何を追い求めるべきか？【聖書研究】

《はじめに》

華陽教会の聖書研究祈祷会のメッセージ部分のみをUPしています。購入しなくても全文読めます。

《聖　書》テモテへの手紙6:1〜10

日本聖書協会の「ホームページ等への聖書の引用について」に基づき、聖書の引用を適切な範囲内で行うため、聖書箇所のみ記載しています。該当する聖書箇所を「聖書本文検索」で「書名」と「章」まで入力し、「節」入力を省略すれば、章全体を参照できます。

日本聖書協会ホームページ

《メッセージ》

　テモテへの手紙一6章では、金銭を追い求める人に対し、厳しい言葉が向けられています。「金持ちになろうとする者は、誘惑、罠、無分別で有害なさまざまの欲望に陥ります」「金銭の欲は、すべて悪の根です」「金銭を追い求めるうちに信仰から迷い出て、さまざまのひどい苦しみで突き刺された者もいます」

　そこまで言うかというくらい、容赦ない言葉が語られていました。これが、テモテをはじめとする、教会指導者に宛てて書かれたことを考えると、初代教会でも、金銭を追い求めて、指導的立場に就こうとした人が居たのだろうと思います。そして、これだけ言っているということは、会衆が金銭トラブルで傷ついた例も、あったのだろうと思われます。

　一方で、教会に集まる人の中には、貧困層も多くいました。夫に先立たれ、一人では生活できない女性たち……両親が居らず、施しを受けなければ、生きていけない子どもたち……病気や障害で、仕事につけない男たち……彼らは、人々が持ち寄った日用品や食べ物を、教会で分けてもらいながら、聖書の言葉を聞いていました。

　その中には、苦しい生活から解放されたくて、裕福になりたいと願ったり、神様を信じて熱心に祈れば、いつか祝福を受けて、多くの財産を得られるんじゃないかと、期待する人たちもいたでしょう。そんな人々を絡め取り、「こうしたら願いが叶えられる」「こう祈ったら裕福になれる」と、悪どい教えを語る人たちが現れていたのかもしれません。

　また、自分が教える立場になることで、教会の人たちからお金を取って、生活の足しにしたいと考える人も居たかもしれません。教会で選ばれる役職を、カウンセラーやコーチといった資格のようにふりかざし、個々人から相談料を取ったり、もっと重要な教えを聞きたければ、もう少し献金してください、とねだってしまう人がいたのかもしれません。

　もちろん、手紙の著者は、教会指導者は働きに応じて、正当な対価を受けるよう教えていますが、教会で指導的立場に就くことを、金儲けの道具にしてはならないことも、繰り返し注意しています。もし、人々が金銭を求めて、監督、長老、教師の立場に就いていったら、教会もまた、あっという間に、自己啓発セミナーや信者ビジネスになるでしょう。

　だからこそ、この手紙では、金銭を追い求めるのではなく「正義、信心、信仰、愛、忍耐、柔和を追い求めなさい」と勧めています。「信心」と「信仰」は一緒じゃない？　と思うかもしれませんが、聖書協会共同訳では「敬虔」と「信仰」というふうに訳されていました。いずれも、キリスト教的徳目と言われるものが列挙されています。

　正義を追い求めなさい……教会を大きくするため、自分たちを豊かにするため、問題を覆い隠したり、悪事を放置してはなりません。敬虔を追い求めなさい……自分を立派に見せようとすることではなく、神様を敬う心が求められます。信仰を追い求めなさい……自分の力を過度に信じて、神様に頼る心を忘れていないか、振り返らなければなりません。

　愛を追い求めなさい……自分さえよければという姿勢ではなく、互いに支え合う関係を大事にすべきです。忍耐を追い求めなさい……すぐに結果を追い求め、自分が思い描く解決以外、目に留まっていないことがあるかもしれません。柔和を追い求めなさい……自分が思う正しさを突きつけて、強要するばかりでは、新たな暴力になりかねません。

　一個一個を見ていくと、「追い求めなさい」と言われたものから、離れている自分が浮かんできます。正義よりも保身を、敬虔よりも見栄を、信仰よりも慢心を、愛よりもエゴを、忍耐よりも不満を、柔和よりも意地を、抱えていることに気がつきます。ある種、それらとの戦いが、「信仰の戦い」ということになるかもしれません。

　もしかしたら、「信仰の戦い」を「信仰者とそうでない者との戦い」に置き換えている人がいるかもしれません。信じてない人の間違いを追求し、声高に責め立てることが、信仰の戦いを立派に戦い抜くことだと、勘違いしている人がいるかもしれません。しかし、そうではありません。そこに、愛や柔和や忍耐があるか、見つめ直さなければなりません。

　もしかしたら、「信仰の戦い」を「悪魔や悪霊を縛ること、追い出すこと、倒すこと」に置き換えている人がいるかもしれません。聖水や清められた油を使って、目に見えない、悪いものを退治することが、信仰の戦いを立派に戦い抜くことだと、勘違いしている人がいるかもしれません。

　しかし、神様を仰ぎ見るよりも、悪魔を祓える特別な存在になることを求めてないか、振り返らなければなりません。特殊な言葉、特殊な作法、特殊な力を追い求め、「わたしは他の人とは違うんだ」という熱気の罠にはまってないか、見つめ直すのは勇気のいることです。しかし、自らを顧みることは、まさに、正義や信心を追い求める信仰の戦いです。

　この手紙の最後には、「この世で富んでいる人々に命じなさい」という言葉に続いて、不確かな富に望みを置くのではなく、神に望みを置くように勧める言葉が語られます。何を追い求めるべきか、色々考え込む私たちに、シンプルな指針も告げられていました。「善を行い、良い行いに富み、物惜しみをせず、喜んで分け与えるように。」

　あまり特別なことじゃないですよね？　秘密の教えでも何でもありません。もしかしたら、「不当にも知識と呼ばれているもの」と言われている「反対論」は、高額の金銭をささげないと、教えてもらうことのできない、特別な奥義のように、装われていたのかもしれません。

　その知識を鼻にかけ、得意がって、信仰の道を踏み外してしまった者もいる……手紙の最後には、そんな言葉まで出てきます。金銭を追い求めることも、金銭によって得られるように見せかけた、特別な知識を追うことも、本来の信仰の道にはなりません。これらのことを避け、正義、敬虔、信仰、愛、忍耐、柔和を追い求めることが、永遠の命を受ける道です。恵みがあなたがたと共にありますように……アーメン。