今日の主役【天空のアジト マルシンスパ@笹塚駅】
最近、なぜか身近な友人や知人が世間に知られるようになってきた。僕が以前に勤めていた会社の先輩は芸人を目指して僕よりも先に退職し、それから数年経った現在はTikTokで動画が数億回再生されたことをきっかけに人気に火が付き、今ではテレビに引っ張りだこでレギュラー番組まで持つようになった。
たまたまだが、大学時代の友人も数年間の社会人生活を経てから芸能事務所に入り、最近ようやくテレビ番組にゲストとして呼ばれる機会が増えてきたようだ。
そのほかにも、プライベートで仲がよく僕の自宅に何度も遊びに来たことがある友人も自分の好きなことを突き詰めていった結果、それがSNSで番組プロデューサーの目に留まり、一般人枠としてゴールデンの人気番組に出演したこともある。
彼らは自分たちがやりたいことや実現したい夢を追い求め、その結果チャンスを手にすることができ、世間に名前が知られるようになった。
それに比べて、僕は何がしたいのだろうか。僕はいったい何者なのだろう。このまま「一般人A」として死を迎えるのだろうか。僕の人生、本当にそれで良いのだろうか……。
身近な人たちの名前が売れていく状況の中で、僕は何者にもなれていないのではないかと焦りを感じていた。
ただ、この人生を選んだのは僕自身だ。僕は対人でのコミュニケーションが苦手で、周囲の状況を人一倍気にしてしまう気質。それがメンタルにも負担になり、場合によっては体調を崩すこともあるので、「なるべく人と接しない方法で生きるためにはどうすれば良いのか」を考えながら生活してきた。集団の中にいるとそれだけでストレスを感じてしまうので、5人以上の飲み会や交流会にも顔を出さなくなったし、繁華街に長時間滞在することもなるべく避けている。
その結果が今の「フリーランス」という生き方だ。ただ、自分が実現したかった生き方ができていることは事実なのだが、そんな自分に不満が無いわけではなく、やはり彼らに少なからずの妬みや憧れのようなものを持っていることも否めない。
そんな邪念を払うことができ、自分が自分でいられる場所、それがサウナだった。自分自身と向き合うことしかできない非日常感。ここにいる間、僕は僕でいられるのだった。そして、特にそれにふさわしいサウナが、笹塚にある。
「何ヶ月ぶりだろうか」
今日は2020年12月16日(月)。今回伺ったのは「天空のアジト マルシンスパ」だ。言わずと知れた男性のみが入ることを許された都会のオアシス、そして僕が初めて ”ととのった” 場所でもある。
サウナに興味関心が高い人にとっては、マルシンスパといえばドラマ「サ道」で特に評判の高い第10話「天空のアジトで男泣きにととのう」の舞台になったことでもお馴染みだろう。荒川良々さん演じる村田直行に自分を投影して感極まった人も多いのではないだろうか。かくいう僕も初めて第10話を見た時に、少しだけウルッと来てしまったのだが。
僕が初めてマルシンスパに来たのは1年以上前の2019年9月5日のこと。プライベートで懇意にしている知人に誘われたのがきっかけだった。
あの時は僕よりも先にサウナの魅力に気付いた知人から「ナオト君も絶対に行ったほうが良いよ」と猛プッシュを受けて誘いに乗ったのだけれど、結果的に僕はサウナの沼にハマることになった。初めてのサウナがマルシンスパで良かったのかもしれない。
マルシンスパにはそれから今日までの間に何度か訪れたのだけれど、前回伺った時は外気浴スペースで大声でおしゃべりをしている若い男性客が居て残念な気持ちになってしまったこともあり、そのまま2020年を終えることがどうしてもできず、年内にあと1回は伺いたいと思っていたのだった。
さて、マルシンスパに到着したのは13時ごろ。ビルの10階にある受付にて3時間コースを選択して2,040円を支払い、タオルセットと館内着を受け取ってロッカースペースへと進んだ。
(マルシンスパ公式サイト http://marushinspa.jp/price/ )
そこで館内着に着替えて、さっそく浴場がある11階へと移動し、脱衣所の棚に荷物を置いて浴室への扉を開けた。さすがに月曜日のこの時間帯は混雑しておらず、サウナ室内も含めて僕の他にお客さんは8人程度しか居なかった。(マルシンスパでは15人程度が浴場にひしめき合う場面も珍しくない)。
まずは体を清め、2つの浴槽があるうちの向かって左側にあるお風呂に入浴。ここからの眺めにいつもうっとりしてしまう。半開きの窓からは冬の冷たい空気が入り込み、半露天状態での入浴に気分も高揚する。
(マルシンスパ公式サイト: http://marushinspa.jp/guide/ )
