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ブームを起こすな【駒の湯@三軒茶屋駅】

 あれは中学生の頃だっただろうか。夕方にテレビをつけると『もしもツアーズ』が放送されていて、当時ブームになっていた芸人の三瓶がゲストの方から絶賛されていたのだけれど、それに対して彼は謙遜しながらこんなことを言ったのだ。

「終わりがあるからブームって言うんですよ」

 これは、バラエティ番組をただ消費している視聴者からすると特に気に留めることは無かったシーンかもしれないけれど、僕は子どもながらに強い衝撃を受けたのだった。実際、三瓶をテレビで見る機会は激減していき、今はどこで何をしているのかもよくわからない。やはり、ブームと衰退は表裏一体なのかもしれない。

 だからこそ、僕が危惧していることがある。それは「サウナブーム」だ。「サウナって流行ってるの?」と思う人もいるかもしれないけれど、データを見れば社会的な注目度が高まっていることは一目瞭然である。

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(Google トレンド: https://trends.google.co.jp/trends/?geo=JP )

 このグラフを見ると、2019年8月ごろから「サウナ」のGoogle検索数が急増していることがわかるのだが、これは計らずも僕がサウナに通い始めた時期でもある。
 また、サウナ関連書籍も続々と出版されるようになった。現役の医師である加藤容崇さんの『医者が教えるサウナの教科書』や "ととのえ親方" を名乗る松尾大さんの『Saunner BOOK』のほか、TBSアナウンサーの篠原梨菜さんもnoteで取り上げていたサウナ女子さんの『女性のためのサウナ・ハンドブック』、吉岡梅さんによるサウナを題材にしたミステリー小説『探偵はサウナで謎をととのえる』、そして「TVガイド」でもお馴染みの東京ニュース通信社から満を持して発刊された『SAUNA BROS.vol.1』など、その勢いは止まらない。

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 さらに、これから発売を控えている書籍としては、箕輪厚介さんがクラウドファンディングを通じて立ち上げたサウナ雑誌を出版するプロジェクトも、目標金額2,500,000円を大幅に上回る10,791,640円の支援金が集まったところだ。

 このように、とにかく「サウナ」という単語を目にする機会は確実に増えている。
 僕自身は懇意にさせていただいている知人に勧められてサウナを利用するようになったので、自分がブームに乗っかっている自覚は無かったのだけれど、結果的に流行に飛びついたようなものなのかもしれない。
 ただ、僕はサウナを利用し始めた時期こそ最近のことではあるのだが、それ以前から銭湯や温泉に通うことは趣味のひとつであって、2015年頃には「温泉観光実践士」という認定まで取得している。当時は温浴施設に行くことはあってもサウナ室に入ることはほとんど無かったのだが、サウナの魅力を知った今、僕はサウナのために温浴施設を巡るようになっていた。

 そんな1月14日(木)も、僕は以前から気になっていたサウナを目指して電車に乗り込んだのだった。土地勘があまり無い三軒茶屋駅に到着したのは16時頃。電車の中もそこそこ混んでいたが、駅前の喫煙スペースの中は人が密集し、煙が充満していた。通行人の数も緊急事態宣言下とは思えないほど活況を呈している。
 そんな彼らを横目に歩くこと約5分。路地裏にひっそりと佇む、今日の目的地に辿り着いた。

「はじめまして、駒の湯さん」

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 そう、今回伺ったのは世田谷区の「駒の湯」だ。なぜここに来たのかというと、友人のカズヨシさんが以前から何度か通っているそうで、その話を聞いてから気になっていたためだ。

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 さっそく暖簾をくぐり、下駄箱に靴を入れてから、受付で入浴料金とサウナ料金の合わせて750円を支払うと、クリアバッグとタオルセット、そしてサウナ室の鍵を渡された。

 脱衣所に入ると、そこから浴室の中を覗くことができたが、全体的にレトロでノスタルジックな印象を受けて、銭湯に来た実感が湧いた。客層は高齢の方がほとんどで、今のところ若い人は見当たらない。
僕は荷物をロッカーにしまって、いよいよ浴室への扉を開けた。

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(せたがや銭湯ガイド:https://www.setagaya1010.tokyo/guide/koma-no-yu/ )

 浴槽は温かいお風呂と水風呂の2種類のみ。実にシンプルな銭湯だ。まずはクリアバッグをサウナ室のドア付近にあるフックに掛けて、身を清めてからお風呂に入ってみる。

「あっつ!」

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(東京銭湯マップ: https://www.1010.or.jp/map/item/item-cnt-480 )

 温度を見ると44℃。これはなかなか熱い。しかも激しいバイブラとジェットによって、まるでマグマが吹き出しているようだった。僕が入浴し始めたタイミングでちょうど浴槽から立ち上がったお爺さんは、全身が真っ赤になっていてまるで茹で蛸のようだ。

 僕も肩まで浸かってみたが、サウナの温度に体が慣れているからか、最初は熱かったもののすぐに慣れてしまった。結局2〜3分ほど入浴して、体が温まったところで僕は立ち上がり、いよいよサウナ室へと向かうことにした。
タオルで軽く全身の水分を拭き取り、ドアを開けて中に入る。

「し……渋い!」

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(mizuburo japan: http://mizuburo.com/komanoyu/ )

 昭和歌謡や演歌がしっとりと流れているサウナは初めてだった。独特すぎるぞ駒の湯。最高だ。
 サウナ室は2段構成で奥行きがあり、最大10人程度が入ることができそうな広さがあったが、現在は感染対策のために隣同士の隙間を空ける必要があるらしく、最大8人までに入室制限されていた。とはいえ、僕が入ったタイミングはたまたまサウナ利用者が少なかったのか、僕を含めて2〜3人程度しかサウナ室に入ることはなかった。

 空いている上段に腰をかけてみると、意外と熱を感じた。サウナストーブは見当たらず、お尻が非常に熱い。

「そうか、ここはボナサウナなのか」

ボナサウナとは……

 サウナヒーターをベンチの下に収納。スペースを有効に、ゆったりと入 浴できます。また、ヒーターに触れることがなく安全で快適なサウナ浴を 楽しめます。ヒーターにはサウナストーンが積まれ、水をかけてサウナの 醍醐味であるロウリュも味わうことができます。
 新鮮な空気と温度のバランスは、快適なサウナに欠かせない 条件です。ベンチ下の給気口から取り入れられた新鮮な空気は、暖められて上昇しサウナ室内へと対流します。天井から床までの温度差が小さくなります。

ーー引用:METOS (モリス):http://metos.co.jp/products/sb/mollis/

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(METOS 製品カタログ: http://metos.co.jp/inquiry/files/k56sauna.pdf )

 温度計はやや低めの80℃を指しているものの、お尻の下からダイレクトに熱を受けるスタイルによって、体感温度は100℃近かった。とにかく熱い。駒の湯のサウナは、ただ渋いだけではなかったのだ。これはなかなか良い。
 そのままじっくりと蒸されること数分。心臓の鼓動が徐々に激しくなってきた。

「そろそろ出よう……」

 僕はサウナ室を出て水風呂のところまで移動したが、そこから桶で水をすくおうとした時、「水の持ち出し禁止」との貼り紙が目に留まったのだった。どうやら、駒の湯自慢のキンキンに冷やされた水風呂の水温が上がってしまうためらしい。先に気付いてよかった。
 僕はすぐにサウナ室の脇にあったシャワーまで移動して、そこで頭から汗を流して、いよいよ水風呂の中へと入った。

「つめたっ!!!」

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(せたがや銭湯ガイド:https://www.setagaya1010.tokyo/guide/koma-no-yu/ )

 水温は16℃。でも、それよりももっと冷たく感じるのはなぜだろう。温度計が壊れているのか? ほかの店舗の水風呂と水質が違うからか? 理由はわからない。ただ、明らかに16℃ではない。体感では12〜14℃くらいだ。とにかく冷たい。マルシンスパ黄金湯の水風呂もだいたい16℃だけれど、それらよりも冷たく感じる。

ーー実際の温度はわからないけど、シャキッとして気持ちいいな。

 僕の体は急激に冷やされ、いっきに五感が覚醒していった。普段は感じることが無い、自分の生命力の強さを実感したのだった。それから徐々に心臓の鼓動が落ち着いてきたタイミングで、僕は水風呂から立ち上がって風呂椅子を手にした。そして周りを見回すと、幸いなことに浴場の窓がある壁の下のスペースが空いていることに気付いた。僕はそこに移動して腰をかけ、全身を脱力させて、背中側の柱にもたれかかってみた。

「はぁ〜……最高だ……」

 駒の湯には外気浴スペース(ととのいスポット)が無いのだが、無ければ創れば良いだけだ。元々この方法は月光泉で思いついたのだが、その後もサウナの梅湯福美湯でも僕に至福のひとときを与えてくれたのだった。
 さらに、駒の湯の場合、偶然にも窓から流れ込む外気がちょうど体に当たるだけではなく、そこに座りながらすぐ近くのシャワーで温かいお湯を静かに全身にかけてみると、相模健康センターの温灸と似たような体験を味わうことができたのだ。

「すげーきもちいい……」

 僕はぼーっとしながらすっかり多幸感に浸っていたのだが、ここであることに気付いた。

ーーそういえば、駒の湯は客層が良い。全体的に静かで、ほとんどのお客さんがお互いにマナーを守っている。

 そう、入店からここまで、居心地がとても良かったのだ。思い返せば、店内には至る所に「大声での会話禁止」といった貼り紙があったり、そもそも店先には「グループでの来店はご遠慮ください」と注意書きがあったり、とにかく感染対策が徹底されていたのである。どうりで静かなわけだ。

 そして、実を言うと僕が16時ごろに駒の湯に訪れたのには理由がある。そもそも僕が銭湯を利用する時、たいてい平日の16時〜16時半頃に伺うことにしているのだが、銭湯はこの時間帯が最も空いている可能性が高いのだ。
 以前、はすぬま温泉に伺った時に営業開始1時間後あたりから一時的に空き始めたことに気付いた僕は、それ以来、1回転目のお客さんたちが退店していくであろう時間帯を狙って銭湯に行くようにしていたのだが、今のところこの作戦がハズれたことは無い。

 案の定、この日初めて伺った駒の湯でも同じような現象が起きた。駒の湯の営業は15時半からだったので、おそらく16時15分〜16時30分ごろから空き始めるだろうと思っていたのだが、その予想は的中した。そもそも入店時からそれほど混雑していなかったのだが、さらに16時30分頃からお客さんがぱったりといなくなったのだ。これは快適である。

 その喜びを噛み締めながら体を休ませた僕は、そのあとにさらに3セット、合計4セットをいただいて、駒の湯を後にした。

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ーー古き良き、味のある銭湯だったな……。気持ちの良いお風呂とサウナをごちそうさまでした。

 今は「サウナブーム」と言われているが、ブームにはいつか終わりが来る。だからこそ僕はあえてこう言いたい。「ブームを起こすな」と。
 このような素晴らしい銭湯を失ってはならない。サウナが好きだからこそ、サウナを”ブーム”ではなく、”文化”にしていかなければならないと、僕は思うのだ。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ


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#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます