【速報】o3-miniに大学の入試問題を解かせてみたら性能が格段に上がっていた
今朝方、大方の予想通り(というかSam Altmanが言及していた通り)o3-miniがリリースされた。この性能を早速試してみた。
o3とは?
o3は、より高速かつ強力な、STEM reasoningに特化したモデルだ。その性能はo1を凌駕することがOpenAIによって示されている。
https://openai.com/index/openai-o3-mini/
テレンス・タオや数学オリンピックのメダリストたちが数十名で作ったという数学の未知の問題ベンチマークFrontierMathにおいても、高い性能を示している。(4o時代はせいぜい2%が関の山であった)
おそらく大学入試程度の問題など何の問題もなく解いてしまうのだろうと期待したいが…早速見てみよう。
o3-mini highに大学の入試問題を解かせる:2024年度東大数学(理科)第5問
以前、o1 proが出てきた時に東大の数学の入試問題を解かせてみるという実験を行った。
期待に反して、この問題の解答は散々だった。詳細は以前のnoteに記しているが、単に回答に辿り着けなかっただけでなく、特定の考え方に固執し、自身の間違いを認めようとせず、根本的な矛盾を指摘しても解答を修正することもなかった。何度指摘しても、何度プロンプトを工夫しても、結局正解に辿り着くことはできなかった。
さて、この問題を早速o3-mini highに解かせてみたところ、相当性能は上がっているようだ。早速回答を見てみよう。
o3-mini highによる回答
【問題の整理】
座標空間内に
• $${A(1,0,0)}$$
• $${B(0,1,0)}$$
• $${C(0,0,1)}$$
をとり、点 $${D}$$ を線分 $${AC}$$ の中点とすると
$$
D=\left(\frac{1+0}{2},\; \frac{0+0}{2},\; \frac{0+1}{2}\right)
=\left(\frac{1}{2},\; 0,\; \frac{1}{2}\right).
$$
三角形 $${ABD}$$ の「周および内部」を $${x}$$ 軸回りに1回転させたときにできる立体の体積を求めます。
まず、三角形 $${ABD}$$ の$${3}$$点
$$
A(1,0,0),\quad B(0,1,0),\quad D\left(\frac{1}{2},0,\frac{1}{2}\right)
$$
がすべて平面上にあることを確認します。実は、これらの点はすべて平面
$${x+y+z=1}$$
上にあることが容易に確かめられます。(例えば、 $${A}$$ は $${1+0+0=1}$$、 $${B}$$ は $${0+1+0=1}$$、 $${D}$$ は $${\frac{1}{2}+0+\frac{1}{2}=1}$$ となる。)
また、三角形の面積は後で用いるため、以下のように求められます。
ベクトル
$$
\vec{AB} = B-A = (-1,\,1,\,0),\quad \vec{AD} = D-A = \Bigl(-\frac{1}{2},\,0,\,\frac{1}{2}\Bigr)
$$
の外積は
$$
\vec{AB}\times\vec{AD}
=\begin{vmatrix}
\mathbf{i} & \mathbf{j} & \mathbf{k} \\
-1 & 1 & 0 \\
-\frac{1}{2} & 0 & \frac{1}{2}
\end{vmatrix}
=\Bigl(\frac{1}{2},\,\frac{1}{2},\,\frac{1}{2}\Bigr),
$$
その大きさは
$$
\left|\vec{AB}\times\vec{AD}\right|
=\sqrt{\left(\frac{1}{2}\right)^2+\left(\frac{1}{2}\right)^2+\left(\frac{1}{2}\right)^2}
=\frac{\sqrt{3}}{2}.
$$
したがって、三角形 ABD の面積は
$$
\text{Area}=\frac{1}{2}\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}=\frac{\sqrt{3}}{4}.
$$
※ただしこの面積は後の体積計算(断面積の積分)には直接使いません。
【立体の体積を求める方針】
今回の立体は「平面領域(=三角形)を回転させてできる立体」です。
ただし、注意すべきは三角形 $${ABD}$$ の一部(点 $${A(1,0,0)}$$ )が回転軸($${x}$$ 軸)上にあるため、
「回転体の断面が全円(ディスク)になる」わけではなく、
断面($${x}$$=一定面)では「環状(annulus:中空円盤)の形状」をなす場合が多いことです。
そこで、 $${x}$$ 軸に沿った断面積を求め、 $${x}$$ に関して積分する方法をとります。
【三角形の平面上におけるパラメータ表示とx固定断面の導出】
平面 x+y+z=1 上で、
三角形 ABD の頂点は
• $${A(1,0,0)}$$
• $${B(0,1,0)}$$
• $${D\Bigl(\frac{1}{2},0,\frac{1}{2}\Bigr)}$$
となります。
ここで、 $${x}$$ 軸回りの回転体では、各点の $${x}$$ 座標は変化せず、
$${y}$$ および $${z}$$ の成分が $${x}$$ 軸を中心に回転して円を描きます。
したがって、断面( $${x}$$=一定面)では、
「 $${(y,z)}$$ 平面でのその点の原点( $${y=z=0}$$ )からの距離 $${r=\sqrt{y^2+z^2}}$$ 」が重要になります。
平面の方程式より $${x=1-y-z}$$ なので、$${(y,z)}$$ を変数として三角形を表現すると、三角形の各点は
$$
(x,y,z) = \bigl(1-y-z,\; y,\; z\bigr),
$$
ただし、$${(y,z)}$$ は以下の条件を満たす領域 $${T}$$ 内にあります。
実は、三角形 $${ABD}$$ の $${(y,z)}$$ 座標を求めると、
• $${A(1,0,0) は y=0,\; z=0}$$
• $${B(0,1,0)}$$ は $${x=0}$$ なので $${y+z=1}$$ で、 $${B}$$ では $${y=1,\; z=0}$$
• $${D\Bigl(\frac{1}{2},0,\frac{1}{2}\Bigr)}$$ は $${x=\frac{1}{2}}$$ なので $${y+z=\frac{1}{2}}$$ で、$${D}$$ では $${y=0,\; z=\frac{1}{2}}$$
となり、 $${(y,z)}$$ 平面では
三角形 $${T}$$ の頂点は
$$
(0,0),\quad (1,0),\quad (0,\frac{1}{2}).
$$
この三角形 $${T}$$ は直角三角形であり、辺 $${BD}$$ の方程式は $${y+2z=1}$$ と表せます。
しかし、ここでは「 $${x}$$ 軸方向の断面」を求めるため、任意の $${x}$$ (すなわち $${x=1-y-z}$$ )に対して、$${(y,z)}$$ が取りうる値を考えます。
固定 $${x}$$ においては
$$
y+z = 1-x.
$$
また、 $${(y,z)}$$ が三角形 T 内にあるための条件 $${y+2z\le1,\; y\ge0,\; z\ge0}$$ を考えると、$${y}$$ については
$$
y\in \Bigl[\, \max(0,\,1-2x),\; 1-x\,\Bigr],
$$
となります。(実際、 $${z=1-x-y \ge0}$$ から $${y\le1-x}$$ となります。)
したがって、 $${x}$$=一定面における三角形の断面は、 $${(y,z)}$$ が
$$
\{\, (y,1-x-y) \mid y\in I(x) \},\quad \text{ただし } I(x)=\Bigl[\max(0,1-2x),\,1-x\Bigr],
$$
という1次元の線分となります。
【回転による断面の面積の求め方】
$${x}$$ 固定面で、元の線分の各点はその $${(y,z)}$$ 平面において、
原点(すなわち $${x}$$ 軸上の点)からの距離
$$
r=\sqrt{y^2+(1-x-y)^2}
$$
を持ちます。
この線分上の各点を x 軸回りに回転させると、各点は半径 $${r}$$ の円(軌跡)を描きます。しかし、回転体の断面( $${x}$$ 固定面)には、線分上のすべての点の回転によって「$${r}$$ の値の最小値から最大値までの全ての半径の円環(annulus)」が現れます。
つまり、 $${x}$$ 固定面での断面は、内側の半径 $${R_{\min}(x)}$$ と外側の半径 $${R_{\max}(x)}$$ の円環となり、その面積は
$$
A(x)=\pi\Bigl(R_{\max}(x)^2 - R_{\min}(x)^2\Bigr)
$$
と表されます。
ここで、
• $${R_{\max}(x)}$$ は線分上での最大の $${r}$$
• $${R_{\min}(x)}$$ は線分上での最小の $${r}$$ です。
【 $${R_{\max}(x)}$$ の求め方】
線分のパラメータ表示は
$$
(y,z)=(y,\,1-x-y),\quad y\in I(x)=\Bigl[\max(0,1-2x),\,1-x\Bigr].
$$
このときの $${r}$$ は
$$
r(y)=\sqrt{y^2+(1-x-y)^2}.
$
まず、上端 $${y=1-x}$$ のとき、
$$
r(1-x)=\sqrt{(1-x)^2+0^2}=1-x.
$$
また、下端 $${y=\max(0,1-2x)}$$ では場合分けが必要ですが、後述します。
実は、 $${r(y)}$$ を最大にする値は端点 $${y=1-x}$$ となることが確認できます。よって、
$$
R_{\max}(x)=1-x.
$$
【 $${R_{\min}(x)}$$ の求め方】
関数
$$
f(y)=r(y)^2 = y^2+(1-x-y)^2
$$
は二次関数です。展開すると
$$
f(y)=2y^2-2(1-x)y+(1-x)^2.
$$
この二次関数は下に凸(係数 $${2 > 0}$$)なので,極値は最小値となります。その極値は
$$
y=\frac{1-x}{2}
$$
で与えられますが,この値が区間 $${I(x)}$$ 内に入っているかどうかで場合分けします。
•$${ x<\frac{1}{2}}$$ のときは $${\max(0,1-2x)=1-2x}$$ となります.
$${y=\frac{1-x}{2}}$$ が $${I(x)=[\,1-2x,\;1-x]}$$ に含まれるかどうかは,
$$
\frac{1-x}{2}\ge1-2x\quad\Longleftrightarrow\quad 1-x\ge2-4x\quad\Longleftrightarrow\quad 3x\ge1,
$$
すなわち $${x\ge\frac{1}{3}}$$ のとき含まれます.
よって、
• (1) $${0\le x<\frac{1}{3}}$$ の場合:
$${I(x)=[1-2x,\,1-x]}$$ ですが,頂点 $${y=\frac{1-x}{2}}$$ はこの区間より「左側」にあるため,最小値は下端 $${y=1-2x}$$ で与えられます.
このとき
$$
R_{\min}(x)=\sqrt{(1-2x)^2+\Bigl[(1-x)-(1-2x)\Bigr]^2}
=\sqrt{(1-2x)^2+(x)^2}
=\sqrt{1-4x+5x^2}\,.
$$
• (2) $${\frac{1}{3}\le x<\frac{1}{2}}$$ の場合:
頂点 $${y=\frac{1-x}{2}}$$ が $${I(x)}$$ 内に含まれるので,最小値はこの点で達成され,
$$
R_{\min}(x)=\sqrt{\Bigl(\frac{1-x}{2}\Bigr)^2+\Bigl(\frac{1-x}{2}\Bigr)^2}
=\frac{1-x}{\sqrt{2}}\,.
$$
• $${x\ge\frac{1}{2}}$$ の場合:
このとき $${1-2x\le0}$$ なので, $${I(x)=[0,\,1-x]}$$ となり,
頂点 $${y=\frac{1-x}{2}}$$ は明らかに区間内にあるから,
$$
R_{\min}(x)=\frac{1-x}{\sqrt{2}}\,.
$$
以上より、まとめると
$$
R_{\max}(x)=1-x,\quad
R_{\min}(x)=
\begin{cases}
\sqrt{1-4x+5x^2} & (0\le x<\frac{1}{3}),\\[1mm]
\displaystyle \frac{1-x}{\sqrt{2}} & (\frac{1}{3}\le x\le1).
\end{cases}
$$
したがって、 $${x}$$ 固定面での断面積は
$$
A(x)=\pi\Bigl[(1-x)^2-\bigl(R_{\min}(x)\bigr)^2\Bigr].
$$
【断面積の具体的計算と体積の積分】
【(I) $${0\le x<\frac{1}{3}}$$ の場合】
この区間では
$$
\bigl(R_{\min}(x)\bigr)^2=1-4x+5x^2,\quad (R_{\max}(x))^2=(1-x)^2=1-2x+x^2.
$$
よって
$$
A(x)=\pi\Bigl[(1-2x+x^2)-(1-4x+5x^2)\Bigr]
=\pi\Bigl[ (1-2x+x^2-1+4x-5x^2) \Bigr]
=\pi\Bigl[ 2x-4x^2 \Bigr].
$$
【(II) $${\frac{1}{3}\le x\le 1}$$ の場合】
この区間では
$$
\bigl(R_{\min}(x)\bigr)^2=\frac{(1-x)^2}{2},\quad (R_{\max}(x))^2=(1-x)^2.
$$
よって
$$
A(x)=\pi\Bigl[(1-x)^2-\frac{(1-x)^2}{2}\Bigr]
=\frac{\pi}{2}(1-x)^2.
$$
立体全体の体積 $${V}$$ は、 $${x}$$ 軸方向に断面積を積分して得られるので、
$$
V=\int_{x=0}^{1} A(x)\,dx
=\int_{0}^{1/3}\pi\Bigl(2x-4x^2\Bigr)dx
+\int_{1/3}^{1}\frac{\pi}{2}(1-x)^2 dx.
$$
【第一項: $${x\in[0,1/3]}$$ の積分】
$$
I_1=\pi\int_{0}^{1/3}(2x-4x^2)dx.
$$
積分すると、
$$
\int(2x-4x^2)dx = x^2-\frac{4}{3}x^3.
$$
よって、
$$
I_1=\pi\left[\left(x^2-\frac{4}{3}x^3\right)\Bigl|_{0}^{1/3}\right]
=\pi\left[\left(\frac{1}{9}-\frac{4}{3}\cdot\frac{1}{27}\right)-0\right].
$$
計算すると、
$$
\frac{4}{3}\cdot\frac{1}{27}=\frac{4}{81},\quad \frac{1}{9}=\frac{9}{81},
$$
よって、
$$
I_1=\pi\left(\frac{9}{81}-\frac{4}{81}\right)
=\pi\cdot\frac{5}{81}
=\frac{5\pi}{81}.
$$
【第二項: $${x\in[1/3,1]}$$ の積分】
$$
I_2=\frac{\pi}{2}\int_{1/3}^{1}(1-x)^2dx.
$$
ここで変数変換 $${u=1-x}$$ (すると $${du=-dx}$$ )を行います。
$${x=1/3}$$ のとき $${u=1-\frac{1}{3}=\frac{2}{3} , x=1}$$ のとき $${u=0 }$$となり、
$$
I_2=\frac{\pi}{2}\int_{u=2/3}^{0}u^2(-du)
=\frac{\pi}{2}\int_{0}^{2/3}u^2du.
$$
積分すると、
$$
\int_{0}^{2/3}u^2du = \left.\frac{u^3}{3}\right|_{0}^{2/3}
=\frac{(2/3)^3}{3}
=\frac{8/27}{3}
=\frac{8}{81}.
$$
したがって、
$$
I_2=\frac{\pi}{2}\cdot\frac{8}{81}=\frac{4\pi}{81}.
$$
【全体の体積】
$$
V=I_1+I_2=\frac{5\pi}{81}+\frac{4\pi}{81}=\frac{9\pi}{81}=\frac{\pi}{9}.
$$
【結論】
以上より、
三角形 $${ABD}$$ をその周および内部が $${x}$$ 軸回りに$${1}$$回転してできる立体の体積は
$$
\boxed{\frac{\pi}{9}}
$$
となります。
以上、思考時間 2分12秒
考察
o1 proでは10分、20分と時間をかけても全く正解に辿り着くことができなかったが、あっけなくたったの2分で正解に辿り着いた。その論証も非常にわかりやすい。極めて高度かつ高速なSTEM reasoningの能力を手に入れたというのはまさにその通りだろうという感想だ。
何より驚くべきはo1からo3への進化の速度だ。今年中にはFrontierMathのベンチマークで80%くらい行ってしまうのだろうか…。何よりこうした高度なモデルが自由に使える楽しみを今後も味わっていきたい。