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感動を得るためには【黄金湯@錦糸町駅】

「それにしても、ものすごいネギだな」

 菜苑でいただいた純レバ丼のネギの量は尋常じゃなく、お店を出てからしばらくの間、マスクの中はずっとネギだった。ネギのニオイがしたんじゃない。ネギそのものだ。

ーーまさかここまでパンチが強いとは。サウナが混んでいなければいいのだが……。できれば他のお客さんに迷惑をかけたくはない。

 そんな不安を抱えながら5分ほど歩くと、住宅街の中にひっそりと佇む今日の目的地が現れた。

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「良い味出してるじゃないですか」

 そう、これこそ2020年にリニューアルされたばかりの銭湯、「黄金湯」である。遠目から見た時はわからなかったが、近づくにつれモダンな雰囲気が伝わってきた。Google ストリートビューで新旧の外観を比較できたが、大幅にデザインが一新されたようだった。

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 出入り口付近に書かれた営業情報のデザインもシンプルでおしゃれだ。おしゃれすぎて情報が少しわかりにくいのだが、これがまた現代っぽくて良い。

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 ドアを開けて中に入ると、すぐ右側に券売機が2台設置されていた。どうやら、ここで先にチケットを購入して、そのあとに靴を下駄箱にしまってからチケットをスタッフに渡すようだ。

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 僕は券売機で「入浴+サウナ男(150分)/税込970円」と貸タオルのチケットを購入して下駄箱を経由してからスタッフの方に声を掛けると、サウナ利用者であることを証明する防水性の使い捨てリストバンドが手首に着けられた。これは音楽イベントなどでは経験済みだったが、銭湯で巻かれるのは初めてだ。ただ、使い捨てなので衛生的ではあるし基本的に自身で取り外しもできないので、浴場で紛失するリスクも低い。なかなか画期的かもしれない。

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(TECTURE MAG: https://mag.tecture.jp/feature/20210107-koganeyu/ )

 黄金湯はさすがリニューアルされたばかりというだけあって、脱衣所の中も清潔感があり、ゆったりと十分なスペースが確保されていた。ここからガラスドア越しに浴室の中を覗くことができたが、明るく開放感があるようだった。

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(TECTURE MAG: https://mag.tecture.jp/feature/20210107-koganeyu/ )

 僕はロッカーに服をしまい、いよいよ浴室への扉を開けた。

「うお〜〜〜、きれいだ!!」

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(TECTURE MAG: https://mag.tecture.jp/feature/20210107-koganeyu/ )

 浴場全体には軽快なジャズが流れていて、温かいお風呂が3つに水風呂が1つ、そして十分な数のシャワーが設けられていた。しかも、運が良いことに全く混雑していない。やはり銭湯に行くなら平日の日中に限る。

 そういえば、黄金湯のリニューアルはブルーボトルコーヒー等の店舗を設計している「スキーマ建築計画」が手がけているとかいないとか。そう考えると合点がいく。
 一見すると良い意味で "一般的な" 公衆浴場であり、昔ながらの銭湯となんら変わりがないように思えるのだが、よく見ていくと要所要所でデザインにこだわりが感じられた。
 特に気になったのは、女湯と男湯を隔てる壁にある1本の大きな ”手すり” である。実は、この手すりが設けられた背景については入浴後に記事を読んで知ったのだけれど、それを読まなくとも僕自身がこの時にその意図を感じとることができていた。粋なデザインである。

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風呂場の壁に取り付けられた1本のステンレスの手すりは、壁の上部を乗り越えて男女間の風呂場をつなぐ。
この棒自体に機能は特にないが、握って揺らすと向こう側でも揺れる。男女間での応答を想起させる装置だ。

ーー特別レポート&インタビュー:黄金湯 / 長坂 常&高橋理子
( https://mag.tecture.jp/feature/20210107-koganeyu/ )

 僕はさっそく身を清めて、まずは炭酸泉に入ってみた。温度計は壊れているようだったが、おそらく36〜37℃の不感温。広さも十分で、めちゃめちゃ気持ちがいい。
 次に隣にある日替りの薬湯に入ってみた。こちらは40℃と程よい温度だが、この日は「コーライニンジンの湯」らしく、じんわりと体の芯まで温められる感覚があった。

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(TECTURE MAG: https://mag.tecture.jp/feature/20210107-koganeyu/ )

 さらに隣にある「あつ湯」は、その名の通り45℃と非常に熱い。いくらサウナで高温に慣れているとはいえ、僕は20秒がやっとだった。

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(黄金湯公式サイト: https://koganeyu.com/#about )

