見出し画像

匂いに誘われて【カプセルプラス横浜@横浜駅】(1/2)

 人生の豊かさは、それまでに経験した匂いの種類に比例しているかもしれない。
 先日、近所の図書館で文献を漁っている時に、たまたま「プルースト現象」という言葉に出会った。プルースト現象とは、ある匂いを感じた時に過去の記憶が呼び起こされることらしい。
 たしかに、雨の匂いを感じた時は小学生の頃に豪雨の中を友達とびしょ濡れになりながら自転車で走り回ったことを思い出すし、シナモンの香りを嗅ぐと母親が作ってくれたニンジンケーキを思い出すことがある。その全ての思い出が、今の僕を形成していることは間違いない。

 匂い(※厳密には嗅覚)は人間の進化においても欠かすことができない要素だった。安全な食べ物かどうかが見た目ではわからない時は匂いで確認できることがあるし、日常生活において異臭を感じたら有害な物質が身の回りにある危険性が高いことを、僕たちは遺伝子レベルで理解している。

 僕はタバコが大嫌いなのだが、これはタバコを吸っている人のことを嫌っているわけではなく、純粋にタバコのニオイがとにかく嫌いなのである。会社員時代の上司は喫煙者だったが、彼が喫煙所からデスクに戻ってきた時の異臭によって業務中の僕の鼻はもげそうだった。
 これも、タバコの煙が体に有害であり、僕にとってはメリット以上にデメリットがあることを本能的に察知していた証拠だろう。もちろん、喫煙は個人の自由であるため僕にはそれを止める権利は無いけれど、そこに僕を巻き込まないで欲しいと強く願っている。

 匂いは恋愛においても重要な役割を果たしてきた。早稲田大学の森川友義教授の著書『なぜ、その人に惹かれてしまうのか?―ヒトとしての恋愛学入門』によると、特に女性は男性の魅力を匂い(体臭)で本能的に感じとる傾向があるそうだ。
 僕たち人間は、それぞれ異なる型のHLA遺伝子を持っている。HLAとは「Human Leukocyte Antigen」の略で、白血球に存在していて、その役割のひとつに免疫機能が挙げられる。
 そもそも、人間は生存能力が高い子孫を残すことができるように進化を遂げてきた。その過程で必要だったのが、免疫機能に多様性を持たせることだった。
 つまり、自分とできるだけ異なる型のHLA遺伝子を持っている異性との間に生まれた子孫の免疫機能は、理論上は多様性に富むことになるため、結果として高い生存能力を持つ確率が上がるのだ。だからこそ、そのような相手を探す必要があったわけだ。

 この時に鍵となったのが嗅覚だった。体臭にはHLA遺伝子に起因する匂いがあるため、体臭を嗅ぎ分けることでHLA遺伝子の相性を感覚的に確かめることができるそうだ。たとえば、良い匂いを発している(と感じることができる)相手とは、自分とHLA遺伝子の型が異なることを意味するそうだ。逆に、どうも居心地が悪い体臭(※くさいわけではない)を放つ相手とはHLA遺伝子の型が近い可能性が高い。
 要するに、生存能力の高い子孫を残すためには、自分とできるだけ離れたHLA遺伝子の型を持つ相手との間に子を持つべきであることを僕たちは本能的に知っていて、そういった相手の体臭には心地よさを感じることが多いのである。

 ちなみに、加齢臭はノネナールという成分が原因の一つで、これは老化やストレスによって体が酸化することで生成され、強烈なにおいを発するようになるそうだ。つまり、加齢臭を発している人は体が老化していたりストレスを感じていたりする可能性が高く、人間はそのことを本能的に知っているため、結果的にそのような相手とは距離を置こうとするわけだ。

 このように、嗅覚は人間が遺伝子レベルで強い子孫を残すためにも発達させてきた感覚のひとつであり、匂いは豊かな人生を送るためには欠かせないのである。そんなことを、僕はサウナに入りながら考えることがある。
 サウナ室は、使用されている建材やサウナストーブの種類、温度、湿度、手入れ、そこに通うお客さんたちの層によっても匂いが全く違うだけではなく、自分自身の感覚も研ぎ澄まされるので、いつもより嗅覚が冴えるのだ。
 さらに、サウナ室によってはアロマオイルを混ぜた水を高温のサウナストーンに掛けて蒸気を生み出す「ロウリュ」が行われることがある。これにより、豊かな香りを放つ熱蒸気がサウナ室中に充満するだけではなく、そのアロマの成分が体内に取り込まれ、もちろん個人差はあるものの体の内側から美容健康効果を得ることができると言われている。
 このように、サウナ室の中はさまざまな香りで満たされていて、その違いを比べることができるのも、サウナの楽しみ方のひとつなのかもしれない。

 そういえば、最近リニューアルオープンを遂げたばかりのサウナがあるらしい。そんな噂を聞きつけた僕は、新たな匂いを求めて横浜に向かったのであった。

画像1

ーー後編に続く

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ







いいなと思ったら応援しよう!

#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます