居場所はどこにあるのか【新宿区役所前カプセルホテル&サウナ@新宿駅】
先日「#サウナドラフト会議」という企画に参加させてもらった。これは、サウナ愛好家の有志が集まって ”推しサウナ施設” をドラフト形式で選出する企画なのだけれど、僕自身はサウナに精通しているわけではないので観客席から見守るつもりだった。
ところが、当日は主催者さんの計らいで、僕自身もドラフトに選出者側として参加をすることになった。僕は事前になにも準備をしていない状態で、記憶を頼りに今までに伺ったことがあるサウナの中から推しの店舗名を挙げていったのだけれど、サウナ愛好家同士の会話は盛り上がり、僕が今まで伺ったことが無い店舗についても知ることができて結果的に良い機会を得られたと思う。日本には、まだまだ魅力的なサウナがたくさんあるのだ。
ここで初めて会話をした参加者の中に、アマチュアではあるもののアウフギーサー(※アウフグースをする人)としての活動をされている方がいた。
本業がある中で、趣味が高じて活動の幅を広げていらっしゃるのは素晴らしい。僕はそのように、自分が輝くことができる居場所を見つけて精力的に活動されている人のことを尊敬している。
「居場所」でいうと、僕は会社員だった頃に自分が勤めていた会社の愚痴を言っていたことがあるけれど、いま思うと「だったら潔く居場所を変える(転職する)か、その会社への不満を自分の力で解決に向かわせるように仕事をしろ」と当時の自分に言いたい。愚痴を言ったところで、そこからは何も生まれないのだ。
結局僕はその会社を辞めることになり、現在は組織に属さない生活を過ごすようになったが、結果的に落ち着いた日々を送ることができている。しかも、最近は自分の得意を生かした仕事を自分が好きな相手からしか受けていないのでストレスを感じることもほとんど無いのだけれど、それに反比例するかのように、会社員だった頃と比べると経済的にも時間的にも余裕が生まれている。僕は自分自身を変えたのではなく、居場所を変えることによって自分自身の存在価値を高められたのだ。
こう考えると、「仕事ができない」と嘆いている人は、もちろん最大限の努力をする必要はあるものの、それをした上でもなお周りから評価されないのであれば、居場所を変えてみるのもひとつの手なのかもしれない。
また、「あの人は仕事ができない」と他人に対して短絡的な評価をする人も、もう少し冷静に言葉を選んだほうが良い。その相手は仕事ができないわけではなく、その仕事に向いていないだけなのかもしれないからだ。最適な居場所さえ見つけることができれば、もしかしたら自分よりも価値を発揮する人間に化ける可能性だってある。
だからこそ、一箇所ではなく複数箇所に自分の居場所を持っている人のことを、僕はつい注目してしまうのだった。
ーーそうとなれば行ってみるしかない。その人が普段アウフグースを披露している、「新宿区役所前カプセルホテル&サウナ」へ。
今日は2月12日(金)、天気は晴れ。そもそも店舗の公式アカウントさんとは数ヶ月前から相互フォローになっていたし、以前に利用させていただいたドシー恵比寿さんの系列店ということもあって、僕は新宿区役所前カプセルホテル&サウナに伺う日をずっと待ち侘びていた。
新宿駅に到着したのは14時頃。そこから歩いて5〜6分程度で、今日の舞台に到着した。
「こんなところにあったのか。今まで気づかなかったな」
最近こそ新宿は生活圏外ではあるが、数年前までは買い物や食事のために訪れることは少なくなかった。しかし、なぜかこの店舗の存在には全く気づいていなかったのである。
さっそくエレベーターで3階に移動すると、時代を感じさせる内装とモニュメントが僕を迎えてくれた。なかなか良い味が出ている。
僕はそのすぐ脇にある「37(サウナ)」の下駄箱に靴を入れて、受付へと向かうことにした。
そこで「サウナ60分利用」の旨を伝えつつ、Twitterの公式アカウントをフォローしていることを伝えると、事前に調べていた通り無料で30分延長してくれることになった。このキャンペーンは非常にありがたい。個人的には、サウナを十分に味わうためには90分がベストなのだ。
ここで1,000円(税込)を支払うと、ロッカーキーを渡されて奥に案内された。ここにはロッカースペースが広がっていて、ここで指定されたロッカーを開けると、中にはタオルセットが用意されていた。
(公式サイト: https://capsuleinn.com/shinjuku/guidelines/ )
脱いだ服と荷物をロッカーにしまい、タオルセットを持ってそこからさらに奥に進むと、ようやく脱衣所に辿り着いた。なお、ここには棚があり、バスタオルや飲み物などを置くことができる。
「では、入りますか」
僕はいよいよ浴室への扉を開けた。
「お〜、エレガントな造りだ!」
(公式サイト: https://capsuleinn.com/shinjuku/guidelines/ )
ロココ調なのかローマ風なのか、建築について詳しいことはわからないけれど、白を基調とした洋風なデザインが施されている、明るく広々とした浴室だ。しかも、どう見ても僕のほかにお客さんは2人しかいない。ガラガラである。
まずはいつも通り体を清めようとしたのだが、椅子とシャワーの間に台のようなものがあり、しかもその奥行きがそこそこあるので、体を洗うためには少しコツが必要だった。要するに、シャワーが遠いのだ。とはいえ、これも店舗の個性として受け止めたい。
僕は全身を洗い終えてからお風呂で体を温めることにした。ここには温かいお風呂が2つと水風呂が1つ並んでいたので、真ん中にある温かいお風呂の中に入ってみると、そこにある窓の隙間からゴールデン街の様子を眺めることができた。しかも、そこから入り込む冬の外気が心地よく、まるで都心で半露天風呂に入浴しているような気分になった。
体をほどよく温められた僕はゆっくりと立ち上がり、サウナ室へと向かった。扉の前にはサウナマットが積み重ねられていたので、そこから1枚を手に取り、いよいよその中へ足を踏み入れた。
「けっこう広いじゃないですか」
(サウナイキタイ: https://sauna-ikitai.com/saunas/1825 )
サウナ室内は薄暗く、左右にそれぞれ配置された2段構成のひな壇には物理的に合計20人ほど座れる広さがある。しかし、感染対策のためなのか元々なのかはわからないものの、現在は12人前後しか座ることができないようにマットが敷かれている。つまり、隣のお客さんとの間隔を空けてゆとりを持って蒸されることができるようになっているのだ。とはいえ、そもそもこの時間帯は客数も少ないため、そのようなことを気にする必要はないのだが。
とりあえず、僕はサウナストーブ付近の上段に腰をかけてみた。そこから周りを見回すと、あることに気づいた。
「特殊な構造のストーブだな」
そう、僕が初めて見るタイプのサウナストーブだったのである。というよりも、ストーブ自体は一般的な遠赤外線ヒーターなのだが、その手前にはサウナストーンが敷き詰められた棚が設置されていたのだ。要するに、ヒーターによってストーンが熱せられ、そのストーンがさらにサウナ室を熱しているハイブリッド構造になっていた。しかも、そのストーンに向けてセルフロウリュができるようにもなっている。これはなかなか珍しい。それに室内の温度は91℃と申し分ない。
僕はその設備に興奮しながら、僕よりも先に一人だけ入っていたお客さんがサウナ室を出たところで、ありがたくロウリュを始めることにした。
「ジュワ〜……」
足元に置かれていたバケツから、熱せられたサウナストーンに向けてアロマ水を投げ落としていくと、瞬く間にロウリュが発生し、サウナ室中にミント系の爽快感のある香りが広がった。もともと入室時はカラカラ系のドライサウナではあったけれど、湿度は急激に上昇し、体感温度もいっきに高まっていったのだった。
そしてテレビを眺めながら蒸されること約6分。僕の全身からは滝汗が流れ出していた。
「そろそろ出よう……」
僕はサウナ室を出て、汗を流してから水風呂に飛び込んだ。
「うおおおぉおおぉーーー!!! ちょうどいい冷たさ!!」
水温計が見当たらなかったので正確な温度はわからないが、体感では17〜18℃程度だろうか。十分に冷たい。そこで体を冷やすこと約1分、先ほどまで激しかった心臓の鼓動も徐々に落ち着いてきたところで僕は立ち上がり、すぐそばにあるインフィニティチェアに身を委ねた。
「はぁ〜、最高だ……」
この椅子は背もたれを倒すことによって、ハンモックのような無重力感覚を味わうことができる特殊な設計なのだが、サウナ後にここで休憩をすると全身が脱力し、頭の中が空っぽになるのだった。
僕は目を瞑り、じっくりと自分自身の意識に集中していったのだけれど、ここであることを思い出した。
ーーそういえば、学生時代に新宿の居酒屋でアルバイトをしていたことがあったんだった……。
僕は東京都内の大学に通っていた関係で、自宅からのアクセスが悪くない新宿でアルバイトをすることにしたのだが、そこで採用されたのがチェーンの居酒屋だった。料理にはもともと興味があったし知識を深めたいと思っていたのでキッチンで働かせてもらうことにしたのだけれど、いざアルバイトが始まってみたら、ストレスの連続だった。そもそも神経質な性格の僕が、殺伐とした雰囲気の中で常に時間に迫られる仕事をすることには無理があったのだ。
その結果、モチベーションは上がることがなく、仕事も全く覚えられなかったし、嘘をついてズル休みをしたこともあった。バイト先の責任者からは出勤するたびに叱られ、挙げ句の果てには人間性を否定されるようなことまで言われるようになった。
結局、僕はそのアルバイトを半年で辞めることにした。
それから月日は流れ、今度は社会人になった時のこと。僕は就職した会社で営業部に配属され、最初の1年間こそなかなか結果を出すことができなかったけれど、最終的には部署内でトップセールスになるまで価値を提供できる人材に成長していたし、そのあとに転職をした会社でも求められた成果を出すことができたのだった。そして現在、特定の会社に属さない働き方をすることで、自分が自分らしく輝ける居場所を見つけることができたのである。
人生は今すぐに終わるわけではない。自分に合った居場所はきっとどこかにあるはずだ。
ーー僕は、サウナによって救われた人間の一人なのかもしれないな。
結局、僕はそのあとに2セット、合計3セットをほぼ貸切状態でいただき、帰路に就いた。
今回伺ったサウナでは、自分の中に芽生えた熱い想いに駆られた人たちがアウフグースを定期開催している。僕も、次回こそは彼らが放つ熱波を受け止めたいと思う。
(written by ナオト:@bocci_naoto)
YouTube「ボッチトーキョー」
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