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次の機会が訪れるように【金春湯@大崎駅】

 僕はフリーランスとして複数の仕事を掛け持つことで生計を立てているけれど、自分から仕事を探しに行ったことは一度しかない。といっても、それはまだ僕が会社員だった頃に、独立を考えて準備し始めた時の一度だけだ。独立してからは、自ら仕事を探したことはない。

 これと似たような話は前回のSHIZUKUの記事でも触れているけれど、基本的に新規のお仕事を受けるきっかけとしては学生時代の友人や会社員時代の元同僚などからの連絡がほとんどである。もしくは、趣味で繋がった人と情報交換していると仕事に発展することもあるし、どこかしらで僕のプロフィールを見て興味を持ってくださった企業さんから連絡を受けることもある。
 そして、一度お取引をさせていただくと、その後も何度もリピートしてくださることが本当に多い。「来月は暇になりそうだなー。そしたらサウナにたくさん行けるなー」などとのんびりしていると、なぜか立て続けに過去にお付き合いのあった企業さんから再び連絡を受けるのだ。
 手前味噌ではあるけれど、これはやはり「毎回の仕事で相手の期待に応えられているから」としか言いようがない。

 そんな1月29日(金)も、僕は新たに友人から仕事の相談を受けていた。その友人は前職の元同僚であり、現在は退職して別の会社で働いているそうだが、今でもこうやって連絡をもらえるのは素直に嬉しい。軽く打ち合わせを済ませてから正式に仕事を引き受けることにして、この日の予定は全て片付いた。時刻は15時を過ぎたところだ。

「ちょうど良いじゃないか」

 これは、もちろん「銭湯に行くならちょうど良い時間」という意味である。銭湯は高い確率で混雑を回避できる時間帯があるのだ。僕は荷物をまとめて、以前から気になっていた銭湯に向かったのであった。

「はじめまして、金春湯さん」

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 そう、今回訪れたのは大崎駅から徒歩8分程度の場所に位置する「金春湯」だ。金春湯は1950年(昭和25年)に開業された老舗の銭湯で、現在は元エンジニアの角屋文隆さんが家業を継いで営まれている。

 僕が今回こちらに伺った理由は単純で、「Twitterを見ていて気になっていたから」だった。店舗の公式アカウントさんとは以前から相互フォローになっていたこともあるけれど、タイムラインを眺めていると多くの方が金春湯でのサ活を投稿されていたし、良い意味で ”銭湯らしくない銭湯” というイメージからかメディアでの出演も多く、その存在が無視できなかったのである。

 さっそく暖簾をくぐり、下駄箱に靴をしまった。やはり、どうしても「37(サウナ)」が空いていると使用してしまう。

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 そのまま奥に進むと、広々とした休憩処があった。ここで湯上がりのビールを嗜むのも粋な過ごし方かもしれない。

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(しながわ観光協会: https://shinagawa-kanko.or.jp/spot/kom-pal/ )

 そのすぐ脇にある番台で入浴料金470円とサウナ料金400円、合わせて870円を支払い、サウナマットが入ったトートバッグを受け取って脱衣所に進むと、”昔ながらの銭湯” といった趣のある空間が広がっていた。

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(金春湯公式サイト: https://kom-pal.com/ )

 高まる気持ちを抑えながら、僕は服を脱いで荷物をロッカーにしまい、いよいよドアを開けて浴室の中へ。

「素敵じゃないですか!」

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(しながわ観光協会: https://shinagawa-kanko.or.jp/spot/kom-pal/ )

 浴場は全体的に清潔感があるだけではなく、洗い場とお風呂スペースが仕切られている、僕の好きな構造だった。実は、僕はお風呂に浸かっている時にシャワーのお湯が飛んでくるのが少々苦手なのである。
 先ほど受け取ったサウナマット入りのトートバッグをサウナ室の近くにあるフックに掛けて、まずは身を清めてから大きなお風呂に入浴してみた。こちらは十分な広さがあり、温度も程よい。次に隣の小さなお風呂に入ってみると、こちらは先ほどと比べてやや熱めだった。とはいえ、これもまた気持ちがいい。
 そして、なにより全体的に空いていて快適だった。やはりこの時間帯は1回転目のお客さんたちが徐々にいなくなっていくタイミングなのだろう。たまたまかもしれないが、グループ客も見当たらず静かである。

