既成教会へのカルト勧誘と接触例
*2022年7月2日にタイトルと記事をリニューアルしました。
はじめに
ここ数年の間、全国のキリスト教会へ、電話、メール、SNSなどを用いて、既存の教会の信徒や牧師を引き込もうとする破壊的カルトの接触が盛んになっています。名前を聞いただけでは問題ある団体と気づくことができず、知らずに仲良くなって、自分がメンバーとして引き抜かれたり、新しいメンバーの獲得に加担してしまう人もいます。
そこで、この記事では、一般的なキリスト教会が破壊的カルトやそれに準ずる団体の接触から身を守ることができるように、複数のキリスト教系カルトに共通する手口や特徴について取り上げ、注意すべき点を紹介したいと思います。なお、諸教会、各地区、各教区の注意喚起で使われる際、スラップ訴訟などのリスクを避けられるよう特定の団体名は伏せています。
健全な教会ならやらないこと
現在は、超教派の集会が色んなところで行われ、各教会でも、同じ地区や教区で一緒に活動する単立・他教派・他教団のグループが増えてきたと思います。ですが、それら既存のキリスト教団体の中にも、マルチ商法などの商業カルトと同じ手法を採用しているところがあります。
たとえば、①正体や目的を隠して教会に連れてくる ②「祈れば治る」と言って薬や医療を遠ざける ③「信じなければ地獄に落ちる」と不安を煽って伝道する ④「教会に来れば癒される」「成功する」と強調して人を集める……こういった傾向が強く見られる団体は危険です。
しかし、友好的に近づいてきたグループの表面だけを見て、これらの教会と付き合っていくうちに、影響を受ける牧師や信徒も出てきます。
カルト化を招きやすいキーワード
たとえば、もともと健全だった教会も、上記のようなグループに影響を受け、次のようなことを言い始めることがあります。①「献金すればするほど豊かになる」②「信仰によって語った言葉は現実化する」③「聖書にはない預言や啓示を神から直接受けている」④「神社仏閣の裏にいる悪魔が福音宣教の働きを妨害する」……これらは、行き過ぎた権威主義、偽預言による被害、既成教会への否定に陥りやすく、国内外のカルト問題の専門家から警戒されています。
耳にしただけでは分かりませんが、金銭的・身体的・精神的被害をもたらす自己啓発セミナーやマルチ商法で支持されてきた「積極思考」や「成功法則」をキリスト教的な言い回しに変えたものでもあります。実際、これらのグループの指導者が行った献金の強要、脱税、巨額背任、性的虐待、医療拒否の指示などが、国内外で報告されています。
こういったグループが接近してきたら注意してください。教勢を伸ばし、若者をたくさん集めているフレンドリーな教会として、メディアでも好意的に紹介されたりしますが、裏で金銭トラブルや不祥事を起こすところが後を絶ちません。牧師による信徒のコントロールと聖書の軽視が進んでしまいます。
信徒を引き抜くカルトメンバー
また、一部の破壊的カルトは、既成教会の信徒や牧師を引き抜きに来ます。「私もクリスチャンです」とSNSで接近したり、新来者のふりをして教会の人と仲良くなったり、潜入先で勉強会やセミナーに誘って、徐々に自分の団体へ誘導します。ママ友やサークルのメンバーを引き抜くマルチ商法の手口とよく似ています。
引き抜かれると、その活動に生活の全てを注ぐようになり、他の教会を激しく否定するようになります。「サタンによる呪い」という概念が強調され、不安や恐怖をあおられて、職場、家庭、地域へと伝道の範囲を広げていき、周りに迷惑と思われる行為も辞さなくなります。そうして関係性の破壊が進み、離婚や別居に至る人もいます。
若い人でなくても、FacebookやTwitterを始めたばかりの信徒や牧師が、よく、SNS 上でこれらの人たちと「友達」や「相互フォロー」になっています。そうしてメッセージやメールでやりとりするようになり、集会や講演に誘われて、時間をかけて引き抜かれた人が、さらに仲間を引き抜いていきます。
役員の座を狙うカルトメンバー
信徒を引き抜くところ以外に、教会を丸ごと乗っ取りにくる破壊的カルトのメンバーもいます。教会に来た途端、様々な奉仕をすすんで担い、友人を次々と連れてきて、数年後、みんながやりたがらない役員も引き受けてくれるようになる……そんな理想的な人物が、役員の過半数を仲間内で占め、法人を乗っ取ろうとする工作員の一人だったりします。
