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サッちゃん

サッちゃんはね、サチコっていうんだほんとはね。

***

小学校の低学年の時に、
さちこさんという友だちがいて、
さっちゃんて呼ばれていた。

さっちゃんは色白でスリム。ショートヘア。
透明感のある標準的な風貌。

さっちゃんとは、同じクラスだったし、
帰り道が途中まで一緒だったのでよく遊んでいた。

遊んでいたけど、仲良しだったけど、
その時は他の友だちと同じように思っていたし、
他の友だちと同じように仲良くしていたので、
彼女だけに強い思いがあったわけではない。

小学生の時代ならではの、
遊び仲間という感じの、
子どもとしての友だち感情だった。

***

さっちゃんは、小学3年の時に転校していった。

***

その時から、私の夢に出てくるようになった。

さっちゃんは多くの友だちの一人だったはずなのに、
私の夢に決まって出てくるようになった。

その夢の話は、さっちゃんを
いつも助けなくてはと感じるシナリオだ。

夢に出てくる風景で、決まって椿の生垣の前に
さっちゃんがさみしそうな顔をして立っている。
こちらを見て立っている。

”さっちゃん、大丈夫?こっちだよ、こっちにおいでよ。”

手を引いてそこから移動しようとする、
その瞬間にいつも目が覚める。

ああ、また助けられなかった。

***

だけど、ちっさいからじぶんのこと
さっちゃんってよぶんだよ。
おかしいな、さっちゃん。

***

私の知っているさっちゃんは、
自分がさちこだと言える人だった。

笑い声がきれいな、澄んでいるような人だった。

だけど、サッちゃんの歌を聴くたびに、
さっちゃんのことを思い出し、そして胸がざわざわとする。

***

サッちゃんがね、とおくにいっちゃうってほんとかな。
だけど、ちっちゃいからぼくのことわすれてしまうだろう。
さびしいな、サッちゃん。

***

さっちゃんのことが、いくつになっても忘れられない。
忘れた頃に、また、あの夢を見る。

忘れないでと言われているかのように。

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