 僕は体が温まったところで、先ほどのトートバッグからサウナマットを取り出し、いよいよサウナ室の中へ。

「なかなか良さそう!」

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(しながわ観光協会: https://shinagawa-kanko.or.jp/spot/kom-pal/ )

 今は状況が状況だけに6人までの入室制限がかけられているが、物理的には最大8人程度が座ることができる広さはあるのではないだろうか。運が良いことに先客は3人。空いているところに腰をかけて、温度を確認すると92℃。ストーブは見当たらず、お尻に熱を感じるので明らかにボナサウナだ。先日こっそり伺った幡ヶ谷の観音湯や三軒茶屋の駒の湯など、最近のサ活はボナ率が高い。
 やや薄暗く無音の落ち着いた空間で、僕はそのままじっくりと熱を味わったのだが、なんだか居心地がとても良く、自然と自分の意識に集中していくことができたのであった。この安心感は、いったいどこから来るのだろう。サウナ室の構造だろうか、はたまた温度と湿度のセッティングだろうか。とにかく落ち着くのだ。
 気づけば、僕の全身からは大量の汗が流れ落ちていた。

「そろそろ出ますか」

 僕は立ち上がって、サウナ室を出てすぐに自分のサウナマットをトートバッグに戻しつつ、全身の汗を流してから水風呂に肩まで浸かった。

「うおおぉぉーーー、ちょうど良い冷たさ!」

 温度は16℃。大人が3人ほど入ることができる広さがあるが、貸切状態で冷水を堪能させていただく。それから1分ほどが経過すると、徐々に心臓の鼓動が落ち着いてきた。
 その時、ふと顔を見上げてみると、浴場全体を漂う湯気が外から差し込む光によってきらきらと輝いて見えたのだった。しかも、その湯気は窓の隙間から入り込む風によって、休憩用のベンチに降り注いでいたのである。

ーーなるほど、そこに腰をかけると、ちょうど風に当たることができるのか。

 僕は水風呂から立ち上がり、さっそくそのベンチに座って、背もたれに上半身を預けてみた。

ーーはぁ〜、最高だ……。しかし、なんなんだろう、この気持ちよさと安心感は……。

 全身の力が抜けて目は半開きになり、そこで大きく深呼吸をすると、僕の意識は浴場に漂う湯気のように、ぼんやりと浮遊していったのだった。
 それから数分が経ち、呼吸が落ち着いてきたところで、僕は2セット目をいただく前に再び熱いほうのお風呂で体を温めることにした。肩まで入浴し、お湯に身を委ねて、ぼーっと時間を過ごしていた、その時だった。

「そういうことか」

 僕は気付いたのだ。金春湯で感じる妙な安心感と居心地の良さの理由に。それは、もちろん店舗自体の設備が整っているからでもあるけれど、なによりお客さんたちの所作が美しかったのだ。ひとりひとりが周りに配慮をしながら、お互いにちょうど良い距離感を保ちつつ、自分だけの世界を探求していたのだった。
 結局、僕はそのあとに2セット、合計3セットをいただいて、幸福感に満たされながら金春湯をあとにした。

 サウナで温まったとはいえ、やはり外に出ると少しだけ肌寒い。ただ、僕の心は充実感を覚えていた。そして振り返ると、そこにはまるで「また来てください」と僕に手を振ってくれているかのように、暖簾が風に揺れていた。

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ーー金春湯が人気を集める理由がわかった気がする。

 銭湯は、そこに通うお客さんたちを見ることで、どのような思想で経営されているのかを知ることができる場合がある。言い換えると、その店舗自体の良し悪しはお客さんの所作に表れる、ということだ。
 金春湯は、店舗自体の魅力はもちろんのこと、客層もとても良い銭湯だった。これだけ僕の期待に応えてくれたのであれば、きっと僕も近いうちに再び伺うことになるだろう。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ


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#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト
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