新しく来た人が、すぐに受洗・転入・転会を希望してくる場合や、役員・執事・長老になろうとしてくれる場合には、それを受け入れる前に、教会として正しい判断かどうか、よく吟味してください。安易に、信徒の獲得や奉仕者の確保に流されると、こういった「乗っ取り型カルト」の被害を防げなくなります。
乗っ取り被害に遭った教会では、「救われる人数には限りがある」と教え込まれ、信徒はその枠へ入るために、互いに競い合わされます。周りに嘘をついてでも組織のために活動することを優先し、学生は勉強する意味を見出さなくなり、社会人は働く意欲を失って、家庭も顧みなくなります。日常が奪われないように気をつけてください。
牧師をターゲットにするカルト
さらに、既成教会の信徒だけでなく、牧師がカルト勧誘のターゲットになる場合もあります。「あなたも説教の学びに参加しませんか?」と超教派の集会・セミナーに誘って「熱心で真面目なグループだ」と宣伝させ、周りの警戒を解かせたり、「うちの聖書講義に出ている受講者を託したい」「そちらの教会へうちの若者をつなげたい」と甘い言葉をささやいて、シンパを増やそうとする手口です。
参加すると、「◯◯教団の牧師も参加しましたよ」「○○教会の先生も出ています」とアピールに使われかねないので、冷やかしでも出席しようとしないでください。「所属は公開されません」と言われても、他の人へ電話や口頭で誘う際に使われてしまう危険があります。また、中には直接教会へ訪問して、献金やプレゼントを渡そうとしたり、聖書講座やセミナーの案内、機関紙や本を置かせてもらおうとするところもあります。
中学、高校、大学の教師と親密になってから、生徒や学生を自分たちのダミーサークルやフロント組織へ誘導させる宗教カルトや思想・政治カルトとよく似た手口です。怪しさや違和感を覚えたら、教区や教団のカルト問題連絡会、対策委員会などへ「こんな団体からこんな接触があった」と情報を共有してください。
共有された情報は、事実確認や精査を行った後、速やかに地区や教区で共有されることが望ましいです。そういった対策委員会のない教区は、なるべく早く専門家のアドバイスを聞いて、設置を検討することをおすすめします。
世間の信頼を得たいカルトの誘い
また、破壊的カルトはメンバーを増やすため、世間の信頼を得ようと、有名団体や著名人と関係を作ろうとします。よく知らない団体から「機関紙に投稿してほしい」「取材を受けてほしい」「講演や伝道協力に来てほしい」「超教派の集会に参加してほしい」と誘われて、安易にOKしてしまうと、カルト団体の信頼獲得に一役買ってしまいます。
霊感商法で有名な破壊的カルトの関係メディアへ知らずに出てしまったキリスト教会の教師、著名人もいるので、他人事だと思わないで、どんなに良い活動をしているように見えたとしても、身元の確認を怠らないでください。基本的に、正体をよく知らないメディアや団体は、関わるのを避けた方が無難です。
迷った場合も、すぐに返事をすることは控えてください。すぐに返事を迫られた場合は怪しい団体だと思って断ってください。断り方が分からないときは、「基本的にNCC(日本キリスト教協議会)に加盟している団体と交流しているので、それ以外の交流は遠慮しています」などのように断って、様子を見るようにしましょう。
また、ミニカルト化した単立教会が、大きな教団や協議会に加入したいと、接触してくることもあります。過去に不祥事や裁判などを起こしている場合、世間の信頼を得るため、加入・加盟した団体の名前を利用することがあり得るので、こういった働きかけにも注意してください。
非宗教団体を装うカルト関連組織
その他に、非宗教団体として教会に近づいてくる破壊的カルトの勧誘もあります。平和運動やボランティア、環境問題や町おこしに取り組む行事を装って、参加者の呼びかけをお願いし、青年や保護者をカルトのダミーサークルやフロント組織に巻き込んでしまうのです。
教会付属の幼稚園や保育園の保護者が、知らずにビラを渡されて持ってくることもあります。繰り返しますが、良い活動をしているように見えても、偽装勧誘の入り口かもしれません。関わる団体は慎重に精査しましょう。「怪しいな」と思った場合は、「団体名/主催者/講師」+「名称変更/被害/危険/裁判/訴訟/カルト」などで検索し、偽装勧誘や被害の報告がヒットしないか、調べてみることが大切です。
