カルト勧誘と高額献金【チャペル】
《はじめに》
名古屋学院名古屋高校のチャペルで話したメッセージ部分のみをUPしています。購入しなくても全文読めます。
《聖 書》 ルカによる福音書21:1〜4
日本聖書協会の「ホームページ等への聖書の引用について」に基づき、聖書の引用を適切な範囲内で行うため、聖書箇所のみ記載しています。該当する聖書箇所を「聖書本文検索」で「書名」と「章」まで入力し、「節」入力を省略すれば、章全体を参照できます。
《メッセージ》
貧しいやもめが、乏しい中から持っている生活費を全部献金した話……それが、先ほど読まれた聖書箇所でした。やもめというのは、夫に先立たれた女性のことで、聖書に出てくるユダヤ社会では、女性が働ける職もなければ、生活保護もありませんでした。神殿で全財産をささげた彼女は、食べ物も飲み物も買えず、放っとけば飢え死にしてしまいます。
似たような状況が、破壊的カルトのもたらす高額献金によって生まれてきます。「献金しなければ地獄に落ちる」「献金すれば、亡くなった家族が天国へ行ける」……不安と恐怖をあおって、何百万、何千万、人によっては何億円も献金させ、貯金がなくなるどころか、借金するまで追い詰めます。信者が生活に困っても、カルトは面倒を見てくれません。
そして、キリスト教系の宗教カルトは、こういう聖書箇所を引用して、貧しい人にも、できる限りの献げ物をするよう求めます。レプトン銅貨2枚と言えば、現代の日本の価値で言えば、100円か200円くらいです。それでも、その人にささげられる全てをささげれば、信心深さが認められ、神様に救ってもらえます!……というふうに。
でも、聖書に出てくる「やもめの献金」は、信徒に全財産をささげるよう、勧めている話なんでしょうか? イエス様は、彼女のように、他の人たちにも、持っている生活費を全部入れるよう求めたんでしょうか? よく見ると、そんなことはありません。イエス様は、人々に彼女を見習うよう、真似するよう、言ったわけではありませんでした。
生活費を全部献金した女性に、「あなたの信仰は立派だ」と言って、何か奇跡を起こしたわけでもありません。イエス様はただ、「この人は乏しい中から持っている生活費を全部入れた」とみんなに知らせているだけです。彼女のプライバシーを侵害しているようにも見えますが、イエス様はなぜ、こんなことをしたんでしょう?
おそらく、イエス様が彼女のことを話すまで、周りにいた人たちは、やもめの生活状況なんて、気にも留めていなかったでしょう。その人が夫に先立たれていることも、全財産が、レプトン銅貨2枚しかないことも、外からは分かりません。たった2枚しか賽銭箱に入れないなんて、ケチな人だな……くらいに思われていたかもしれません。
しかし、イエス様が「この人は乏しい中から持っている生活費を全部入れた」と告げた瞬間、状況が変わります。彼女の周りに人が寄ってきます。「今の話本当?」「食べ物も飲み物も買えないの?」「今夜泊まる所はちゃんとある?」やもめの困難を知った人たちが、彼女を支える隣人に変えられます。それこそが、イエス様の求めた共同体のあり方です。
一方、破壊的カルトの高額献金は、献金する人の生活を無視します。その人が借金しようが、家族が困ろうが、精一杯ささげるよう求めてきます。病気の症状が悪化したり、怪我をしたり、家族に何か不幸が起こると、「精一杯献金しなかったからこうなった」「自分から喜んで献金しなければ」と思い込むよう、思考パターンが作られます。
もちろん、最初から、そのように教えられるわけではありません。出会ってまもなく、「献金しなければ地獄に落ちる」「喜んで献金しないと救われない」なんて言われたら、誰だって怪しんで、それ以上近づかなくなります。詐欺師が詐欺師だとバレないよう、普通の人を装って近づくように、破壊的カルトもカルト勧誘とバレないように近づいてきます。
よくある事例として、フォロワーが実はカルトでした……というケースがあります。皆さんの中にも、InstagramやXなどのSNSを利用している人がいるでしょう。高校3年生だと、推薦が決まったり、入試に合格したりすると、自分のプロフィール欄に「#春から○○大」とつけるようになるかもしれません。
ある破壊的カルトのメンバーは、大学に合格したばかりの新入生をターゲットに、こういったハッシュタグで検索をかけます。そして、ヒットしたアカウントの投稿に、「いいね!」やコメントをつけて、徐々に印象を良くしていきます。共通の趣味や話題があれば、それについてやりとりしたいと、フォロー申請やDMを送り、どんどん仲良くなるんです。
そして、こちらの警戒心がなくなった頃に、非公開のLINEグループやFacebookグループに誘導し、他のメンバーで囲い込んで、カルトのイベントやサークルへ連れていくようになるんです。ちなみに、多くの破壊的カルトは、ダミーサークルや、フロント組織を持っており、組織の母体を隠しています。
たとえば、ボランティア団体やSDGsの勉強会、英会話教室や就活セミナー、映画研究会や異文化交流会など、誘われてすぐ、入ってすぐには、カルト傘下の団体だと分からないところがほとんどです。生徒や学生を勧誘するため、学校の教師が利用されることもあり、教職員の中にも、知らずに、こういった集会やイベントへ参加してしまう人がいます。
たとえば、「基本的人権を考える○○フォーラム」という集会や「信教の自由を守るための勉強会」といった名前で、参加を呼びかけられたり、賛同を求められたり、講師に呼ばれたりする人がいます。引き込まれた教師が、そこにいる人たちを「みんな真面目で良い人たちだ」と感じると、生徒や学生も誘われやすくなってしまうんです。
注意してほしいのは、カルトに勧誘してくる人たちは、悪い人ではなく、良い人です。良い人だからこそ、騙されて、コントロールされて、嘘をついてでも、皆さんを救おうと一生懸命勧誘します。「良い人だからカルトじゃない」とは言えません。むしろ、「良い人が、被害者が、加害者に変えられる」のがカルトなんです。
そして、加害者に変えられていく人を助けるためにも、「勧誘を成功させない」「勧誘を断る」ということが大事になってきます。なぜなら「話を聞いてくれた」「誘いを受けてくれた」という体験は全て「組織の言うことを信じたから、リーダーの言うことに従ったから成功した」という思考へ変換され、コントロールの強化を手伝うことになるからです。
もし、自分が興味のある、イベントや集会に誘われたら、必ず、どこが主催で、どんな背景のある団体か、調べるようにしてください。カルトのダミーサークルやフロント組織は、ころころ名前を変えることも珍しくないので、検索しても出てこない団体や、何度も名称変更しているところ、主催が不明瞭な集会には、安易に参加してはいけません。
これは、生徒も、教師も、保護者も同じです。実は、破壊的カルトのメンバーが、単なる先輩や後輩、サークル活動を装って近づき、正体を明かすまで、半年から一年以上かけることも珍しくありません。完全に信頼されてから、離れ難くなってから、ようやく正体を明かしてきます。
「最初から、宗教だと明かしたら、不安にさせると思って伏せていた」「本当に信頼できると思った人だけに、本当の正体と目的を知らせている」すっかり相手を信用してからそう言われると「騙されていた」とは考えられず、かえって「自分は信頼されている」「大事な秘密を明かしてもらえた」と嬉しくなり、疑いを持てなくなってしまうんです。
ちなみに、破壊的カルトは宗教団体に限りません。過激派・テロ組織などの思想政治カルト、マルチ商法や信者ビジネスなどの商業カルト、自己啓発セミナーや自称カウンセラーなどの心理療法カルト、スピリチュアルやニセ科学などを用いるミニカルトに加え、霊感商法・霊視商法を行う宗教カルトがあります。
たとえば、SNSで「誰でもできる」「必ず儲かる」といった宣伝文句で、稼ぎ方を伝授する動画や記事などの情報商材を目にしたことがあるかもしれません。「遊びながらお金持ちになる方法を学ぶことができる」というボードゲームに誘われたことがある人もいるかもしれません。
実は、そういった広告や勧誘も、商業カルトの入り口です。「中学生でも年収○千万円」「高校生で起業する方法」など、情報商材のターゲットも、どんどん若年層へ広がってきています。18歳で成人になる皆さんも、格好のターゲットです。あちこちで、名前や住所のサイン・入力を求められるかもしれませんが、安易に書き込んではいけません。
実際に、現金が積まれている写真を載せたアカウントも、紙の束の一番上だけ万札を置いているものや、あちこちで使い回された画像を利用しています。フォローすると、様々なマルチ商法や情報商材の売り手からマークされ、うっかりDMに返信すると、あの手この手で、オンラインサロンやメールマガジンに登録させられてしまいます。
また、「いいねとフォローをしてくれた人に、抽選で10万円をプレゼント!」……というようなプレゼント企画にも、安易に反応してはいけません。お金がほしい人、お金に困っている人、お金儲けがしたい人を炙り出すリストに、自ら名前を書くようなもので、他の情報商材や闇バイトの標的にされてしまいます。
後からDMが送られてきて、上手い話で高額の動画やUSBを買わされたり、特殊詐欺の受け子や出し子に誘われたりしてしまいます。「失敗しない」「安全だ」「違法じゃない」「捕まらない」というふうに説明されますが、これらの言葉が出てきたら、全部嘘だと思ってください。「誰かに相談したら、あなたの立場が悪くなる」という脅しも偽りです。
また、一見、高額献金や信者ビジネスと関係ないように見えるもの、「この画像を拡散してハッピーをシェアしましょう」「3人にこの投稿をシェアしましょう」というような投稿も、スピリチュアルビジネスの入り口です。「数百年に一度しか咲かない花の写真」などをシェアさせて、言うことをききやすい、素直で騙されやすい人を炙り出していきます。
もちろん、これに反応した人たちも、コメントやDMが来て、「幸せを分ける特別レッスン」「新しいメンタルトレーニング」などのセミナーに誘われることがあります。最初は、安い金額で参加できますが、「上級コースに行かないと意味がない」など、言葉巧みに誘われて、どんどん高額のコースを受講させられるようになります。
皆さんの、お母さんやお父さん、おじいちゃんやおばあちゃんくらいの年齢で、SNSを使い始めたばかりの人も、度々引き込まれています。違和感を覚えたら、一人で抱え込まないで、宗教主事の先生や職員に相談してみてください。学校の先生も、こういった相談が来たら、私たちカルト対策の専門家と連携して、向き合ってもらえると嬉しいです。
最近は特に「心理学」を絡めた勧誘が多く、警戒が必要です。いくつかの破壊的カルトで、「心の相談室」や「お悩み相談所」が作られ、「無料で相談を聞きますよ」と謳って、弱っている人をメンバーに引き込むケースが見られます。心の悩みを相談したいときは、厚生労働省や都道県の自治体など、運営元がよく分かるところに相談しましょう。
また、オンラインゲームや英会話アプリのチャットを通して仲良くなり、「一緒に心理学の勉強をしてみない?」と誘われ、Zoomのオンライン勉強会や、近くの教会へ連れて行かれ、いつの間にか、宗教の勉強会になっている……というのも、よくある偽装勧誘です。こういった勧誘は、まともな教会ではやらないので、すぐ周りへ相談してください。
日本の大学キャンパスで活動している宣教団体の中には、ぱっと見、キリスト教の宣教団体であることが分からない名前で活動し、「自己の成長」や「リーダーシップの育成」を看板に掲げ、実際には海外へ派遣する宣教師の育成をしているところもあります。直ちにカルトと言えるわけではありませんが、そういうところも警戒するようにしてください。
正体や目的を隠した偽装勧誘は、まともな団体がカルト化していく入り口でもあります。これは、宗教に限らず、ボランティアでも、社会活動でも同じです。先輩と後輩の不健全な支配関係が、サークルのカルト化をもたらすこともあります。指導や躾という名目で、誰かに暴力を振るうことを正当化していたら、あなたもカルトメンバーの仲間入りです。
実は、カルトのマインドコントロールは、DVやデートDVのコントロールとよく似ています。DV 加害者が、最初は優しい人を装って被害者へ近づき、付き合ってから、徐々に本性を見せるのは、カルトのメンバーが、最初は良い人を装って、目的を隠して近づいてくるのと似ていますよね。
DV 加害者と付き合い始めた被害者は、パートナーから「私はダメだ」と思わされ、優しくされて……を繰り返し、「この人がいないと生きていけない」と思わされます。破壊的カルトに入った人も、最初は優しく迎えられ、徐々に自分の思考ができなくされ、「ここに居ないと生きていけない」と思い込まされてしまうんです。
DVが「一対一カルト」と表現されるのは、こういうふうに、カルトのマインドコントロールと重なる構造があるからで、誰もがカルトの被害者にも、加害者にもなり得ます。そして、カルトに巻き込まれやすいのは、頭が悪い人でも、頭が良すぎる人でもありません。「私はカルトにハマらない」「私は絶対騙されない」と思っている人たちです。
実際、カルトに入ってしまった友達や身内を脱会させようと、自らカルトに乗り込んで、結局、自分も信者になってしまった人はたくさんいます。生徒を助けようとカルトに接触した先生でさえ、引き込まれてしまいます。大切なのは「自分もハマってしまうかも」「私も騙されてしまうかも」という意識を持ち続け、違和感を大事にすることです。
そして、「誰かがカルトに巻き込まれたとき、一人で解決しようとしないこと」が重要です。たとえるなら、誰かが暴力団に巻き込まれたようなものだと思ってください。普通、警察や弁護士に相談しますよね? カルトに巻き込まれたときも、そこから脱出するためには、多くの協力者が必要です。誰かに相談してみることをためらわないでください。
ただし、友達がカルトに巻き込まれたときは、いきなりその子の親に言うのは避けてください。我が子がカルトに入ってしまったかもしれないと知った親は、ついつい、批判的なことを言い、強引に脱会させようとしてきます。親の反対を察知すると、カルトはしばしば、子どもに親との連絡を断たせます。最悪の場合、行方をくらませてしまうんです。
だから、いきなり、友達の親へ話すよりも、どんなふうに親へ伝えたらいいか、カルト問題の相談窓口で聞くようにしてください。学校の先生も、生徒や親から相談を受けたらまず、カルト問題の相談窓口へ連絡してください。相談先は、全国霊感商法対策弁護士連絡会や、日本基督教団カルト問題連絡会など、検索すると出てきます。
生徒も、教師も、職員も、保護者も、破壊的カルトの正体や目的を隠した勧誘に巻き込まれないよう、被害から守られるよう、健やかな未来を迎えられるよう、心から願っています。そして、夢の実現や問題の解決に向かって、健全な出会いが導かれるように、私からも応援しています。
《お祈り》
愛と平和の源である私たちの神様。
名古屋学院名古屋高校の生徒さん、先生がた、保護者のみんなに、
あなたのお守りがありますように。
被害者が加害者に変えられてしまう、カルトのコントロールから、
一人一人が自分を守り、違和感に気づくことができるよう、これからも導いてください。
そして、既に巻き込まれている人たちが、一刻も早く解放されるように助けてください。
人と人との間におられるイエス・キリストのお名前によって祈ります。アーメン。