サッちゃん
サッちゃんはね、サチコっていうんだほんとはね。
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小学校の低学年の時に、
さちこさんという友だちがいて、
さっちゃんて呼ばれていた。
さっちゃんは色白でスリム。ショートヘア。
透明感のある標準的な風貌。
さっちゃんとは、同じクラスだったし、
帰り道が途中まで一緒だったのでよく遊んでいた。
遊んでいたけど、仲良しだったけど、
その時は他の友だちと同じように思っていたし、
他の友だちと同じように仲良くしていたので、
彼女だけに強い思いがあったわけではない。
小学生の時代ならではの、
遊び仲間という感じの、
子どもとしての友だち感情だった。
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さっちゃんは、小学3年の時に転校していった。
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その時から、私の夢に出てくるようになった。
さっちゃんは多くの友だちの一人だったはずなのに、
私の夢に決まって出てくるようになった。
その夢の話は、さっちゃんを
いつも助けなくてはと感じるシナリオだ。
夢に出てくる風景で、決まって椿の生垣の前に
さっちゃんがさみしそうな顔をして立っている。
こちらを見て立っている。
”さっちゃん、大丈夫?こっちだよ、こっちにおいでよ。”
手を引いてそこから移動しようとする、
その瞬間にいつも目が覚める。
ああ、また助けられなかった。
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だけど、ちっさいからじぶんのこと
さっちゃんってよぶんだよ。
おかしいな、さっちゃん。
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私の知っているさっちゃんは、
自分がさちこだと言える人だった。
笑い声がきれいな、澄んでいるような人だった。
だけど、サッちゃんの歌を聴くたびに、
さっちゃんのことを思い出し、そして胸がざわざわとする。
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サッちゃんがね、とおくにいっちゃうってほんとかな。
だけど、ちっちゃいからぼくのことわすれてしまうだろう。
さびしいな、サッちゃん。
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さっちゃんのことが、いくつになっても忘れられない。
忘れた頃に、また、あの夢を見る。
忘れないでと言われているかのように。