イオンモールの2階、息子は繋いでいた手を振りほどいて小走りに走って行った。
『こら、店内で走らないよ!』
僕は父親らしい言葉を投げ掛けながら後を追う。
よちよち歩きのチビ助だったこの子が、元気に走ってる姿に実は込み上げてくる物があった。
『こら、前良く見て!』
ふらつく前に捕まえて、また手を繋いだ。
随分速くなったな。
そう思った。
学校からの連絡帳にも体育の時間の駆けっこで学年ぶっちぎりの速さだったと先生から書かれていたのを誇らしげに思い出した。
褒められる事が好きな息子はきっと、自分が俊足と思ってることだろう。
悪いことをして、怒られるまでがワンセットの遊びと捉えてるのかもう一度手を振りほどき走りだした。
左右の足の可動域に差があるせいか歩幅が一定でなくカチャカチャ走る。
15メートルいくと息が切れ、足がふらつき止まるか、転ぶ。
それでも特別支援学校(昔でいう養護学校)の中ではぶっちぎりで速い方になる…
息子は普通学級がある事をしらない
身体的のみならず精神的な発達の遅れもある
来年中学生だが、未だに電車に『電車さんバイバイ』と言いながら手を振る
俊足
その拙い動きで、一歩一歩、ゆっくりゆっくり
僕に何かを教えるために走ってるのかも
あと数日早く産まれれば生きていけないほどの週数で、超低体重出生児として産まれて直ぐにNICUに入った息子に贈った詩がある。
お見舞いにくる親と医療スタッフさんとの連絡日誌の1ページ目に書いておいた。
『貴方は今日旅立ちました。人より少し早い船出です。積み荷は何もありません。そんなものは旅先で手に入れるつもりなのでしょう…何て無茶で無謀な事を。
でも勇敢な冒険家はそうなのかもしれません。仕方がないのでお伴します。一緒に人生と言う名の長い道のりを旅しましょう。』
キャプテンと僕と妻と