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経験則から「ストーカー気質」の共通項と対策を考える
はじめに
当コラムは、ストーカー行為がもたらす社会的・心理的影響や背景について掘り下げるものであり、決して犯罪行為を助長するものではありません。
ストーカー行為の抑止と、ストーカー被害に悩む方の心の痛みをできる限り理解し、役立てていただくことを目的としています。
自らが加害者になる可能性に気づき、被害者の方には少しでも安心し、自らの体験を尊重されるような情報発信を心がけます。
また、同じ問題に直面している方が適切なサポートを受けられるよう願いを込めています。
ストーカーは犯罪行為です
ストーカー行為は犯罪です。
相手の意思に反する接触や監視行為は、相手の自由や安心を侵害するものであり、法律により厳しく処罰されます。理由は問われません。
理由・状況にかかわらず、あなたの行動が特定の相手に不快感や恐怖を与えるものなら、それは許されるものではありません。
自らの感情・行動に問題を感じたときは、早急に専門家に相談し、正しい対処方法を学ぶことをオススメします。
ストーカーとは
ストーカーとは一般的に、相手の意に反し、執拗な接触や監視を行う人を指す。
(そもそも、ストーカー自体が一般的な存在ではないのだが…。)
ストーカー行為の定義
ストーカー行為の定義は、下記のような行為の継続・反復により行われるものと定義されている。
ストーカー規制法 第2条(定義)
この法律において「ストーカー行為」とは、次に掲げる行為をいう。
1.つきまとい、待ち伏せ、押しかけ、住居等への侵入その他これらに類する行為
2.監視し、またはこれに類する行為
3.電話をかけ、またはこれに類する行為
4.手紙、電子メール等を送付することによるその他これに類する行為
5.名誉を傷つける行為
6.性的羞恥心を抱かせるような行為
7.その他、前各号に類する行為
(1)回数にかかわらない
ストーカー規制法において、電話、手紙、メール等の送付が「ストーカー行為」に該当するかどうかを判断する基準として、具体的な通数や頻度につき、明確な基準は設けられていない。
ただ、法的な運用や判例上、単発の行為ではなく、「繰り返し」「継続的な」接触をストーカー行為と認識するようだ。
つまり、数回の電話や手紙、メールの送付を繰り返した結果、被害者に不安や恐怖心を与えてしまえば「ストーカー行為」に該当する。
頻度についても同様に、明確に何通以上、何回以上との規定はないが、被害者に不安や恐怖心を与える程度に繰り返されれば、ストーカー行為とみなされる。
例えば、短期間に複数回の電話をかけ、メールを送り、被害者に嫌悪感・不安感を生じさせれば、ストーカー行為とみなされる可能性がある。
(2)名誉を傷付ける行為とは
名誉を傷付ける行為とは、被害者の社会的評価や信用を低下させ、精神的にダメージを与えるような行為を指す。
具体的には、加害者が被害者に関する虚偽の情報を流したり、誤った噂を広める行為などが考えられる。
被害者の社会的地位や個人の尊厳を傷付ける発言・行動をとることも、名誉毀損に該当する。
例えば、公衆の面前において被害者を侮辱する、誹謗中傷を行う等がこれに当たる。誹謗中傷の方法は問われないため、インターネットやSNS上で
行った場合も該当するものと考えられる。
性的指向、人種、信条、職業などに基づく差別的な発言・行動を繰り返し行う事も、名誉を傷付ける行為に該当する場合がある。
これだけにとどまらず、被害者が過去に受けた個人的な出来事や失敗、本人が恥ずかしいと感じるエピソードを公然と広め、被害者を社会的に孤立させる行為も名誉を傷付ける行為となるため、注意していただきたい。
(3)性的羞恥心を抱かせるような行為とは
性的羞恥心を抱かせるような行為とは、被害者に対し、性的な内容で不快感や羞恥心を与えるような行動を指す。
具体的には、加害者が不適切な性的な言葉・コメントの繰り返し、被害者が嫌がっているにもかかわらず、性的な関係を強要し、嫌な思いをさせる行為が該当する。
被害者が拒絶しているにもかかわらず、身体的に触れる、抱きつく、不適切な距離で接触する行為が問題となるのは言うまでもないが、性的な意味合いを持つものを一方的に贈ることや、性的な内容のメッセージや写真・影像を送信する行為も「性的羞恥心を抱かせる行為」と認められる可能性がある。
いずれの場合も、ストーカー行為に該当するかについては明確な数値基準を持たず、その繰り返し、頻度、被害者の反応、行為の内容などを総合的に判断される。
ストーカー行為の影響
ストーカー行為がもたらす影響について考える。
1.被害者への心理的影響
ストーカー行為が被害者に与える心理的影響として、下記が考えられる。
持続的な不安感、恐怖心
精神手被害
社会的孤立
自尊心の低下
ストーカー行為により、被害者は、常に監視され、次に何が起こるかわからない恐怖に苛まれる。被害が長期化すれば、うつ病、不安障害、PTSDを発症するリスクも高まり、心身の健康に重大な影響を及ぼすだろう。
また、人間関係や社会活動に対して恐怖心を抱くようになり、外出や他者との接触を避けるようになることもある。その結果、被害者は社会的に孤立する可能性がある。
最も酷いのは自尊心の低下で、自分が標的となっている状況について内省する場合である。被害者に何ら落ち度がないにもかかわらず、自分のせいだと誤認し、自分を追い詰めることがある。
予防と対処には、専門家のサポートだけでなく、社会的な支援も大切であるが、自分自身の力を信じて行動することも同じくらい大事なのは言うまでもない。
2.社会的影響
ストーカー行為は、被害者に対し、深刻な心理的影響を与えるだけにとどまらず、その行為自体が社会全体にさまざまな影響を及ぼす可能性がある。
当事者の社会的孤立
健康状態の悪化
社会的信頼の低下
経済的影響
法制度、規範の変化
具体的な影響として、被害者が仕事や学校に行くことができなくなる、パフォーマンスの低下などが挙げられる。これは、ストーカーの存在そのものが精神的な負担となり、集中力の欠如、日常業務遂行に支障を来す原因となる。
家族、友人に心配をかけまいと自ら孤立する被害者もいれば、ストーカーが公共の場に現れることで、公共の場そのものに恐怖感を抱き、社会生
活と距離をはかる被害者もいる。
ストーカー行為が職場で発生した場合、被害防止のために、企業や組織は対応策を講じる必要がある。
この際、セキュリティ強化、ルールの厳罰化、人事異動、職場環境の調整などの経済的負担がかかるほか、ストーカー行為による健康状態の悪化に伴う医療機関の受診等に基づき、経済的な影響を受ける可能性もある。
3.加害者自身への影響
ストーカー行為は犯罪であり、加害者本人は逮捕・起訴の対象となる。
これにより、社会的屎尿を失い、孤立することもあるだろう。
そもそも論になるが、ストーカー行為を行う人の中には、元々精神的な問題を抱えているケースも多い。これを放置した結果、更に悪化することもあり得るため、見過ごすわけにはいかない。
4.中長期的な影響
ストーカー行為について、行為の終了と問題解決のタイミングが同時とはいかない。被害者は長期にわたり、恐怖心、不安感を抱え続けることがあり、他者への信頼を取り戻すことが困難な場合がある。
これらの影響は中長期間に及び、被害者の回復には、法的・治療的な介入と、時間が必要である。
過去のストーカー被害について
筆者は過去に3度、ストーカー被害に遭っている。
ストーカー規制法の施行日は2000年11月15日。
当法律は、ストーカー行為を規制し、被害者を保護するための法的枠組みを提供するもので、加害者に対し、警告や禁止命令を出すことができるものであり、被害当時には施行されていた。
いずれもストーカー規制法の定義に該当し、何らかの措置を期待できるものだが、警察は満足な対応をしてくれず、無知な筆者は簡単に諦め、泣き寝入りするしかなかった。
ストーカーの特徴
過去の被害や予備軍の言動から、彼らに共通する特徴やパターンが見られた。あくまで傾向に過ぎないが、筆者が「ストーカー気質」と呼んでいる特徴を下記に紹介する。
情緒不安定
過剰な執着
拒絶耐性の低さ
孤独感と自己肯定感の低さ
愛情と執着のはき違え
自己中心的思考と感情の誤認
1.情緒不安定
ストーカー気質とは、端的に言えば「感情のコントロールが困難な人」である。
通常、ストレスやフラストレーションを感じた場合、感情の高ぶりに気づき、調整を試みる。
例えば、深呼吸をしたり、短時間でも1人の時間を設けたりするだろう。原因となる事柄に対し、自分の感情を適切に表現する方法を選び、他者との関係を極力乱さぬ配慮がある。
しかし、ストーカー気質の場合、感情は認識しても、それを適切に処理する能力が低く、感情を爆発させる。自己中心的な視点で物事を捉え、相手の意図、状況を理解しようともせず、自分の感情を最優先に行動する。
これらはストレスやフラストレーションの大きさに比例し、相手に対する執着や攻撃的な言動に直結する場合がほとんどである。
2.過剰な執着
ストーカー気質の人は、過度な執着を見せる傾向にある。
例えば、特定の人に対し、強い恋愛感情や行為を抱き、相手にしつこく連絡を取る、無理に会おうとする、何度も自分の気持ちを押し付けるなど、他者の意志はお構いなく自分の欲求を満たすことのみに暴走する。
本来であれば自分で考え、自己調整や、必要に応じ他者に助けを求めるような場面であっても、自己解決すべき事柄を相手への依存で解決しようとするため、感情の爆発や執着に繋がるのだろう。
3.拒絶耐性の低さ
ストーカー気質の人は、拒絶に対し過剰反応を示し、感情的な混乱を引き起こすことがある。事実にかかわらず、当人が「拒絶された」「無視された」と感じると非常に深刻に受け止め、自己評価の低下や喪失を恐れるているのが原因と推察する。
感情的な動揺が大きくなった結果、相手の拒絶や無関心な態度を受け入れられず、しつこく接触を続ける。自分の欲求を押し通すことにしか焦点は当たらないため、結果として、相手には大きな負担を強いていることに気づくはずもない。
4.孤独感と自己肯定感の低さ
孤独感とは、他者との社会的な繋がりや理解を欠いた状態、または人間関係において不満を抱える状態を指す。孤独感を感じる人は、周囲とのコミュニケーション不足や、他人に理解されていないと感じることが多く、この感情が強くなるほど、自分の感情を他者に共有することが困難となり、更なる孤立感を助長する原因となる。
その結果、終わりのない孤独感について、他者からの注意・関心を得ることが唯一の解決法と誤認し、承認欲求が過剰になる。
自己肯定感とは、自分自身の価値をどれくらい認め、肯定できるかという感覚を指す。これが低いと自分に自信を持てず、他者と比べ自分は劣っている、自分の存在は他者にとって重要ではないとの考えに繋がることがある。
自己肯定感が低い場合、自分の感情や欲求を満たす方法が他者に偏るため、ストーカー気質の人の多くは、被害者の反応に自分の価値を見出そうとする。
例えば、相手からの無視・拒絶は自分自身の存在否定と受け止め、これに強い反応を示す。自己価値観を高めるために「相手の関心を引かなければならない」と強く意識し、相手の反応こそが自分の存在証明であると考え、それを得られないことに不安や恐怖を抱くのである。
5.愛情と執着のはき違え
感情コントロールができないストーカー気質の人は、愛情と執着の区別がつかない。愛情と執着を混同する理由として、依存心の強さや過去のトラウマ、理想化や過度の期待が考えられる。
自己肯定感が低い場合、他者からの優しさや承認を自分の存在価値として捉えることがある。愛情を与えられることで自己肯定感が高まる一方で、依存的な思考に傾き、相手を手放すことができなくなる。
その結果、愛情ではなく執着心を抱くことになる。
愛情に関して傷付いた過去がある場合、同じ状況を避けようと過度に依存することもある。相手の愛情こそ自分の安心・安定感に直結するため、執着心は強まるいっぽうだろう。
また、相手を理想化し、過剰に期待することも多く、自分が愛されていないのではと不安を抱ことも多い。結果として、相手の反応や愛情を過度に求め、確認し続けなければ不安に駆られるため、健全な愛情を感じる余裕はないのだろう。
6.自己中心的思考と感情の誤認
自己中心的思考とは、自分の感情、欲望、期待について、他者と同等に重視し、相手の立場や感情を十分に理解することなく、自分の思い通りに物事を進めようとする思考や行動様式を指す。
端的に言えば、他者の感情やニーズを無視し、相手との関係において自分の期待を最優先する思考である。
ストーカー気質の人は、相手の意思・感情は二の次である。
自らの期待が満たされぬことに不満や焦りを抱き、過剰な反応や侵害行為の引き金となる。
例えば、相手の無関心な態度や拒絶的な反応を「無理解」「悪意」と誤認し、執拗な接近や過剰な連絡等につながる場合がある。
感情の誤認とは、相手の言動や態度を誤って認識し、それに基づき不適切な感情を抱くことを指す。ストーカー行為においては、相手の言動を自分の期待通りと解釈し、誤った結論を導き出すことにつながる。
例えば、単に親しみやすい態度や、礼儀正しく接してくれたことに対し、自分への恋愛感情を示していると誤認し、過度な期待を抱く場合や、相手が忙しく返信が遅れただけにもかかわらず、無視されたと感じ、相手に対する不安や怒りの原因となる場合が挙げられる。
自己中心的な思考で相手を見ている場合、相手の自由な意思・感情は完全に見えない。ここに感情の誤認が加わった結果、相手が自分の思い通りに行動しないことを自分への攻撃、無視と受け取り、正当化するために過剰な行為に及ぶことになる。
ストーカー気質の人ヘの対処法
ストーカー気質の人に対処するには、当人が抱える心理的問題や行動パターンを適切に判断する必要がある。予防・対処について、状況により異なるのは言うまでもなく、相手の行動が犯罪に発展する前に対応すべきである。
1.明確な境界線を設定する
