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妨げのない洗礼?【日曜礼拝】

《はじめに》

華陽教会の日曜礼拝のメッセージ部分のみをUPしています。購入しなくても全文読めます。

《聖 書》 使徒言行録8:26〜38

日本聖書協会の「ホームページ等への聖書の引用について」に基づき、聖書の引用を適切な範囲内で行うため、聖書箇所のみ記載しています。該当する聖書箇所を「聖書本文検索」で「書名」と「章」まで入力し、「節」入力を省略すれば、章全体を参照できます。

《メッセージ》

「エルサレムからガザへ下る道に行け」……ある日、天使にそう告げられたフィリポは迷う間もなくすぐに出かけて、人気のない道を歩き始めました。フィリポと言えば、救い主イエス・キリストが、天に昇って見えなくなった後、使徒たちを手伝って、教会で食事の世話をするよう選ばれた、7人のうちの一人です。

もともとは、教会に集まった人たちへ、食べ物を分配する給仕係のはずでしたが、神様は彼らを使徒たちと同様、イエス様の教えと業を語ったり、病人を癒したりして、救いを告げる働きに遣わしていきました。たとえるなら、華陽教会で、お花や食事を用意してきた人間が、牧師と同様の働きに遣わされていく感じです。

当然、止めようとする人もいたでしょう。「あなたは食事の世話をするよう選ばれたのになぜ先生のように聖書の教えを語るのか?」「あなたが食事の世話をしないでメッセージを語るなら、誰が給仕当番を担うのか?」「私たちは、そんなつもりで、あなたを選んだわけじゃない」「伝道は使徒に任せて、あなたは食事の世話に専念してくれ」

けれども、神様はみんなが食事の世話係に選んだ人たちを、次々と新しい業に遣わします。フィリポと一緒に、選ばれたステファノは、最初の殉教者となって、エルサレム中にイエス様の教えを広めました。フィリポもまた、彼に続いて、サマリアの町でイエス様の教えを宣べ伝え、病人を癒し、仲間を増やしていきました。

サマリアの人々は、もともと、ユダヤ人から忌み嫌われ、お互いに仲の悪い相手です。かつて、イエス様と弟子たちが、サマリアの村へ入ったときも、全く歓迎されず、ひどい扱いを受けたことが書かれています。「あの人たちは、以前イエス様を拒んでいるし、今から伝道しても何になるのか?」そう思っていた人もいたでしょう。

しかも、この町にはシモンという魔術師がいて、「この人こそ偉大なものだ」「神の力がある人だ」と言われていました。当時の感覚からすれば、もはや異教徒というより、邪教を信じる人たちでしょう。そんなところへ行って、イエス様の教えを伝え、仲間になるよう促すなんて、当初は誰も考えていなかったはずです。

ところが、神様は意外な人を、意外な所へ遣わします。教会の食事係だった者を、教会が忌み嫌う者たちへ遣わし、かつて、イエス様を歓迎しなかった人々を、受け入れる者へ変えていったんです。あのとき拒んだのに、あのとき受け入れなかったのに、神様は迎える者も遣わす者も新しくして、ご自分の民にしていきます。

魔術に心を奪われていた人たちも、魔術を使って人々を驚かせていたシモン自身も、信じて洗礼を受け、フィリポの仲間になっていきました。ちょっとびっくりです。もともと魔術を使っていた人に洗礼を授けるって、今聞いても、けっこう抵抗があると思います。みんなを神様から遠ざけて、惑わしてきた人間に、洗礼を授けてかまわないのか?

確実に議論を巻き起こす行為でしょう。そもそも、使徒でない人間が、食事係に過ぎない一信徒が、洗礼を授けてよかったのか? これも、間違いなく、議論を巻き起こす行為です。そのためか、サマリアの町には、間もなく使徒たちが遣わされ、洗礼を受けた人たちへ聖霊を受けるよう、手を置いて祈りが行われます。

おそらく、エルサレムの教会が、サマリアの人々を、信徒として受け入れるにあたり、フィリポの洗礼だけでは、仲間として認めることが困難な人もいたんでしょう。エルサレムから派遣された使徒たちは、フィリポが伝道した多くの村で、もう一度、イエス様の教えと業を語ってから帰っていきます。

こういった行き来を見ていると、フィリポの行った伝道と洗礼が、教会に受け入れられるまで、色々と紆余曲折あったのではないかと思わされます。今回、天使からガザへ下るよう命じられたフィリポには、そんな歴史と背景がありました。ここからは、さらに議論を巻き起こす行為が展開されます。

天使に命じられ、南に向かって進み始めたフィリポの前には、「寂しい道」と言われるように、人気のない、何もない道が広がっていました。どう考えても、たくさんの人を伝道できる場所じゃありません。そもそも、人がほとんど通らないからです。けれども、やがて「寂しい道」とは言えないくらい騒がしい光景が見えてきました。

