テラちゃん
箸が転んでも面白くて毎日毎日笑いに笑いまくっていた高校生活。そんな日々に終止符を打たねばならぬ日がそっと近付いてきた。
卒業式。。。青春とのお別れである。
そんなある日、
『卒業式のあとに謝恩会があるのですが、何かやりたい方いましたら企画者に申し出てください!』
ふーん…
目立ちたがり屋のくせして恥ずかしがり屋の自分は人前に出て何かをすることが苦手なので全く興味が無かった。周りはグループでお笑い、バンド、アイドルの催しをやりたい子たちでわんさか盛り上がっていた。
そんな時に、
ぴーちゃん物真似したら?
なんて誰かがそっと囁いてきた。
なるほどね…
いや、無理無理!!!
すぐに自己解決した。
まぁ…興味はあるが…とにかく人前に出たくない。いつもみんなの前で物真似をしていたくせにいざ舞台上で一斉に注目されたら何も出来なくなってしまうような人間だ。それでも私の先生物真似は友達の間でも有名だった。
歩く職員室とも呼ばれていた
そんなある日、突然一人の友人が私のところにやって来た。
それが〝テラちゃん〟だった。
『ぴーちゃん!物真似やるの?!なら私もやりたい!』
やるとも言っていない、声もかけてないのに勝手に立候補してきたのだ。
『待って、待って、待って。まだやるかどうかもわからないし。』
と言うと彼女は
『私はえなりくんの物真似ならできるよ!』と精一杯私に渡る世間は鬼ばかりのえなり君の物真似を披露してきたのである。
全くもってお話にならない。
『却下却下!』
それでも彼女は引き下がらないので私が〝もしも〟謝恩会で物真似をやるとするならばこのようなコンセプトで披露をしたい。と彼女にわかるように説明をした。すると彼女が…
『あ!それなら◯◯先生と似た洋服をお母さんが持ってるんだけど洋服やメイクも似せて真似してみたらどう?!』
彼女のその一言に頭の中でピコンと音が鳴った。
『…なるほど…しかし二人で着替えもして何人もやる時間あるかなぁ…』
『確かに…』
そうだ。ビデオ撮影にしよう。
ビデオなら本番に着替える必要も無く、更にリアルに教室で撮影もできるし、全て編集してスクリーンで流したらそれが一番だ。
更に恥ずかしがり屋の私には持ってこいだ!!!
よくわからない謎の女子2人組(実に謎な組み合わせ)の元に更なる謎女子2人組がやってきた。
『私たちビデオ回そうか?』
ってまた勝手に立候補をしてきたのだ。
あまりにも地味で華やかではない面子が4人も揃ってしまった…。
そこからは謎の4人組で作戦会議が始まった。まずはどの先生を誰がやるか。どの教室でどんなシチュエーションで、どんなセッションさせていくか。考えるのがあまりにも楽しすぎた。
始まりは私の大得意の教務主任の先生からのスタート。その先生がいつも居る進路相談室に行き撮影アポを取り、私は先生のお面を装着して教務主任お決まり文句で始まる挨拶で喋り出しスタート。
進路相談室のお姉さんが必死に笑いを堪えながら撮影を見守ってくださった。
撮影が終わるとその次は校長室に行き校長先生に直談判。
校長室をお借りした上に『すみませんが偽教頭先生をやりますのでそのあとに校長先生も出てきてセッションしてください。』と本物の校長先生に巻き込み事故を食らわせる。
そして学校で一番〝オサレ〟な先生が居た。その先生のトレードマークは救命胴衣のようなオレンジ色のベストだ。
テラちゃんは母親が同じようなベストを持っていたのでどうしてもその先生の真似をしたかったのだ。
しかしそれをネタに真似できるような先生ではない。なかなか厳しい先生だ。誰も触れてはならぬ案件に触れようとしている。怒られたら一貫の終わりだ。
かなりリスキーな案件である。
それでも我々は勝負に出ることにした。テラちゃんが救命胴衣を着るなら…
私も大得意の鬼のように怖い学年主任の物真似をしよう…
ということで、テラちゃんはひっつめお団子にメガネをかけて救命胴衣にモンペのようなズボン。
私はニットに膝丈タイトスカートにアームカバーを装着(必須)
オサレな先生に風紀に厳しい学年主任がファッションチェックをするという世にも恐ろしいセッションを家庭科室にて実行することにした。
なんせシュールで酷い光景。ビデオを回す女子二人が何度も吹き出してしまっては撮り直す始末。
全然撮影が進まない。
テラちゃんがあまりにも装いが完璧で演技力が完璧で私も学年主任スイッチを入れないと途端に吹き出してしまう…
まさかこんなにもテラちゃんの余興のクウォリティがハイレベルとは最初は思いもしなかった…
それからも容赦なく我々は突き進んだ。学年の担任の先生全員からのメッセージを貰うのと同時にドッキリを仕掛けていこうという案件。
テラちゃんの更なる挑戦が始まった。
30代ギラギラで日焼けした浅黒いB組の担任に目をつけた…すると…
私黒塗りする!
