感想:映画『愛してるって言っておくね』影と色が示すもの

【製作:アメリカ合衆国 2020年公開 Netflixオリジナル作品】

学校での銃乱射事件により、娘を亡くした一組の夫婦。ショックで塞ぎ込むふたりが、娘との思い出を振り返ることを通してその死を悼めるようになるまでを描いた短編アニメーション作品。

本作は手描きのタッチで描かれた2Dアニメーション作品である。
平面アニメーションの特性を生かし、心象風景と現実の光景を滑らかにつないで、人物の心の移り変わりを丁寧に描いた作品だった。

冒頭の夫婦は娘の死によって感情をうまく表すことができなくなっており、娘の部屋に入ることや会話することもままならない。画面からは色味が抑えられており、ふたりの表情は変化に乏しい。また、アニメーションのコマ数が少ないことによるぎこちない動きも、喪失感による時間の流れ方の変化を表している。
一方、作中では、夫婦と娘の内心や記憶がそれぞれの「影」として現れる。影は夫婦が表面化させていない感情をぶつけ合い、自在に身体を伸ばして昂る思いを表現するが、現実に直接影響を及ぼすことはできない。
 「影」は現実のふたりを追い越す形で、娘が生まれたときから、銃撃が起こる日の朝に彼女を送り出すまでを追体験する。
ここでは心象風景と実際にあった出来事、現在のふたりの様子がカメラのパンや「影」を用いた演出でつながれている。
記憶と現在の混交・転換がスムーズに行われるのは、異質なモノを絵で表現することで同質化できるアニメーションならではの表現だと思う。
学校が銃撃に見舞われる中、娘は親に向けてメッセージ機能で"If anything happens I love you"(「愛してるって言っておくね」)と送信する。この文字列が溶け出して雨となる演出は特に印象的だった。

なお、作中ではこのメッセージが発信されてから親がメッセージを読むまでの間に娘は命を落としたことが示唆される。携帯の留守電やメール、SNSへの投稿などで死に際した者がメッセージを残す行為は、それがリアルタイム性のあるメディアにも関わらず、受け手と読み手の間にタイムラグが発生し、その断絶は時間が経つにつれて拡大するのみで埋まることがない。
電子機器を介した連絡においては発信された日時が明確に残るため、その人が生きていた/命を落とした時点や、そこからの時間の経過が具体的に示されることになる。デジタルタイムスタンプの存在によって、「形見」の受容にどのような変化が起こるかについては今後も考えていきたい。

本作は基本的にモノトーンの画面で構成され、家族3人での旅で見た絶景(グランドキャニオン?)や夕焼けなど、演出上強調される箇所に色が用いられる。
終盤、銃撃が起こっている教室の入り口の上に掲げられた星条旗にも鮮やかに色がつけられる。
本作では銃撃の様子は直接描かれず、この入り口をと星条旗を映したショットに発砲音が重ねられる形で示される。
このショットではアメリカ合衆国において銃撃によって多くの人が命を落としている現実が訴えられる。国旗の強調は国粋主義的なトランプ政権が国内での人々の分断を招いていること、加えて銃規制に消極的であることが、こうした事態を引き起こしていることへの風刺と捉えられる。
言葉による直接的なメッセージを抑えつつも、明確に社会に対して問題提起を行う作品だと感じた。

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