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誤った類推〜ドンキーは別にゴリラじゃないしバイオは別に毒じゃない〜
皆さんは大人になってから自分の勘違いに気がついた経験はありますか? 私はつい最近ありました。驚いたことに四半世紀以上に渡って勘違いし続けていました。最近とある動画を見て、なぜ私が勘違いし続けていたのか腑に落ちたのでそれについて語ります。
ある動画とは、先日面白いと紹介した「ゆる言語学ラジオ」の中のひとつです。
この動画は「子供の言い間違い」を取り扱ったもので、「面白いねー可愛いねー」からもう少し解像度を上げて、なぜそのようなことが起こるのか、子供の言語習得の観点も含めて専門家を交えて紹介されています。
子供の言語習得がいかに無理ゲーかという話は長長くなるのでチャンネル内別動画を見ていただくとして、今回はアブダクションの話に限定します。
アブダクションとは、帰納とも演繹とも異なる類推の方法です。動画内ではニュートンがリンゴの落ちる様を見て「万有引力があるのではないか」と仮説を立てたことをアブダクションの例として挙げていました。「確かにバナナも落ちるよね」「もしかしてブドウも落ちるのかな」とは次元の異なる飛躍した類推です。子供は周囲の大人が使う言葉と状況からこのアブダクションを使って言葉を類推しているというのです。
サムネイルに書いてある「ゆずゆ」と「みかんみ」も例に漏れません。大人は「ゆずゆ」を知っているので、みかんを湯に浮かべたら「みかんゆ」と呼ぶことになるのだろうと類推できます。しかし「ゆずゆ」を知らない子供は音の響きから「食べ物を浮かべた湯は食べ物の最初の文字を最後につけるらしい、知らんけど」と飛躍した類推する可能性があります。というか知識がないのでそうするしかありません。これがアブダクションであり、その結果生まれたのが「みかんみ」です。
子供が「みかんみ」と言ったときに親などが「みかんみじゃないよ、みかんゆだよ」と訂正したとします。すると子供は「食べ物を浮かべた湯は食べ物の最初の文字を最後につけるらしい」という仮説を棄却し、最終的に「食べ物の名前の後にゆをつければいいらしい」という仮説に辿り着き、かぼすを浮かべれば「かぼすゆ」になりそうだという正しい類推ができるようになります。
このように子供はアブダクションにより仮説を立て、口に出すことで検証し、違っているようであれば仮説を立て直すことを繰り返して言葉を覚えていくようです。では、検証されなかったらどうなるのでしょうか?
悲しいかな。間違った仮説のまま生きていくことになります。間違っているわけではありませんが、方言を考えてみるとわかりやすいと思います。地元ではみんなが使っているために「どうやら標準的に使われる言葉らしい」という仮説を立てたまま何の違和感もなく修正されることもなく暮らし、進学や就職などで県外に飛び出して初めて指摘されて「どうやら標準語じゃないらしい!」と仮説が誤っていたことに気がつくのです。
だいたいのトンデモ勘違いは「修正される機会を逸したアブダクションによる類推」で説明できるのではないかというのが私の持論であり類推になります。
私の勘違いのひとつ目は「ドンキーはゴリラ」です。バイオテクノロジー関連の仕事をしているので、ラビットやゴートから作られた試薬を使うことがあります。ラビットはウサギでゴートはヤギです。ドンキーから作られた試薬も使うことがあるのですが、ずっとゴリラから作られていると思っていました。違いました。ロバでした。
勘違いしていた理由は言わずもがな任天堂のキャラクターである「ドンキーコング」のせいです。実は「ドンキー」には「まぬけ」といった意味もあり、それにキングコング由来の「コング」を組み合わせた造語にすぎず、「ドンキー」にも「コング」にも「ゴリラ」という意味はないのです。そんなバカな。ドンキーをイメージして下さいと言われたら、ロバよりもゴリラが思い浮かばない?? 私だけではないと信じたいです。もし「ドンキー!」と言いながらドラミングしたとしても「任天堂のアレね」で済まされてしまうことでしょう。「ゴリラじゃないよ」と修正される機会を逸しました。
私の勘違いのふたつ目は「バイオは毒」です。バイオテクノロジー関連の仕事をしているのに知らんかったんかいと言われるとぐうの音も出ません。いや知っていますよ。「バイオ」が生物とか生命とかその手の意味の接頭語であることは知っていますよ。ただ同時に「毒」のイメージも強いのです。かなり。
勘違いしていた理由はファイナルファンタジーの魔法のせいです。「バイオ」はシリーズによって毒属性だったり追加効果で毒状態を付与したりする魔法です。「ポイズン」の上位互換であることもありました。もう毒じゃん! おそらくは生物兵器による感染的なニュアンスだったのだと思われます。バイオハザードも似たようなニュアンスですが、毒されてゾンビ化していると言えばそれはそう。「毒じゃないよ」と修正される機会を逸しました。
かつて「資さんうどん」の読み方を勘違いしていた話も似たようなもの。
たまたま後輩や友人と話す中で修正する機会に恵まれましたが、そうでなければ墓の中まで間違った知識を持ち込んでいたでしょう。他にも勘違いしていることは山ほどある気がしますが、勘違いしている自覚がないので確認のしようがありません。話したり聞いたり書いたり読んだり世界との対話を通じて、修正を繰り返すしかありません。
SNSでそんなことも知らんのかとバカにされる様がバズっていることがありますが、それはそれで貴重な修正機会であり、バカにすべきものでもないよなと思います。私もあなたもバカにされそうな勘違いをたぶん抱えて生きているのだから。
勘違いをバカにされるのもネタのうちの気持ちでこれからも勇気を持ってあれこれ発信していきます。
余談
動画内では「子供は詩人」という話にも言及されていて面白かったです。詩的なレトリックはアブダクションにより生成されていて、子供のうちはアブダクションを繰り返しているため、とんでもない言い間違いもするのだけれど、数打てば刺さる名言が生まれることもある、と。一方で大人になるにつれ、帰納や演繹を繰り返し、アブダクションをしなくても類推できるようになるわけだけれどそうであって尚、常識に囚われずアブダクションし続けられるのが詩人であると。研究におけるイノベーションもそうだよな、とバイオテクノロジー関連の仕事をしている私は思うのです。
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