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俺の中のマオリ族がハカを踊り出す。

去年、ラグビーW杯が日本で開催され、日本各地でラグビーが行われたことによるラグビーブームが起きたのは記憶に新しい。
そんななか今までのW杯でなし得なかったベスト8に日本が入ったことも日本中を歓喜の渦に巻き込んだ。
結果として2019年W杯優勝は南アフリカが2大会ぶりに果たし、幕を閉じたわけだが、去年のW杯を盛り上げてラグビーブームの熱を加速させた国がある。

それはニュージーランドのオールブラックスだ。チームカラーの黒とその雄々しい姿は観るものすべてを魅了したと言える。

そして彼らの特徴は試合前に行われる「ハカ」も印象的だろう。

ハカはニュージーランドの伝統民族マオリの漢の鼓舞で、ワールドカップなどではかなり有名なのだが、私が初めて「ハカ」を観たのは高校一年生の時だった。

それは何気なく始めたラグビーの部活をきっかけにたまたまその年に開催された南アフリカW杯のニュージーランドのハカを目にした時だ。

それはかなりの衝撃で、いまだに忘れない感覚がある。身体の奥から炎が焚き上がるような感覚に襲われてニュージーランド代表の堂々たる姿に内側から燃え上がったのを憶えている。
そんな当時、思い出すかのようにハカの動画を見てはマネしたりしているうちに、自分という存在が窮地に立たされそうになった時、不意にハカを舞いたくなる衝動に襲われるようになった。

たとえば高校の怖い先生に怒られている時や、
床を滑ってこけそうになったところを見られた時、居眠りを注意された時など用途は様々だが自分がどうしようもなく苦しくなった時に私の中のマオリ族が雄々しくそして逞しく鼓舞してくれるのだ。

なんとか今までその衝動を抑えてはきたものの、一度だけその感情が抑えられなかった時がある。

それは東京に上京して、初めて勤めたイベント制作会社での出来事だった。
その日はイベントの準備が佳境に差し掛かり、少し職場もピリピリとしていた時だった。トラブルが起きた。イベントに参加するお客様に配る予定のプレゼントにちょっとした手違いがあり、その発注をやり直さないといけなくなったのだ。その発注をしたのは私だった。
その時は明確に原因が突き止められなかったため、発注した私のミスと思い込んだ上司からキツイ叱咤と罵りを受け、精神的に追い込まれていた。

なんでこんなことになるのだろうか?上司に叱られながらも自分が正しいと自信を持てなくて、暗く沈んでいた時。

きっかけは上司の一言だった。
「言われたこともできないのか?どうなんだ?お前なんとか言ったらどうだ?クソが。」
その瞬間である。つい、ほんの出来心だったのかもしれない。ついつい相手がポカンとする顔を見たかったとか、ピリピリした空気を和ませるためだったとかそんな気持ちだったのかもしれないが、いつのまにか身体を叩きながら、「ガバテガバテ!ガバテガバテ!」と渾身のハカを披露していた。

凍りつく職場。
鬼っツラの上司。
殴られた額。
そしてハカを披露できたという謎の達成感に包まれながら、私はその2ヶ月後に会社を退職したのだ。

ここ最近は、だいぶ私の中のマオリ族も大人しくしているが、何かをきっかけにまたぴょこっと体現してくるかもしれない。

そんな時は改めて人生の分岐点なのかもしれないと思いながら帰りの電車でハカだけでなくカパオパンゴのイメトレをして帰路に着くのであった。

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