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壺焼き芋事件

26歳で起業してお米屋さんを始めたのですが、全く売れない時期が続きました。

最終的には倒産したのですが、売上を伸ばす為に僕なりに色々と挑戦しました。その暗黒史の一つに"壺焼き芋"があるわけです。

その名の通り【壺でさつまいもを焼く】という斬新な焼き芋。当時の大阪市西成区では当社だけだと思われる取り組みかと。

壺焼き芋の様子

構造は壺の下に練炭を入れ、その熱で芋を焼きあげる至ってシンプルなモノ。売れると思い込んで、お金も無いのに、決して安くはない壺を二つも購入するところに、商売のセンスの無さを感じます。

燃料の練炭を店の奥に大量に積んでいたので、火事になったら当店が一番よく燃えた事でしょう。

山積みの練炭

市場から美味しいと噂の安納芋(あんのん)を仕入れ、壺で焼き販売を開始したのですが、これがまた売れない。どれくらい売れないかと言うと10本焼いたのに、店を閉める頃に干からびた芋が8本残ってる状態。1本は僕が昼飯代わりに食べて、もう一本は焦げて売り物にならない。

要するに一本も売れないのです。

疑い深い西成区の庶民は、壺で焼かれた高い焼き芋に食いつかない。調整が難しいのが、焼き上るまで30分もかかるから、咄嗟に用意することができない。

『あー無いの?買おうと思ってたのに』と口にする化粧の濃いおばさんがたまに現れるから、そのおばさんの為に焼いて待ってると、その日に限って現れない。今考えると売れ無さすぎて幻想を見ていた可能性もある。

目の前にあったコロッケ屋さんは大繁盛で人が絶えないのに、当店の壺には誰も近寄って来ない。

余った芋を捨てるわけにもいかないから持ち帰って、家族とか母親とか友達とかにあげるのですが、最初は喜んでいた人たちも3日続くと明らかに迷惑そうな顔をして、4日目には経営を心配をされる様になる。

そりゃそーです。僕だって逆の立場なら心配にする。

仕方なく近所の公園の鳩に食べさせると言う強行手段に出たのですが、これがまた鳥たちが異常なほど食べる。

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良い芋だけに食いつきが違う。チュールの比じゃない。

隣でパン屑をあげてるおじさんとか、鳩からほぼ無視されてましたから。鳩に雀に、見た事ない鳥まで数種類混ざって、鳥使いみたいになってましたもん。

3日続けると鳥の方が僕のことを認識し始めて、すげー数の鳥たちに出待ちされる事態になってました。

これがまた怖くて、違う鳴き声が混ざって公園の中に響き渡るんです。

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一週間後、公園の入り口に

『鳥にエサを与えないでください』

の看板がブッ刺さってました。

たぶん西成区で最初の"エサ禁止条例"だったと思います。

悪意は全く無かったので許して欲しいのですが、それ以降、焼き芋を焼くのも食べるのもやめました。

食べると思い出して涙が出るからです。

壺は最終的に、ちょっと暖かい暖房器具と化してました。

失敗って大事ですよ。

ひろのぶ

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