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想像の源【中延記念湯@旗の台駅】(2/2)

 平日の夜は、なぜか銭湯に行きたくなる。僕の好きなアニメ作品の『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する葛城ミサトというキャラクターが「風呂は命の洗濯よ」と言っていたが、あながち間違いではない気がする。

 自宅で仕事を終えた僕は、電車に乗って旗の台駅へと向かった。そしてそこから歩くこと数分で、今回の目的地に到着した。

「約10ヶ月ぶりだな」

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 そう、今回訪れたのは中延記念湯だ。ここには以前に一度だけ来たことがあったのだが、偶然にもエヴァシリーズの『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の中で「記念湯」という銭湯が描かれていることをふと思い出して、運命に近いものを感じた。

 さっそく暖簾をくぐり、下駄箱に靴を預けてフロントで入浴料の480円を支払いつつ、タオルのレンタルをお願いした。実は中延記念湯では、タオルセットを無料で貸し出してくれるのだ。
 店舗内は明るく、実家のような居心地の良さがある。そのまま奥に進むと、浴場へと続く通路の暖簾が男女で入れ替わっていた。どうやら週替わり制を導入しているようで、今日は前回とは違い、向かって左側の暖簾をくぐり、広々とした脱衣所で準備を済ませ、僕はいよいよ浴場へと足を踏み入れた。

「やっぱり落ち着くんだよなー」

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(品川浴場組合: https://shinagawa1010.jp/list/nakanobukinenyu/ )

 浴場は昔ながらの銭湯を感じさせる雰囲気で、趣向を凝らしたさまざまなお風呂に入浴することができる。空いているわけではないが、寂しさを感じさせないほどの適度な混み具合だ。
 僕はまず身を清め、お風呂にしばらく浸かって体を温めてから、お湯を汲んだ桶を持ってサウナ室の扉を開けた。

「今日もスチームが強烈だな」

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(品川浴場組合: https://shinagawa1010.jp/list/nakanobukinenyu/ )

 中延記念湯のサウナは、ドライサウナではなくスチームサウナである。サウナ室の中は視界が奪われるほどの大量の熱蒸気で満たされていて、室温はそれほど高くないにも関わらず、体感温度は80℃以上と思われるほど、十分に熱い。
 僕はその中に設置された椅子に少しお湯をかけてから座り、静かに蒸され始めた。サウナ室内に桶を持ち込んだ理由がこれだ。このサウナでは、自分が使う椅子をすすぐために桶でお湯を持ち込むのがマナーとなっているのである。
 そこで深呼吸をしながら目を閉じてじっとしていると、数分で全身から大量の汗が流れ始めたのを感じた。今の僕は、せいろで蒸されている食材そのものである。呼吸が苦しくなるほどの大量の熱蒸気が、僕の体を絶えず蒸し上げてくるのだ。

ーーそろそろ出ようか……。

 ドライサウナの時よりも長めに蒸されてから、僕は桶のお湯を椅子にかけてサウナ室を出て、全身の汗をすすぎ落としてから水風呂に肩まで浸かった。

「ほぉ……、落ち着くな……」

 バイブラによって振動が発生しているものの、水温は24℃と水風呂にしてはぬるめの温度に設定されているため心地よさを感じる。急激に冷やされる水風呂もいいけれど、このくらい優しいセッティングで自分のペースでじんわりと身体を鎮めるのも、それはそれで良さがある。
 そこで1分ほど深呼吸を繰り返して、火照りが落ち着いたところで僕は立ち上がり、タオルで体を拭いてから脱衣所に向かった。いや、正確には脱衣所の先にある場所だ。

「こっちの露天もコンパクトでなかなか良いな」

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(ベビーキッズTV: https://babykids.jp/nakanobukinenyu-sento-shinagawa )

 そう、中延記念湯は内湯と露天で脱衣所を挟んだ構造になっているのだ。以前に伺った駒込のロスコを思い出す設計に、僕の気分は高揚した。前回利用した反対側の浴場の露天風呂とは若干デザインが異なっているけれど、こちらの露天風呂は脱衣所に設置されているテレビを窓越しに眺めやすくなっていて、つい時間を忘れて長湯してしまいそうになる。

 僕は露天風呂の中に入り、そのまま壁際の縁に腰をかけて、空を見上げながら足湯状態で大きく深呼吸をした。

「最高だな……」

 スチームサウナは好みが分かれやすく、人によっては物足りなさを感じることもある。水風呂に関しても低温至上主義のような人にとっては20℃を超えると満足できないこともあるだろう。
 でも、僕はスチームサウナであれ20℃以上の水風呂であれ、喜んで利用させてもらいたいと考えている。設備やセッティングに納得感が無いのであれば、自分が納得できるサウナ施設を利用すべきであって、そこに不満を抱くのは間違っているのではないかと思うのだ。むしろ、あえてそのような制約の中でそれぞれの施設の違いや個性を楽しむことができるのも、サウナのおもしろさ、奥深さではないかと僕は思う。せっかく想像力を手に入れた人間として生まれたのだから。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/c/boccitokyo


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#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます