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サプライズが成立する時【ひだまりの泉 萩の湯@鶯谷駅】(2/2)

 普段は基本的に自宅か近所のカフェに入り浸る生活を送っているのだけれど、たまたま仕事の関係で秋葉原まで行く予定ができてしまった。約束の時間は16時半。せっかく自宅からドアtoドアで40分ほど離れた場所に行くのであれば、その周辺エリアのサウナを開拓しないと損である。
 今日は4月15日(木)、天気は晴天。それだけで気分が良い。僕は仕事道具と入浴グッズを入れたカバンを持って、電車に乗り込んだ。

 鶯谷駅に到着したのは正午ごろ。ここは秋葉原駅からJR山手線で2駅しか離れておらず、今回の仕事においては都合がよかったのである。
 約2ヶ月前にサウナセンターに伺って以来の鶯谷。もともとこのエリアは生活圏から離れていて滅多に来ることがなかったので、まさかこんなに短いスパンで再び訪れることになるなんて考えてもいなかった。

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 僕ははやる気持ちを抑えきれずに早々に移動を開始すると、駅を出て3分ほど歩いたところで今日の目的地が現れた。

「想像してたよりも立派じゃないですか!」

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 そう、今回伺ったのは、「ひだまりの泉 萩の湯」である。この迫力のあるビジュアルからは想像できないかもしれないけれど、実は萩の湯、地域の浴場組合に加盟する、れっきとした ”銭湯” なのだ。つまり、入浴料金は東京都が定めた470円ということである。

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 そして、都内では15時から営業を開始する銭湯が多い中、なんと萩の湯は「朝湯」として6時〜9時、そしてその後は休憩を挟んで11時~25時まで営業をしているらしい。
 ちなみに、萩の湯は上野・稲荷町にある名銭湯「寿湯」のオーナーである長沼さんが仕掛け人とのこと。それだけで期待が高まる。僕自身、寿湯には伺ったことはなかったが、その噂はかねがね耳にしていた。
 僕はさっそく中に入り、館内の階段を上って受付がある2階に向かうと、そこには銭湯とは思えないほど多くの下駄箱が並んでいた。

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(台東区浴場組合連合会:
http://taito1010.com/component/mtree/sento-list/hagino.html )

 靴を脱いで奥に進むと券売機があって、タオルは持ってきていたので「大人入浴料+平日サウナ」のチケットを670円で購入した。つまりサウナ利用料金は200円しかかからないことになる。なお、タオル込みでも740円だというのだから驚きだ。

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 その後、すぐ脇にあった受付でチケットを渡してサウナ室用の鍵を受け取り、さらに奥へと進んで階段を上った。萩の湯は2階に受付と食事処があり、男性の浴場は3階、女性の浴場は4階にある構造なのだ。

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 3階に上ると、目の前にはわかりやすく「ここから先 携帯電話使用・撮影禁止」と掲示されていた。このように「ご遠慮ください」や「お控えください」などではなく、はっきりと「ここからは禁止」と絶対に気付く位置にアナウンスしてもらえると僕としても安心できる。
 最近ではさまざまな温浴施設に行くたびに脱衣所で当たり前のようにスマホを操作するお客さんを見かけることがあるけれど、もちろんマナー違反だ。これを言われないとわからない大人がいること自体が悲しいのだが、実際に存在するのだから仕方がない。
 ただ、萩の湯のように明確に注意喚起をしてくれることによって客層が保たれ、居心地の良い空間が生まれる可能性が高まることは事実だ。この努力と姿勢に感謝である。

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(台東区浴場組合連合会:
http://taito1010.com/component/mtree/sento-list/hagino.html )

 脱衣所の広さは予想以上だった。ロッカーのナンバーは120以上あり、正確に数えたわけではないけれど、それだけの数のお客さんを収容できるということかもしれない。その規模はどう考えても銭湯の域を超えている。
 僕はさっそく荷物をロッカーに預けて浴室へと向かったのが、そのドアを開ける前にすでに驚いてしまった。なんと、ドアが二重になっているのだ。これにより、浴室内の湿気が脱衣所に漏れにくくなり快適な空間をつくり出すことに成功していたのである。
 また、ひとつ目のドアを開けたスペースはトイレと直結しているので、トイレと浴場の行き来において脱衣所を通過する必要もない。さらに、このスペースには棚が置かれているので、ちょっとした私物を置いておくこともできるようになっていた。

 この時点で僕の気分は高揚していたが、本番はここからだ。僕はふたつ目のドアを開けて、いよいよ浴室へと足を踏み入れた。

「いや、広すぎる……!」

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(台東区浴場組合連合会:
http://taito1010.com/component/mtree/sento-list/hagino.html )

 浴場には大きなお風呂が3つと大きな水風呂が1つ、そして露天スペースにも大きなお風呂が1つあった。とにかく広い。なにをどうすれば銭湯としての経営が成り立つのか謎である。ざっと見ただけで、平均的な銭湯の2〜3倍の規模はあった。さすが「都内最大級の銭湯」と言われるだけのことはある。この時点で浴場全体でお客さんは20〜30人ほどいたけれど、それでも余裕が感じられた。

 僕はさっそく身を清めて、まずはオーソドックスな一番大きいお風呂に入って体を温めることにした。ここには電気風呂やジェットバスなども併設されていて、ここから窓越しに露天スペースの様子を窺うことができたが、実に気持ちよさそうだ。

 次に日替わり湯に入ってみたところ、今日は生姜エキスの日らしい。お湯に浸かってみると、皮膚から生姜の成分が浸透してきたためか、少しぴりっとした刺激を感じながらすぐに温まることができた。

「では、行きますか」

 僕は覚悟を決めてサウナ室へと向かうと、その扉の前には棚があり、そこにはサウナマット用のビート板が積まれていた。ビート板を用意してくれている銭湯は全く無いわけではないけれど、ここまでの期待をしていなかった分、喜びを一層感じた。そして、僕はゆっくりと扉を開けたのであった。

「いや、ここも広すぎるでしょ……!笑」

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(台東区浴場組合連合会:
http://taito1010.com/component/mtree/sento-list/hagino.html )

 先客は6人ほどいたけれど、そもそもサウナ室の中は20人程度の大人がゆったり余裕を持って座ることができそうな広さがある。その大きなサウナ室を100℃まで熱しているのは巨大な遠赤外線ガスヒーターだ。
 座面は3段あったので、僕は空いている最上段に腰をかけて、テレビの音に耳を傾けながらじっくりと熱を浴びた。湿度はやや低めで、カラカラというほどではないものの、どちらかというと「蒸される」というより「灼かれる」という表現のほうが適しているくらいドライだった。
 その明るすぎず暗すぎない落ち着く雰囲気のサウナ室で6分ほど静かに自分と向き合っていると、いつの間にか全身からは滝汗が流れ出していた。呼吸が荒くなり、心臓の鼓動も激しくなっている。

「そろそろ出よう……」

 僕は立ち上がり、外に出て全身の汗を流してから、すぐそばにあった水風呂に肩まで沈み込んだ。

「うおおぉぉぉぉおおおおおお!!!」

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(東京銭湯: https://www.1010.or.jp/mag-tokyosento-haginoyu/

 水温は16℃とキンキンに冷たく、なにより広くてほどほどに深い。バイブラもあったけれど、浴槽自体が大きいので位置によってはほとんど振動を受けることなく静かに身体を鎮めることも可能だ。自分の好みやコンディションに合わせて水風呂を味わうことができるのは個人的に推せるポイントである。
 そこでじっくりと60秒ほど冷やされたところで、徐々に僕の身体は落ち着きを取り戻し始め、頭の中が少しぼんやりとしてきた。そろそろ休憩するタイミングである。
 水風呂のすぐ正面には休憩用の長いベンチが造られていたが、僕は外気浴のために露天スペースに向かうことにした。しかし、その手前にあるものが目に留まったのである。

ーーもしかして……

 それは高濃度人工炭酸泉だった。この時、僕は朝日湯源泉ゆいるに伺った時のことを思い出したのだ。水風呂と外気浴の間に炭酸泉を挟むことで、極上の快感が得られた記憶が蘇ってきたのである。その記憶を頼りに、僕はそこにゆっくりと沈んでみた。

「はぁ〜……」

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(台東区浴場組合連合会:
http://taito1010.com/component/mtree/sento-list/hagino.html )

 あまりの気持ちよさに、思わず声が漏れてしまった。適度な炭酸に包まれながら不感温のお湯に身を任せ、壁に飾られた塩谷歩波さんの銭湯図解をぼーっと眺めている時間が僕の心を満たしていった。