教会に紛れ込むカルトの入り口
また、既成教会を乗っ取る宗教カルト以外に、カルトの入り口になりやすいニセ科学やトンデモ医療が、高齢者や子育て世代を中心に広がっています。「免疫力アップ」や「○○が治る」と謳うサプリやアロマオイルなどは、マルチ商法や悪質な代替医療だけでなく、心や魂のケアを謳うスピリチュアル・ビジネスの温床にもなりやすいので、注意してください。
最近、こういったマルチ商法やスピリチュアル・ビジネスが教会の中で広がって困っている……という報告も増加しています。看護師、助産師、民生委員など、信頼を置かれた人たちがまずターゲットとなり、そこからさらに、ニセ医学やニセ科学が広がってしまうことも珍しくありません。
これらを信じて、まともな病院へ行かなくなったり、薬を飲むのを拒否したり、ワクチン接種をやめたり(やめさせたり)して、健康被害や死亡事故を起こしてしまう人もいます。検証不十分な治療や療法に時間と労力を注いで、何年も無駄にしてしまう人もいます。最も深刻な被害を受けるのは、子どもや高齢者など、身内に抵抗する力が弱い人たちです。
信者ビジネスの多くは、「助けたい」「役に立ちたい」という善意や正義感を利用して広がるので、教会のようなコミュニティは、恰好のターゲットになります。一旦広がってしまうと、そこから抜け出させることはなかなかできません。ほとんど「予防が全て」です。折に触れて、注意喚起を行うようにしてください。
破壊的カルトの団体に多い主張
そして、キリスト教系の破壊的カルトは、同情と正義感を利用して親密になるため、以下のことを強調する傾向があります。「自分たちは多数派に迫害されている」「健全な組織なのに誤解が解けない」「仲良くなれば理解できるはず」……これらは安易に真に受けず、検証を大切にしてください。
破壊的カルトは「マジョリティー(多数派)に抑圧されるマイノリティー(少数派)」という構図で味方を作ろうとしてきますが、もともとあらゆるカルト団体はマイノリティーです。その中で虐げられている被害者は、さらに見えにくくされたマイノリティーです。マイノリティーを蔑ろにしたくなければ、安易に「議論ある団体」の主張を鵜呑みにしないでください。
ちなみに、日本基督教団カルト問題連絡会が賛同、全国霊感商法対策弁護士連絡会が協力連携している「異端・カルト110番」では、《韓国における「キリスト教異端・カルト等」に対する主要教団による総会決議リスト》と《日本で活動が確認され、被害や問題が実際に起きているグループ》をリストアップしています。
日本基督教団、カトリック中央協議会、日本聖公会、日本福音ルーテル教会、日本バプテスト連盟、在日大韓基督教会の6団体が連携している「カルト問題キリスト教連絡会」発行の『カルトって知ってますか?』の差し込み資料にも、警戒が必要な《議論ある団体》を載せています。
もし、気になった団体があれば、これらのリストに載っていないか、あるいはリストの団体と共通する手口を使っていないか、調べてみることをおすすめします。調べもせずに問い合わせのあった集団について判断するのは避けてください。被害を拡大させてしまいかねません。
注意するべきキャッチコピー
最後になりますが、今後、自分たちの教会に接近してくるグループで、組織や集会などのアピールに、以下のようなキャッチコピーが使われていたら、健全な集団ではないかもしれません。
「ここでしか知ることができない秘密/真理」「祈りが叶えられる秘訣/方法」「病気や障害が癒やされたという個人の体験談」……これらは、悪質な代替医療やスピリチュアル・ビジネスでも多用されている文句です。信仰の証としての範疇を超えて、組織の宣伝や人集めに用いられている場合は、警戒対象だと思ってください。
また、「うちの教会以外は本当の真理を語っていない」「他の教会は9割異端」と主張するようなグループも、高確率で破壊的な集団です。それらのフレーズが出てきたら、速やかに距離を取るようにしてください。善意や正義感が利用されて、カルトに加担させられないよう、くれぐれもよろしくお願いします。
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