夏の残り香


 
    無邪気に笑いあっていたあの頃にはもう
 戻れるわけがないんだと
 知っているのに探してた
 
 受け入れてしまったふりをして
 綺麗なままの思い出に
 縋ることはやめられなかった
 
 この手で掴めなかったものは
 今もどこかで輝いていて
 憧れのままだから まだ 眩しくて美しい
 守りたいものは確かにあった
 それに支えられていた
 
 
 
 優しい灯り
 夜道を照らす
 まだ歩くことができるのは
 きっとあの日の記憶のおかげ
 
 失くしたくない痛みがあったから
 消えない傷が大切だったから
 
 取り戻せない過去からずっと
 守れなかったものに支えられてきた
 
 揺れる篝火 宵闇に溶ける
 聞こえた気がした笑い声
 夏の残滓が今ここで
 
 
 静かな夜風
 哀しみ包む
 まだ目を開けていられるのは
 きっとあの日の言葉のおかげ
 
 伝えられなかった感謝の重さも
 間違えてしまった謝り方も
 
 ここに残って燻る感情
 微かな息の音(ね) 確かに灯っている温もり
 
 揺れる風鈴 宵闇に溶ける
 隠れて流されていた涙
 夏の残響はまだここに
 
 
 
 変わってしまったこと嘆くより
 変わらない大切なもの守り抜けるように
 縋り続けてきた過去も
 自分を成すもの
 失ったものは 痛みとなって
 まだここに
 
 いつか道に迷った時
 不安を包み 歩く為の手燭となる
 

 
 揺れる篝火 宵闇に溶ける
 貴い残り香 今も響く声
 夏の残像はまだ......
 
 揺れる水面に 舞い降りた
 優しい花弁 想いの欠片
 夏の名残を未だに忘れられなくて
 
 今まだここで 息ができる理由
 
 
 



いいなと思ったら応援しよう!