 しばらく炭酸泉に浸かってから、僕はようやく露天スペースに移動することにした。ここにも休憩用のベンチが造られていて、しかもその上にはビート板が等間隔に5人分敷かれていた。このあたりの心遣いも素晴らしい。
 そこに腰をかけて、目を閉じつつそよ風を全身で受け止めていると、次第に頭の中が空っぽになっていき、僕の感動は最高潮を迎えたのだった。

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(SPOT: https://travel.spot-app.jp/haginoyu_yoppy/

 もはや予定調和。ここに訪れたことで、すでに心身が仕上がることは約束されていたのである。萩の湯は、スケール、スペック、それら全てにおいて「良い意味で銭湯らしくない」銭湯なのだ。
 また、基本的な設備や仕様はもちろんのこと、”かゆいところに手が届く銭湯" でもある。「ここにこれがあれば便利なのに」という要素が見当たらず、動線も文句なしで、過不足なく欲しいものが整っていた。

 そして、やはり期待通り客層が非常に良いのだ。誰一人として会話をしておらず、マナーがとても良い。基本的にグループ客はおらず、60代以上の常連と思われる方々ばかりであることも理由ではあるかもしれないが、館内の注意書きや若いスタッフの十分な巡回なども功を奏しているのだろう。脱衣所やお風呂場、露天スペース、そしてサウナにまで監視カメラが設置されていて死角が無かったことも一定の効果をもたらしているのかもしれない。
 さらに、これだけの規模であるにも関わらず全体的に手入れも行き届いていて清潔感があったので、絶対に綺麗好きなスタッフがいるはずだ。とても居心地が良いのである。

 なんとなくそんなことを考えながら、僕は露天風呂の水面で反射した光によって壁や天井に写し出されたオーロラのような模様に見惚れながら、恍惚とした表情を浮かべてしまった。

「素晴らしいよ、萩の湯……」

 1セット目の休憩を終えたところで、僕はすっかり落ち着いてしまった体を温め直すために露天風呂に浸かることにした。これは「光マイクロバブル湯」という特殊な炭酸泉で、まるでシルクのような微細な泡によってなんらかの美容健康効果が得られるそうだけれど、詳しいことはよくわからない。ただ、やはり外気に触れながらゆっくりと浸かるお風呂は日常では味わうことのできない特別感があった。

 その後2セット目のサウナをいただいたのだけれど、今度は水風呂の後に炭酸泉でも外気浴でもなく、一番大きなお風呂の中に設計されていた半身浴用の段差に腰をかけてみたのだが、これがまたなんとも言えない気持ちよさを味わえたのであった。特に、窓の付近に陣取って壁にもたれかかると、まるで足湯に浸かりながら外気浴をしているような感覚を得ることができたのである。このようなさまざまな楽しみ方ができる点も、萩の湯の魅力だろう。

 結局その後もう1セットをいただいてから浴場を出て、僕は空腹を満たすために2階の「食事処 こもれび」に移動した。ここも先日伺ったおふろの国と同様、お風呂に入らずに食事だけでの利用も可能らしい。ただし、銭湯利用客はいったん浴場エリアを出ると再入場ができないそうなので注意が必要だ。

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 なお、食事をするほど空腹ではない場合でも、萩の湯にはドリンク類が豊富に揃っているので湯上がり後の休憩まで満喫できるようになっている。

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 食事処も、形式上は別店舗になっているとはいえ銭湯とは思えないほどの広さがある。メニューも定食からおつまみまで一通り揃っていて、アルコール類も幅広く提供しているので、諸々の状況が落ち着いたらここで友人たちとお風呂上がりに楽しい時間を過ごしたいものだ。
 食事処ではフリーWi-Fiも利用できるので、周りのお客さんに迷惑がかからない程度にちょっとした作業ができるところもありがたい。

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 食事は券売機でチケットを購入する形式で、僕は日替わりメニューのチキンカツ定食をオーダーしたのだけれど、これだけ揃ってこのボリュームで780円というのだから満足度が低いわけがない。ぺろりと平らげてしまい、お腹も十分に満たされたところで、僕は萩の湯を後にして仕事に向かった。

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 最初から最後まで、次から次に僕の期待を超えてくる。それが萩の湯だ。心がサプライズを求めた時、僕は再びここに訪れようと思う。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ


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#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト
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