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献血の現実と課題:血液不足が引き起こす問題と解決策

1. はじめに

 日本では、年間約120万人が献血に協力している(出典: 日本赤十字社)
 新幹線のぞみ号は、1本で約1,300人を乗せることができるが、これを約900回満員で運行した人数に匹敵する。または、札幌市や福岡市に住む人全員が協力した場合と同数である。

 果たして、この数値が多いのか少ないのかは微妙なところだ。

 1回の献血で提供できる血液量は、最大約400ml。この量で、少なくとも交通事故患者の2~3人を救える計算である。


2. 献血が広まらない現状

必要な血液量について

 日本で必要とされる年間の血液量は、約 80万リットル とされ(出典: 日本赤十字社)、以下のような医療目的で使われる。

  • 手術(特に心臓や肝臓の手術など、大規模な手術)

  • 交通事故や大規模災害の際の緊急治療

  • がん患者の治療(特に化学療法後の血液が不足することがある)

献血量について

 「1.はじめに」で触れたとおり、1度の献血で提供される血液量は約400ml。1人の献血者から受けられる献血回数は、年間で男性は3回、女性は2回まで。日本全体で年間約140万人、56万リットルの血液が提供されている計算だ。

必要量と提供量のギャップ

 必要な血液量(80万リットル)と献血で提供される量(56万リットル)の差を埋めるには、約 24万リットル の血液が不足していることになる。そのため、毎年数千件の手術や緊急治療が、献血量の不足により困難となるリスクを負っている。


献血率の低さ

 日本の献血率は、先進国の中でも低い水準である。例えば、スウェーデンでは献血率が人口の約5%、アメリカは約4%、これらに対し、日本はわずか1.6%に過ぎない。この数値が示すのは、1万人に対し、約160人しか献血に参加していないという事実である。

 献血が広まらない理由として、以下が考えられる。

  • 時間がない、面倒だと感じる人が多い:
    →献血は約30分~1時間ほどの時間を要し、その時間を割くことに対し面倒に感じる人が多い。

  • 献血に対する誤解や恐怖心:
    →「血を取られることが怖い」「痛いのではないか」といった不安や誤解から、献血を避ける人もいるだろう。

  • 社会的認識の欠如
    →献血が必要な場を目にすることが少ないため、社会全体で重要性が十分に認識されない。特に、献血が実際にどのような状況で必要とされるのかが分かりにくい。


3. 献血がないとどうなるか

医療現場での深刻な影響

 血液が不足すると、医療現場で直接的ダイレクトな影響が現れる。特に、以下の状況では、患者の命に関わる。

  • 緊急手術
     交通事故をはじめ、急な出血を伴う手術では、短時間で大量の血液を必要とする。1回の手術で必要となる血液は約1ユニット(約400ml)~2ユニット(約800ml)だが、大事故の場合、10ユニット以上を必要とすることもある。この場合において献血が足りなければ、手術を続けられない、または命を救えない可能性が高まる。

    • 例1:
      交通事故で重傷を負った患者に必要な血液量は最大10ユニット
      =献血者約5人分に相当

    • 例:2 
      緊急手術での血液使用量が最大3ユニット
      =献血者約1.5人分に相当

  • がん患者の治療
     がん治療において、特に、化学療法や骨髄移植を受ける患者は、しばしば大量の血液を必要とする。これは、治療中は患者の免疫力が低下し、血液の供給が不足することが多いからだ。このとき、血液製剤が足りなければ、治療は中断、または命の危機を迎えることになる。

    • 例:
      化学療法中のがん患者が1回の治療で必要とする血液量は最大3ユニット
      =約1.5人分の献血に相当

人命に関わる緊急事態

 実際に血液が不足した場合、どれほど命に直結する事態になるかイメージしやすい事例で説明する。

  • 交通事故の増加
     日本では年間約4万人以上が交通事故で負傷し、そのうち約2千人以上が死亡する。重傷患者に必要な血液量を考慮すると、事故後に血液が足りなくなると命を助けられない場合が増える。

    • 例:
      事故患者1人に必要な血液量が5ユニット(2,000ml)だと仮定した場合=10人分の献血に相当
      →足りなければ、数名が命を落とす可能性が高い

  • 大規模災害
     大震災や自然災害が発生した際、救助活動には大量の血液が必要になる。震災時の負傷者数を見込んだ場合、血液の供給が十分でなければ、救命率が大きく下がる。

    • 東日本大震災では、1週間で6,000ユニットの血液が必要だったとされている
      →献血者が不足していれば、約3,000人分の命を救えなかった可能性がある


4. 献血に協力する人としない人の違い

  ここからは、献血に対する姿勢を協力的・非協力的に分け、それぞれに属する人の特徴を考察したい。

献血する人の特徴

 献血に協力的な人には、次の共通点がある。

  • 善意や社会貢献意識が強い
     献血を行う人の多くは、「他者の命を救いたい(役に立ちたい)」という社会貢献意識が強い。献血の呼びかけに応じることに喜びを感じる人もいる。近年、定期的に献血に参加している人のうち、約60%は「社会貢献ができることが嬉しい」と答えている。

  • 健康への自信
     定期的に献血をしている人のうち、健康状態に自信がある場合、身体的な負担を感じない場合が多い。こうした人の中には、血液検査が無料で受けられることについて、「自分の健康状態を確認できることが嬉しい」という意見も見られる。

    • 例:定期的に献血をしている30代男性:
      →「体調が良く、献血を通じて社会に貢献している実感がある。」

  • 自分の行動が誰かを助けると実感できる
     献血により、自分の行動が直接的に命を救うことに繋がると実感できる点が献血を続けるモチベーションとなっている。

献血しない人の特徴

 一方、献血に非協力的な人について、以下の理由が考えられる。

  • 時間がない、面倒だと感じる
     忙しい日常生活の中で、献血に時間を割くことに対し「面倒だ」と感じる人が多い。

    • 例:
      時間がない40代男性 「献血に行きたくても、仕事が忙しくて行けない。」

  • 血を取られることへの不安や恐怖心
     献血を怖がる人もおり、「痛そう」「後遺症があるのでは」と感じることが献血への障壁となっている。(※実際はほとんど痛みを伴わず、健康に問題がない限り安全に行える。)

    • 誤解:
      1回の献血で失う血液量は400mlで、短期で自然に回復する。献血後の後遺症もほとんど報告がない。

  • 「自分に関係ない」という認識
     自分の命に関わる場面が少なく、献血への関心が薄い人がいる。実際に、献血に参加しない人の約50%は「献血が自分には関係ない」と回答している。


5. 献血のハードルを下げるためにできること

教育と啓蒙活動

 献血の重要性を広めるには、早期教育と啓蒙活動が重要である。学校や企業において、献血の意義や実際の事例を紹介すると効果的だと思う。例えば、都内の高校では毎年、「献血の重要性」をテーマにした授業を行い、実際に献血を行う体験を生徒に提供している。この取り組みにより、献血に対する理解が深まり、実際に献血に参加する生徒も増加している。

実際の事例

  • 埼玉県川越市の高校では、定期的に「献血キャンペーン」を実施。生徒や教職員が積極的に参加している。昨年は当該高校の生徒300人が献血に参加し、約1200ユニットの血液を提供。これにより、周辺地域で必要とされる血液を十分に供給できた事例。

  • 企業での取り組み: トヨタ自動車では、毎年社員向けに献血イベントを開催。2019年には、トヨタ自動車の名古屋工場で開催された献血イベントに200人以上が参加し、300ユニット以上の血液を提供。従業員の参加率は約40%にのぼり、企業全体での社会貢献意識が高まった結果、他の企業でも同様の活動が広がっている。

献血へのアクセスを改善

 献血をもうすこし身近で、気軽にできるように、献血車の運行や献血イベントを増やす必要がある。例えば、献血カー(献血車)は、多くの企業や地域で利用される。献血者がオフィスや学校など身近な場所で献血できるようにすることで、献血参加者の増加に繋がるのではないだろうか。
 さらに、普段忙しい人々にも献血しやすい環境を提供するため、24時間対応の献血スポットを増設するのも有効である。日本の都市部では、献血ができる時間帯が限られており、こうしたスポットの設置により、さらに多くの献血者を引き寄せることが可能となる。

実際の事例

  • 大阪府での献血カー活動: 大阪府では、「献血カー」を使い年間数百の献血イベントを実施。特に都市部では、昼休みの時間帯に企業の近くに献血カーを配置し、仕事の合間に気軽に献血できる環境を提供。

  • 渋谷駅前の献血ポータル: 東京・渋谷に設置された24時間対応の献血スポットでは、夜間や休日の献血者が増加。これにより、仕事終わりや外出ついでに献血をする人が増え、献血のハードルが下がった事例。

献血後の報酬・感謝のメッセージ

 献血に協力した人々に対し、感謝のメッセージや報酬を提供することで、参加者のモチベーションが向上する。企業との連携により、献血者に感謝の意を込めたギフトやクーポンなどが提供されることがある。
 例として、日本赤十字社が行ったキャンペーンでは、献血者に限定デザインのTシャツやギフト券の配布などにより、参加者が積極的に献血に協力するようになった。さらに、献血後に感謝の意を表す手紙を送ることで、次回の献血への参加意欲を高めることができる。

実際の事例

  • 楽天とのコラボイベント: 楽天グループは、社員の献血参加を促進するために、献血に参加した社員にポイントを付与する制度を導入。これにより、社員の献血参加率が20%向上し、地域の献血供給量も増加。

  • 東京駅での感謝イベント: 東京駅近くで行われた献血イベントでは、献血後に「ありがとうカード」とともに、地域特産品のクーポンが配布された。これにより、献血参加者が次回も参加しやすくなり、1年を通して献血率が10%増加。


6. おわりに

献血がもたらす未来への希望

 献血は、単に血液を提供すること以上の意義がある。それは、命を救うだけでなく、社会全体に貢献できる行動であることだ。献血を通じ、ひとりひとりの小さな貢献が集まることで、大きな力となり、たくさんの命を守ることに繋がる。

 日本では、今もなお血液不足が問題となっており、毎年、何千人もの患者が血液製剤を必要としている。例えば、1日に必要な血液量は約2,000ユニット(=800~1,000人分の献血分に相当)と言われている。
 一人一人が献血に協力することで、確実に多くの命を救うことができる。そして、次回の献血がその命をつなぐ大切な瞬間になることは言うまでもない。

誰か1人の献血が、あなたの命を救う

 献血はただの義務ではなく、あなたの手のひらから希望を生み出す大切な行動である。次回の献血には、ぜひ参加してください。

出典元

  • 日本赤十字社 「献血に関する統計」

  • 日本赤十字社 「献血の必要性について」

  • 厚生労働省「日本の献血事情」

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ヲタク行政書士®榊原沙奈
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