全員『((((;゚Д゚)))))))』
こうして我々一同は合同教室に集合しテラちゃんに特殊メイクを施すこととなる。顔を茶色に塗りあらゆる顔の線を描いてどんどん本人に近づけていった。
笑ってもう直視できない。
更に我々はいつも先生が愛用しているナイキのナップサックを貸してほしいと事前に先生にお願いをした。
そしてテラちゃんは先生に似た装いに着替えた。
ナイキのナップサックを装着したテラちゃんはどこからどう見てもB組の担任だ。
とにかく我々はテラちゃんを隠すようにして中庭まで出ていきB組の担任の先生を呼び出してメッセージを貰うことに。
先生はカメラに向かって若干格好つけて清ました顔をして話をしている…
まさか背後から偽物が来るとも知らず…
テラちゃんが後ろで屈伸をしたのちにこちらに向かって走ってきた。中庭を駆け回り先生の背後に現れそのままカメラの前を横切った!!!!!
先生『( ˙-˙ )』
我々『お疲れ様でした。ありがとうございました。』
テラちゃんは大優勝した。
その後もいろんな無茶振りを繰り返し先生たちを驚かせ怒らせ笑わせてようやく完成した一本のビデオ。
自分たちが想像していた以上の作品となった。
謝恩会当日がやってきた。出場するメンバーは華やかな衣装を着て賑やかに楽しそうにスタンバイしている。
そんななか、私とテラちゃんは普段通りの制服を着たままビデオ一本だけを握りしめて待機していた。
突然どうしようもなく二人で不安になった。
『どうしよう…みんなが笑ってくれなかったら終わりだよね…』
『やだ…それただ恥ずかしいだけじゃん…みんな笑ってくれるかなぁ…緊張してきた…』
私たちは息を潜めまて隅で順番が来るのを待機した。
華やかなダンスやお笑いなどの出し物で会場中が盛り上がる度に我々は首を絞められているような気分になった。
そしてようやく自分たちの順番が回ってきた。
私は司会者の子からマイクを渡されテーマを説明することとなる。
『私たちは…先生の物真似をやらせて頂きました。今から映像を流しますのでスクリーンをご覧ください。』
会場中がザワついた。。。
ついにこのビデオを再生する時がやってきた。
再生するとスクリーンには教務主任に扮する自分がドアップに。
『はい、じゃあ話をやめて先生の方を向いて。』
その瞬間…
会場大爆笑
『皆様、御卒業おめでとうございます。今からね、この二人が先生たちの物真似をやってくれるからね。ちゃんと姿勢を正して見てください。はい、ではVTRスタート。』
会場大爆笑
テラちゃんと二人でみんなが笑ってくれたことに手を握り合って喜んだ。
そしてテラちゃんの見せ場の救命胴衣先生と私の学年主任のセッション…
これは…怒られる…怒られるぞ…
覚悟をした…
しかし会場大爆笑
みんな涙流して笑ってくれた…体折りたたんで笑ってくれた
何より先生たちが一番笑ってた。若い新任教師が笑ってはいけないのを必死に堪えて笑ってたのが一番記憶に残っている。
担任の先生たちからのメッセージもドッキリを仕掛けたもののそれでもやはりみんな喜んで感動してくれたのが嬉しかった。
よくわからずに始まった物真似オンパレードの催しは思わぬ形で大盛況となった。
私一人では到底出来なかった。
あのビデオはテラちゃんが居てこそ出来上がった作品だし、ビデオを回してくれた二人が居てこそでもあった。
巡り合わせって面白い。ヒョンなことから一緒になってその化学反応が想定外に大きなことを生み出すことがたまにある。アレはまさにそれだった。
人生は不思議で楽しい。
今でも思い出して涙流して笑える話って人生においても数えられるほどのことしかない。
楽しい思い出は悲しい思い出に上書きされてしまうから。
それでも消えることがない楽しかった記憶、その一つが私にとってはテラちゃんとの謝恩会の思い出だ。
忘れられない記憶を文面に残しておきたいただその一心で今回私の忘れられない思い出をここで書かせて頂きました。
皆様にも人生における楽しくてハッピーな出来事が一つでも多く降り注ぎますように。。。
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