フィリポの前方に、エチオピアの女王の宦官を乗せている馬車が見えたからです。この宦官は、女王の全財産を管理していた超エリートの高官です。当然、一人二人で馬車一台に乗っているなんてはずがなく、長い旅路に必要な荷物を載せた他の馬車や、護衛として仕える人たちが一緒に並走していたはずです。

宦官は、遠い外国の人であるにもかかわらず、どこかで神様の教えを聞いたのか、はるばるエルサレムまで礼拝に来て、帰る途中であったことが書かれています。しかし、彼はユダヤ人でない異邦人のため、エルサレム神殿に入ることはできません。加えて、去勢された男性は祭儀に加わることを禁じられたため、宦官が満足に礼拝できたとは思えません。

もちろん、神殿に仕える祭司や、民を教える律法学者が、一目見て、異邦人と分かる、外国の宦官に、親切に聞きたいことを教えてくれるとも思えません。彼らにとって、サマリア人以上に、接触したら汚れてしまうと感じていた相手だからです。むしろ、女王の高官が、護衛を連れてゾロゾロとやって来たら、恐れと不安の対象にもなったでしょう。

一方、フィリポは聖霊にこう命じられます。「追いかけて、あの馬車と一緒に行け」……いやいや、外国の要人へ不用意に近づいたら、護衛の人間に斬り殺されてしまいます。なにせ、相手は女王の全財産を管理する超重要人物です。徒歩の人間が、ものすごい勢いで馬車へ追いつこうと走って来たら、警戒されるに決まっています。

けれども、フィリポは命じられるまま走り寄って、なぜか護衛の攻撃を受けることもなく、宦官が預言者イザヤの書を朗読しているのを耳にします。彼は走り寄りながら問いかけます。「読んでいることがお分かりになりますか」……宦官は、あらかじめ彼が来ることを待っていたかのように落ち着いて答えます。

「手引きしてくれる人がなければ、どうして分かりましょう」……こうして、教会の給仕係と外国の宦官の奇妙な聖書講座が始まりました。場所は、揺れ動く馬車の上。エルサレムからどんどん離れていく中、全ての不安を置き去りにして、フィリポは聖書に記された救い主のこと、イエス様のこと、その教えと業を伝えていきます。

やがて、彼らは水のある所にやってきました。宦官はこう言います。「ここに水があります。洗礼を受けるのに、何か妨げがあるでしょうか」……ないと言えば、嘘になります。事実、フィリポは自分から洗礼を勧められず、宦官の方から言い出しました。もし、エルサレムの信徒が、外国の宦官へ洗礼を授けると聞いたら、間違いなく反発するでしょう。

これまで祭儀に加わること、神殿で礼拝することが許されなかった人間ですし、フィリポ自身も使徒ではありません。しかも、馬車の上で数時間、聖書とイエス様の話をしただけです。何なら、サマリア人に伝道し、洗礼を授けたとき以上に、議論が巻き起こる行為です。この洗礼を妨げる理由は、頭の中にいくらでも湧いてきました。

しかし、フィリポは宦官が望むまま、聖霊に促されるまま、二人一緒に水の中へ入り、洗礼を授けて、神の民として受け入れます。「ここに水があります。洗礼を受けるのに、何か妨げがあるでしょうか」……そう言った宦官自身、本当は妨げるものが、いっぱい思い浮かんだはずです。

異国の宗教に入信したなんて知られたら、女王の高官というポストもなくなるかもしれない……同じ神様を信じるユダヤ人から、今後も差別を受けるかもしれない……護衛をしている人たちに一部始終を見られているから、このことは当然隠せない……けれども、彼は自ら言いました。「何か妨げがあるでしょうか?」

フィリポも、この言葉に力づけられ、共に洗礼の恵みにあずかります。彼だけでなく、私たちもそうです。洗礼を受けるにあたり、妨げとなったものが、それぞれ思い浮かぶでしょう。あるいは、今まさに、妨げとなっているものを目にしている方もいるでしょう。しかし、神様はそんなあなたを導いて、水のある所へ遣わします。

寂しい道を歩いていたはずが、エルサレムから、教会から離れていたはずが、神の民として出発する、新たな道に至っている……それが、私たちの進まされる道です。これから進んでいく道です。たくさんの衝撃と、困惑と、衝突に直面しながら、私たちは、互いに新しくされていきます。迎える者も、受け入れられる者も、変化と回復をもたらされます。

「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる」(マタイ7:7)……イエス様の語った言葉を胸に、私たちも出発し、新しい道へ、送り出されていきましょう。平和の主ご自身が、いついかなる場合にも、あなたがたに、平和をお与えくださるように。アーメン。

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柳本伸良@物書き牧師のアカウントです。聖書やキリスト教に興味のある人がサラッと読める記事を心掛けています。サポート以外にもフォローなどお気持ちのままによろしくお願いします。質問・お問い合わせはプロフィール記載のマシュマロ、質問箱、Twitter DM で受け付けています。