 水風呂は20℃を示していたが、まずはサウナが先だろうと考えた僕は、その脇にあるサウナ利用客専用のドアを開けて中に入ってみることにした。

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(TECTURE MAG: https://mag.tecture.jp/feature/20210107-koganeyu/ )

「えっ、なにここ!!!(笑)」

 ドアを開けた瞬間から胸が高鳴った。そのドアはサウナ室に直接繋がっているのかと思いきや、そこからさらに続く薄暗い通路を抜けたところには、コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれたもう一つの大きな水風呂とサウナ室、そして広々とした外気浴スペースがあったのだ。

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(黄金湯公式サイト: https://koganeyu.com/#about )

「まるで隠し部屋じゃないか!!!」

 僕の気分はいっきに高揚した。アドレナリンの分泌量が急増し、興奮が抑えられない。なんだここは。まるで銭湯の奥に別のサウナ施設が繋がっているようだ。
 先ほどの浴場は浴場として十分に機能しているのだが、こちらもこちらで一つのサウナ施設として成立してしまっている。こんな銭湯は初めてだ。しかも、先ほどの浴場と同様にこちらも空いていて、僕を含めてサウナ利用者は3〜4人程度しかいない。最高だ。

 興奮そのままに、僕はその場にあったサウナマットを拾い上げ、いよいよサウナ室の中へと入った。

ーー想像していたよりも広いじゃないですか……!

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(東京銭湯マップ: https://www.1010.or.jp/map/item/item-cnt-149 )

 横幅のあるサウナ室は3段(厳密には2段)構成で、間接照明に照らされた薄暗い空間で聞こえてくるのは、オートロウリュ用のパイプからぽたぽたとサウナストーブに落ちる水が蒸発する音だけ。小柄なストーブに対して最大で10〜12人程度が座ることができる広さがありつつも、温度は100〜105℃を行ったり来たりしながら維持されている。

「噂通り……いや、それ以上のサウナじゃないか」

 左右の壁にはそれぞれ15分を計ることができる砂時計が設置されていて、その砂の動きを見ながら蒸されること約6分。高温高湿のサウナで、僕の鼓動もあっという間に激しく動くようになっていた。

「そろそろ出よう」

 僕は立ち上がり、扉を開けて目の前にある掛け湯用のカランで溜めた水を頭からかぶって汗を流し、水風呂の中に沈み込んだ。

「すごっ!!」

 これは、この時に本当に口から漏れてしまったそのままのセリフだ。感動のあまり声を抑えることができなかったのである。

 露天スペースと小窓で直接繋がっている薄暗い水風呂は間接照明に照らされていて、まるで洞窟の中にいるような気分になった。しかも運良く貸切状態。温度は15〜16℃とキンキンに冷えていて、なによりマルシンスパ並に広くて深い。確実に満天の湯北欧スカイスパなどの大御所よりはキャパがあるのだが、銭湯でこんなことがあって良いのだろうか。信じられない。

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(TECTURE MAG: https://mag.tecture.jp/feature/20210107-koganeyu/ )

 そこで冷水に包まれること約30秒。徐々に心臓の動きが落ち着いてきたタイミングで、僕は外気浴スペースへと移動した。サウナ室からここまで無駄のない完璧な動線である。

 外気浴スペースには、 "ととのい椅子" が8脚も用意されているほかに冷水機も設置されていて、観葉植物に囲まれながら休憩をすることができた。コンクリートの地面で足の裏が冷えないように、椅子の前に足置きが用意されているところもニクい。
 僕は椅子に深く腰をかけ、頭を壁にもたれかけさせて大きく呼吸をした。

「ふわぁ〜〜〜……」

 空を見上げると、雲が気持ちよさそうに浮かんでいた。それは、まるで僕の心が映し出されているようだった。

「なるほど、これは評判が良いわけだ……」

 僕はそっと目を閉じて、しばらくその場で幸せを噛みしめていた。

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 結局このあとに4セット、合計5セットをいただいて、黄金湯を出たのは14時ごろのこと。12時半ごろから入浴していたのだけれど、この約90分の間、幸いなことに全く混雑することは無く、タイミングによってはサウナ室も水風呂も外気浴スペースも貸し切りで利用することができたのだった。

 まさか銭湯にここまでの満足度を感じることになるとは想像すらしていなかった。むしろ、伺う前までは評判の高さを疑っていたほどなのだが、実際に自分自身で利用をしてみたら、期待を大きく超える感動を得ることができたのであった。

 満足度とは、すなわち感動の度合いだと思う。そして感動とは、きっと期待を超えたところに生まれるのだろう。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ


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#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます