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thank you for being so nice

まだ世の中がソーシャルディスタンスとか知らないまだみんなが居酒屋で楽しく飲んでたころのお話

そのときある試験勉強に没頭してた私
ある書店のお店の隅の方がこじんまりとしたカフェスペースがあってそこで仕事が終われば閉店時間くらいまで勉強することが日常だった

そのカフェスペースのテーブルの正面の壁にこんな絵が飾られてる

私がいつもどおり机に向かっていると
ふらーっとおそらく60〜70歳の婦人が壁の絵を眺めにやってきた

お世辞にも綺麗な格好をしてるとはいえず
カフェスペースに周囲の様子を気にもかけず遠慮なく踏み込んでくるあたりなんとなく人柄が見えたと言うか
スーパーのレジとかでクレームしてそうな雰囲気というか

試験までの日数も近づいており少しナーバスになってた私は「なんとなく関わりたくないなやだな」とふつふつと身勝手な感情が湧き上がるのを感じてた

しかしそんな気持ちと裏腹にやはりこの婦人が声をかけてくるのだ(こちらが作業に没頭してる風なのに関わらずにだ)

「この絵のここなんて書いてある?」

筆記体の英語で小さな文字が書かれている様子だった
席を立ち絵に近づけば読めたであろうが
そのときの私はこの人と関わることに危険信号を感じていたので(勝手にだが)

「いや、わかんないです」
としっかりと確認もせずに一言

「ああ、そう」
と婦人

すると遠慮がないだろうこの婦人
次は私の隣のデスクで読書をしていた40代くらいの眼鏡をかけた女性に同じ質問をする

するとその女性は立ち上がり一緒にその絵を眺めるのだが
「うーん、なんだろう。サンキューは分かるけど。あとは人の名前かしらね。わからないや」

と2人ではその文字の解読は出来なかった様子だ

婦人も諦めた様子でその場をあとにした
まあおそらくはその文字を知ることにそこまでの意味はなく、なんとなく目についたから気になった程度であるのだろうが

そして、今更になってその文字が気になる私

確認もせずに婦人の願いを断った手前
隣の席のメガネの女性が席を立つまでは確認もせず悶々とした時間を過ごした
この時点でデスクの上への意識や集中力は完全に失われてる

何十分か経過し隣の女性が席をあとにした後
すぐにその絵を確認すると

andy Warhol
thank you for being so nice

と書かれていた

アンディウォーホル といえば
モリリンモンローとかキャンベルのトマト缶とかvelvet undergroundのバナナの絵が有名な画家だ

彼の作品だったのかと

そして
「親切にしてくれてありがとう」
と一言

なんということか
婦人が興味を持ち、知りたかった言葉に
応えることができなかった(正確にはしようとしなかった)自分に対してこのメッセージがすごい皮肉のように感じられてしまった

モヤモヤがさらに強まった自分は
さっきの婦人にこの言葉の意味を伝えなくてはと今更になって書店の中を探して回るも当然もうその姿はなかった

なんとなく人を容姿だけで人柄を決めつけ
関わろうともせず
親切に出来なかった自分に嫌気が差した

その日からこの絵をA4のコピー用紙に印刷した物をアパートの玄関のドアに磁石で貼り付けてる
そのときの自分への戒めというか

いつかまたこの婦人に会ってこの言葉の意味を伝えられたら
この作品を買って額縁に入れてきちんと自分の部屋に飾るのだ

親切にできるその日まで

thank you for being so nice


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