わくわくふるほん小学校
いつもはヒグラシの鳴く声が少しかなしげにきこえる夕暮れ時。でも今日は、ほんのすこし楽しげ。いつか人が通わなくなった小学校に久しぶりのお客さんです。
遠いところのナンバーをつけた軽トラと、そこに積まれた「本の家」。旅するふるほん屋さんの「ぼちぼち堂」がやってきました。たそがれどきのヒグラシ大合唱にさそわれるように、ふと校門をくぐってしまったのです。電気が通っていないので、校庭の隅で火を焚いてあかりをともします。本が読めるだけの灯かりがあれば、夜は楽しくなります。
いろんな国を旅してきました。ここらでちょっとひとやすみ。静かな小学校で旅の骨休めをしましょうか。いろんなお仕事をしてきたけれど、今の仕事と時間が一番自分にあっているなぁと焚火をみながら想いました。旅した場所と人とのお話、そして何よりいろんな出来事をおしえてくれた本たち。
本の中には世界中の出来事がつまっています。それをひもといて、行きたいところへ旅をする。それが「ぼちぼちさん」のあきないであり、なりわいです。
そして旅の出来事を言葉にして、数葉の写真をそえて小さな本にするのが、何よりの楽しみです。いろんな国のいろんな人に、いろんな言葉で話すのが大好きなのです。みぶり手ぶりでわかったようなわからない話を、しったかぶっておもしろおかしくお話しすると、子供たちはとびきりの笑顔で微笑んでくれます。その笑顔をみると、旅のつかれもふっとびます。
でも今日は焚火の前でひとりきり。そんな夜もわるくないなぁと本を読みながらうとうとしていました。ものがたりの中では、蛍が旅をしています。そのひかりがどんどんと大きくなり、目の前に座りました。びっくりした「ぼちぼちさん」。言葉が出ません。ほたるは静かに話し始めました。
「ぼくは、君の魂です。過去へ行ったり未来を旅したりしているので、君に会うことは今までなかったけれど、今日は不思議に時間がぴたりとあってしまって、はじめて君の前にすわることができました。ありがとう。」
みみをうたがって、目をこすってみたけれど、たましいくんは座っています。話をきくとどうやら、この学校のすぐ横にある神社が時空間への扉になっているとのこと。不思議なのに、なぜか信じてしまうぼく。
すっかりなかよくなって話し込んでしまいました。ぼくの過去と未来をしっているので、ぼくは興味津々です。高校時代、郵便局のバイトで好きになった女の子の話。歌手になって歌いつづける同級生の彼の話。新聞配達をしながら通った外国語学校のこと。ゲームが好きではないのに就職したゲーム会社の先輩のこと。自給自足を目指して山暮らしをはじめたこと。タクシー運転手で経験した本当にあった怖い話。どれも懐かしいことばかり。
「未来のことは?」もちろんぼくは聞きました。
「わからない。でも、君が思った通りになると思うよ。これまでと同じさ」
これまでと同じ? ぼくが思ったことが現実になっているかと聞かれても自信はないけれど、思い当たる節はあります。そういわれればそうかもしれなません。たましいくんが言うには、未来のことは見てきて知っているのだけれど、今日の気持ちと選択で変わっていくのだそうです。
「学校をつくったらどう? ほら、ぼちぼちそうしようと思っていたでしょう?ちがう?」
え?学校だって? そういえば「こんな学校あったらいいな」って考えていたころもありました。でも確か遠い昔で、過去の過去。ぼくが学校へ通っていたころのことですよ。でも今はもう生まれて半世紀。もうすぐおじいちゃんって呼ばれるような年齢になってしまったんだから、今からそんなこと言われても…。
「いわれても…って? 君の顔には書いてあるよ。昔から。だからここへやってきたんじゃないの? ぼくも待ってたんだ。だから、ありがとうっていったんだよ。」
「ほら、君がこころの中に描いてきた地図がここにある。きのう夢でみたでしょ? ここが図書室で、ここが調理室。理科室も視聴覚室もある。もちろん使い方は君しだいだよ。どんなふうに変えてもいいし、どんなひとを集めてもいい。でも、もう呼ぶ人も学ぶ人もきまっているんだよねぇ。」
たくさんの国を歩き、日本のなかも旅をしてきました。函館の友人も、茨城の友達も、神奈川のあの人も…。思い浮かぶ人々。韓国のあのひとも、中国やラオスのひとも。必要なら、ロシア語もフランス語も、これから勉強したらいいですよね。
いろんな国のいろんな人にこの「わくわく学校」にはいってもらって、いろんな言葉で互いにお話をして、みんなの母国を訪ねあう。いろんな国のいろんな本で、おたがいの国のことを学びあおう。
校庭のすみには小屋を建ててキャンプをし、川で魚を釣ってきて食べよう!きみたちの国の料理をおしえてほしいです。
教室では音楽や文学や科学のお話をしましょう。宇宙の探検、地球の秘密探し、数の冒険にも出かけてみましょう。いろんな言葉でかんがえると、それだけ面白さが増えるはずですね。世界中の本もみんなで持ちよって、ふるほん屋さんごっこもしましょう。
おとなもこどもも一緒に真剣に遊びながらまなぶ「わくわくふるほん小学校」。おおっ! なんだかワクワクしてきました。わくわくがふってきた感じがします。世界中のひとと本とが出会う場所。そうそう、そういうことがしたかったんですよ。
そういえば思い出しました。いつか沖縄を旅した時に旅の友に「夢はなに?」ときかれて話したことがあります。
「国境をなくすこと」。
「本で」とつけくわえるともっといいかもしれません。
もしかしたら、ぼくもまだ半世紀は生きられるかもしれません。できることを楽しくして、あとは未来のひとたちに楽しんでもらえばいいのですもの。そうそう、この物語を読んでくれている人たちも、きっと手伝ってくれるでしょう。
夢のようなお話には、たぶんつづきがあります。
きみたちもいっしょにつづきのお話をつづっていきませんか?
そう「たましいくん」は、ぼくでもあり、きみたち自身でもあったりするのです。こころのなかに描いた地図は、きっと未来のぼくたちの「すてきな街」になるにちがいありません。
いつか国境を越えて、笑顔で歌って踊りましょう。それまでにぼくは、『わくわくふるほん音頭』をつくっておきます。焚火のまえでおどれるように♬