ストーカー気質の人は、他人の空間や感情を尊重せず、自己中心的な考えに基づき行動する。
そのため、相手が不快な行動を取った際は「NO」と言い切り、自分の限界を明確に伝える必要がある。下手な優しさは誤認を招くため、一貫した主張を心がけたい。
2.過度な接触は避ける
過度な接触、不必要なやり取りは、ストーカー行為を助長する可能性がある。相手が自分に対し、過剰な関心を寄せ執着している場合、下記に注意してほしい。
コミュニケーションを控える
返事は短く簡潔に
冷静に対処する
3.相手の感情に配慮する
ストーカー気質の人は、感情や欲求が過剰であり、同じように過剰な反応を示すことは避けたい。
相手の気持ちに共感することは素晴らしいが、それが過度な親密さや関係の進展可能性を示すものと誤認させないためにも、感情的な反応は避けるのが吉。これらは言葉に限らず、ボディランゲージや表情といった非言語的なものにまで配慮する必要がある。
相手が過度な期待を寄せている場合、適切なタイミングで期待に応えられないことを示す必要がある。
例えば、相手があなたのプライベートに介入しようとする場合、「個人的なことには立ち入らないで欲しい」「自分はそのような関係を望んでいない」という意思表示を早期に行うのが望ましい。
4.行動の問題を指摘する
相手の行動が不快な場合や、過度の期待を感じている場合、それらが自分に与える影響について説明するのも有効である。
例えば、「あなたが頻繁に連絡してくることが私にはプレッシャーであり、会うことに抵抗を感じる」と伝えることで、相手の行動が自分に及ぼす影響を説明することで、相手は自分の行動と結果を理解し、反省するきっかけとなる場合がある。
相手の行動を指摘する際は、冷静かつ具体的な行動を挙げ、自分の意図や境界線を明確に示すことをオススメする。建設的なフィードバックは誤解の回避、健康的な関係を築く鍵となるだろう。
5.第三者に相談する
ストーカー気質の人からの過度な期待や、ストーカー行為への対処法として、第三者への相談も有効である。
相談相手は、信頼できる相手であれば家族、友人などが望ましいが、職場で問題が生じている場合、会社が適切な対応をとる必要があるため、上司や人事部門など、一定の権限をもつ期間への相談が望ましい。
また、心理カウンセラー等の専門家への相談は、その後の行動について明確な方向性を示してくれるだろう。
相談時には、できる限り具体的な状況を伝えるといい。相手の行動、自分の感じていること、何に困っているかを整理して伝えるとより効果的なアドバイスを期待できる。
最も大切なことは、相談だけで満足せず、相談内容に応じた適切な行動を取ることである。
6.自己防衛の強化
自己防衛とは、自分自身の物理的な安全と精神衛生を健康に保つために積極的に行動し、外部からの気概や不安を軽減するための方法を講じることを指す。
物理的な安全対策として、出入り口や窓の施錠徹底、監視カメラの設置、照明器具の設置のほか、人目の多い場所や明るい道を選ぶこと、常に連絡を取り合うこと、安全グッズの携帯が有効である。
相手の行動に危険を感じた場合、証拠を残し、警察に相談して接近禁止命令の申請も検討するといい。
心理的な自己防衛手段として、相手との境界線の明確化、感情的な距離をはかる、信頼できる人とのこまめな連絡、カウンセリング等を受ける方法を検討する。家族や友人、カウンセラー等、心の支えとなる人との関わりは、自分自身の孤立感を軽減し、ストーカー行為に対する不安の緩和に役立つだろう。
7.法的措置を講じる
ストーカー行為や過度な期待が続く場合、法的措置を講じる。
ストーカー規制法では、警告、接近禁止命令、退去命令を出すことができるほか、これらに違反した際は懲役刑や罰金刑が科されることがある(ストーカー規制法第2条、第3条、第4条、第5条、第9条)
刑事罰のほか、民事訴訟を提起して損害賠償を求めることもできる。
具体的には、ストーカー行為により受けた精神的苦痛に対する慰謝料や、名誉回復のための謝罪広告、訂正文の公開を求めることができ、場合により物理的な損害賠償を請求できる。加えて、裁判所は再発防止のため、加害者に対し特定の行動を禁止する措置をとることもある。
これらの法的措置を講じる場合、弁護士への相談をオススメする。
弁護士は、法的な手続の代理・代行を通し、あなたの権利を守るために必要な対策や手続を案内してくれるだろう。
経験則から「ストーカー気質」の共通項と対策を考えるまとめ
当ページでは、筆者の経験則より「ストーカー気質」の共通項と対策について考えてみた。
困ったときは1人で抱えず、他者に頼ることも必要である。
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