傷害記録フォーマット『SOAP note』
今回は前回の内容の続きになります。
まだ『記憶じゃなく記録するということ』を読んでいない方は、そちらを読んでいただくと内容が分かりやすいかもしれません。
前回は、トレーナーとして日々、関わるチームで起こるケガを記録して保存をしていく事には大きく4つメリットがあるということをお話しました。それらの記録を電子化することでさらにトレーナーとしての業務を効率よく、質の高いものできるという内容でした。
今回は、傷害評価を記録するにあたって便利で最も一般的なフォーマットである『SOAP note』についてお話ししたいと思います。
傷害評価書の内容は、発症したケガについて的確であり無駄のないシンプルかつ、誰が見ても分かりやすい内容である必要があります。
さらにフォーマットを作り、それに沿って記録しておくことで毎回、同じ項目、内容での記録ができ、後日見返しやすいものになります。過去データの抽出の際も非常に簡単な作業で統計も出しやすくなるというのもメリットです。
〜SOAP note〜
SOAP noteとは、医療看護の現場で患者さんの抱えている問題についての症状や経過を記録する際に広く用いられるProblem-Oriented Medical Record(POMR):問題指向型診療録のフォーマットのひとつです。このフォーマットの大きな特徴は、記録する内容を以下の4つの項目に分けて整理をし、ケガの状態・経過を記録する点です。
Subjective(主観的情報)
Objective(客観的情報)
Assessment(評価・診断)
Plan(行動計画・治療計画)
では実際に、各項目でどのような内容を記録していくのか説明していきます。
Subjective(主観的情報)
この項目では、ケガを受傷した選手自身が主観的に伝えた情報: 選手の基本情報から始まり、既往歴、ケガの受傷機序(メカニズム)、現在のケガの症状とケガが及ぼす身体の機能制限などについて質問を用いて選手に問診しながら記入していきます。
Objective(客観的情報)
この項目では、トレーナーが診察・検査・テストなどから得た客観的な情報を記入します。
上記のように客観的評価は、全部で6つの要素で構成されることが一般的です。
1. 視診: 姿勢、歩行姿勢、変形、変色など
2. 触診: 温感、変形、腫脹など
3. 関節可動域および軟部組織の筋力・機能テスト: AROMやPROM、MMT
4. Special Test: 膝ロックマンや肩オブライアンなどの関節や軟部組織の安定性や機能性のテスト
5. 末梢神経チェック: 感覚神経、運動神経、反射
6. 循環器チェック: 脈拍、血管再充満など
Assessment(評価・診断)
この項目では、トレーナーによる主観的情報 と 客観的情報を元に考えうる総合的なケガの評価・診断結果を記入します。
Plan(行動・治療計画)
ここでは、評価を基にどう対処・行動するのかを決定し治療計画やリハビリ計画を構築し記入します。選手の競技活動(練習や試合)参加の可否や運動制限もこの項目に含まれます。
実際のSOAP note の一例
Subjective: 高校2年生女子バレーボール選手(受傷日)2011-05-24
- 傷害メカニズム:試合中、ブロックジャンプをし、跳ね返ったボールの上に着地した際に右足関節の超底屈
- 痛み: 4/10@右足首外側部と距骨、脛腓靭帯前部
- 目視できる明らかな腫脹無し
- 循環器(皮膚が冷たかったり)、神経症状(麻痺や力が入らないなど)認めない
Objective:
- 軽腫脹有り(可動域に制限を出さない程度)
- 斑状出血、内出血は確認できない
- AROM: ALL WNL 可動域に左右差は認めないが、内外反と底屈で痛み有り
- PROM: ALL WNL 可動域に左右差は認めないが、底屈と内反と底屈内反で痛み有り
- MMT: ALL 5/5 底屈と外反で痛み有り
スペシャルテスト
- アンテリアドロワー(ー)
- クレイガー(ー)
- オタワアンクルルール(ー)
- Joint Play (ー)痛みはあるが、エンドポイントは確認でき、各靭帯(ATFL,CFL,PTFL、三角靭帯、前經腓靭帯)完全断裂は認めない。
Assessment:
右脛腓靭帯捻挫Grade1 or 前距腓骨靭帯捻挫Grade1疑い
Plan:
RICE, EMSマイクロ、超音波(non-thermal)
*上記の一例は、フィクションであり実際にあった事例ではありません。
まとめ
今回は、傷害評価を記録するにあたって便利で最も一般的なフォーマットである『SOAP note』について詳しく説明をしました。このように常に同じフォーマットで記録することによって傷害評価の質を一定に保つことができます。SOAP noteがすらすらと書けるようになるには練習が必要ですが、何度も実践することでスピードも上がり傷害評価の精度・スキルも磨かれいくので相乗効果になります。
前回、説明した記録の電子化も含めて現在、こうした傷害評価と怪我の情報管理・保存のためのシステムを導入していないスポーツ現場は、検討してみてはいかがでしょうか?
少しでもトレーナーとして、皆さんの日々成長のお役立てになれば幸いです。
Body Updation トレーナー 中田史弥