僕がマルシンスパを好む理由はいくつかあって、この眺めの良さもその一つなのだが、そのほかには汲み上げられた地下水が使用されている点も挙げられる。温泉だと錯覚するほど肌触りがなめらかでしっとりするのだ。
体を温めたところで、タオルで全身の水気を拭き取ってサウナ室へと向かった。ドア付近でビート板のサウナマットを手に取り、中に入ると8人キャパに対して先客は4人ほど。こんなに空いているマルシンスパは珍しい。普段であれば満員になるどころか、隣同士が詰め合って10人で蒸されることもあるだけではなく、それに加えてドアの前には3〜4人ほどの列ができることも珍しくないためだ。
(マルシンスパ公式サイト: http://marushinspa.jp/guide/ )
マルシンスパのサウナは、セルフロウリュができる点も支持を得る理由の一つだ。空いているところに腰を掛け、5分ほど経過したところで「ロウリュよろしいでしょうか」と僕から一言。アロマ水を2杯サウナストーンに回しかけると、スモーキーな香りがサウナ室中に熱蒸気とともに広がっていった。今日の温度は103℃。全身から汗が吹き出し、心臓の鼓動が加速していく。
「今だ……」
僕はサウナ室を飛び出しシャワーで汗を流してから、今度は向かって右側の大きな浴槽の中へ。
「うおおぉぉーーー!! これだよ!!」
これも僕がマルシンスパを好む理由の一つだ。肩までどっぷりと浸かることができる深さに、最大10人ほどが入れるほどの広さ。そして水質良好な地下水に、バイブラ無しの静寂瞑想スタイルで味わうことができる「水風呂」が、マルシンスパには存在するのだ。そもそもお風呂より水風呂のほうが2〜3倍のキャパがあることも、今となっては当たり前なのだが初めて見た時は度肝を抜かれたのだった。
今日の水温は17℃。皮膚表面から徐々に体の芯まで冷やされていき、浴場の水が流れる音だけが聞こえてくる。これは耳で聞くというよりも脳に直接響き渡ってくる感覚に近い。大きく深呼吸して、新鮮な空気を体内に精一杯取り込んだ。
それから1分ほどが経過し、隣のお風呂で少しだけ身体を落ち着かせてから、脱衣所を通り抜けて秘密の外気浴スペースへ。11階から全裸(※腰にタオルは巻く)で眺める景色に心を奪われる。冬の冷気が全身をかすめ、火照った体に癒やしと安らぎを与える。
この外気浴に惚れ込んだマルシンスパのファンも多いことだろう。僕もその一人だ。しかも、今日は今のところグループ客も見当たらず治安も良かった。最高の気分だ。
それから少しの休憩を挟んで2セット目。サウナ室に入って腰をかけると、その直後に隣に座っていた男性が立ち上がり「かけます」と一言放つやいなや、有無を言わせず4発のロウリュ。途端にサウナ室中に熱蒸気が充満し、呼吸が急激に苦しくなった。先日のオリエンタル1と同じ過酷な状況である。空気が熱すぎて呼吸が困難になり、タオルで鼻と口を覆った。全身の皮膚が焼かれていく。
ーー熱い。熱すぎる……。でも慌てるな、まだ入ったばかりじゃないか……。
僕は落ち着きを取り戻し、なんとか耐え抜いた。とはいえ、1セット目と比べて明らかに体力の消耗が激しい。6分ほどの短い滞在を経て、僕は再び水風呂へと向かった。汗を流して、いざ冷水の中へ。
「うおおぉぉーーー!!!!!」
1セット目よりもさらに枯渇した身体に潤いが取り戻される。自然のエネルギーを全身で受け止めると、僕の五感は研ぎ澄まされていき、視界がぼやけていくとともに聴覚が覚醒していくのがわかった。
それから約1分後、再びお風呂で身体を落ち着かせて外気浴スペースへ。ベンチに腰を掛けて、大きく深呼吸した。
ーー今、僕は確かに生きている。僕は確かにここに居る。この体と心は僕のものであって、誰のものでもないんだ……。
そのまましばらく外気浴スペースでぼーっとしていると、「サ道」の村田のセリフが脳裏をよぎった。
「待てよ。ネガティブな思考を抑えつけず、汗のようにあえて出してみたらどうだろう?」
「いいか……お前ら若造どもに、俺の気持ちがわかるか馬鹿野郎!」
「そうだ、今の私のまま、ゆっくりと生きていけばいい。今の私のまま。今はこれで良い。これで、良い」
無理に何者かになる必要は無いのかもしれない。そもそも、自分の人生の主役は自分自身であって、他の人は全てただの登場人物に過ぎない。他人と自分とを比べる必要なんて無いんだ。自分の人生を歩んで行けば、それで良いんだ。
僕はそれから10階の休憩スペースで軽く身体を休めた後、本日3セット目となるサウナに再び向かった。次のシーンを演じるために。
(written by ナオト:@bocci_naoto)
YouTube「ボッチトーキョー」
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