雨男救われる。
私は雨男だ。
多分、そこそこついていないほうだと思う。
ここぞ大事な日に限って雨が降ることが多い。
たとえば、大学受験の日も地元で観測史上最大の大雨に降られ、受験に失敗したことをきっかけになったのか、今後も大事な局面に対して大雨が降っては、降られるまま、人生までも振り回されることが多いのだ。
特に多いのは男女関係に関してのここぞの運はとことん雨男の呪縛が発生することが多い。
女の子に告白する日は雨に降られるだけじゃなく、食べに行こうと思っていたレストランは休日だし、夜景を見に行こうも霧かかってムードもクソもぶち壊されてきた。そして振られるがまま雨の日を後にすることが多かった。
そんなとことん運がない私ではあるが、唯一雨男で良かったと思ったことがある。
それもまた男女関係に関わることではあるが、ネットで知り合ったアンナという女性と会食することになった。その日は自由が丘のお洒落な焼き鳥屋さんで食事をすることになったのだが、そんな日に限って雨は降られるのであった。今回も天は味方してくれないのかと、心から嘆いていたのだが気持ちを引き締めて彼女を居酒屋前の踏み切り前で待つことにした。
時間もまだまだ18時頃だったせいかスーツ姿の人よりもマダムたちがオシャレ街自由が丘をふらついている。しかも左手には茶袋にはみ出したフランスパンを持っていて、住む世界がまったくもって共感できない状態でいた。こんな場所で1人孤独を感じながら彼女を待っているとだんだんと自信を失っていき、雨で降られているせいかなんとなくだが'今日もうまくいかない'という思いが募っていくのである。そんなことを考えていると、踏み切りがカンカンと音が鳴り遮断機がゆっくり降りていくのを目で追っていくと降りた先に1人の女性が立っているのが見えた。相手と目が合うと向こうから合図を送るようにしっかり僕の目をみつめてくる。
多分あの人がアンナさんだろうと思い、こちらから手を振った瞬間、電車が勢いよく目の前を遮った。電車の汽笛が鳴り響き、勢いよく通る電車を弾くようにして雨が霧がかって私の鼻先を湿らせる。
ようやく電車が通ると遮断機が上がり切る前にこちらまできて「はじめまして、雨濡れてないですか?」と声をかけてくれた。上手い返しを全く思いつかずついつい卑屈に「いえ、大丈夫です。僕雨男なんで」と答えてしまった。第一印象としては最悪だなと思った。
けれど彼女は続けて、「そんなことないですよ。今日の出会いが雨に降られているってことは晴れてるよりも思い出になりませんか?」と言ってくれたのだ。私は続けて「そんな考え方もあるんですね。私は雨に降られると大概うまくいかなかったので、今日もダメかもしれないと思ってました。」と悲観なコメントを伝える。本当にダメなやつだ。雨に降られて人生も振り回されるとこうも嫌気なことしか言えなくなるとは。そんな自分自身が嫌になっているとアンナさんは「私もそしたら今日から雨女ですね。あなただけじゃなくて私も降られているわけですから」「はじめましてあんなです。はやく居酒屋に入っちゃいましょう」彼女に手を引かれるまま居酒屋に入っていく、彼女と手が触れたときこんな雨の中なのに、指先が暖かくアンナさんの熱が伝わっていった。その熱が手先からゆっくりと胸の辺りまで温まっていくのを感じる。今日この日にアンナさんと会えたことだけは私の中で雨男でよかったと思えた瞬間だった。
ただ、彼女とはそれ以降全くタイミングが合わずすれ違う日々が続いていった結果、アンナさんは東京の仕事を辞めて地元岡山に帰ることになってしまい、今では連絡を取ることもなくなったのだった。
やっぱり雨男で男女関係にはとことん天気についてないと思わされるのだが、アンナさんのおかげで雨の日も少しは悪くないなって思えるようになったのだ。
雨の日をたのしむことから一歩づつ前進していきたい。
そんな中、明日の休日は天気が崩れる上、コロナの影響で外に遊びにいくこともできない。
やっぱり私は雨男。
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