライアル売上を上げるための想起を上げる施策がそのままリピート売上を高めるための施策にも直結しています

最寄品の真実の瞬間(トライアル売上後)

最寄品のSMOT・TMOTによる評価は、関与度が低いためあっさりしている事がほとんどです。

最寄品のリピート売上においては、顧客の離反に注意

多くのブランドにおいて、ブランド間で顧客のスイッチは一定数行われます。(一定割合ではなく一定数)

そのため、シェアが低いブランドほど顧客のほとんどがスイッチするため、既存顧客のみ(リピート売上の獲得のみ)に注力するマーケティングコミュニケーションに偏重するのは危険です。
「トライアル売上」と「リピート売上」の両輪が必要であることを理解しましょう。

また、ブランドスイッチが起こりやすいのは店頭ですが、ECの普及により商品カテゴリによってはそもそも店頭に行かずに購入を済ませる消費者も一定数いるため他社からのブランドスイッチの機会も少なくなっていることを理解しておきましょう。

まとめ

  • 最寄品は購入頻度が高く、価格が安い商品・サービスのため低関与で購入はヒューリスティックに行われる

  • 最寄品を販売する際は、利益をあげるために「とにかく多くうる」ことが求められる。そのため、広くあまねく知ってもらうことと、多くのお店に置いてあり買い求めやすい状態を作ることが重要である

  • 最寄品のばあい、トライアル売上とリピート売上を上げる施策の違いはほとんどなく、想起率を高い状態に保つ事が不可欠

  • 最寄品を購入する際に比較検討を念密におこなうことはほとんどなく、4つの真実の瞬間における評価はあっさりとしたものであり、クチコミも行われる事が少ない。

  • 顧客の離反はどのブランドでも避けることはできず、既存顧客に向けた施策に偏重することはリスクが高いことに注意する

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