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o1 proに大学の入試問題を解かせる:2024年度東大数学(理科) 第1問

o1 proは、2024年12月5日、12 Days of OpenAIの最初の発表で公開された最も賢いAIモデルである。従来のo1-previewや、o1と比較しても、数学、コーディング、PhDレベルの問題など、様々なスコアにおいて凌駕しており、おそらく一般的な博士号以上の知識・思考力を持っているとみなしても遜色ない。

Introducing ChatGPT Pro

特に驚くべきは、o1はマルチモーダリティも有しており、従来はLaTeXなどの形式に変換して言語モデルの与える必要があったものを、単に問題の画像を添付するだけで問題を解き始めるという点である。まさに人間と同じような「眼」をAIが持っているような感覚で対話ができる。

本稿はo1 proが、従来AIが苦手であるとされていた数学の問題をどの程度正確かつ即座に解くことができるか確認することを目的としたものである。できる限りAIに正しく問題を理解させるため、原則数式はLaTeX形式でプロンプトを記述するものとし、図形は画像として与えることとする。また、回答を図示するタイプの問題は、o1 proはPythonの実行はできないため、Pythonで描画させるプログラムを出力することとし、別途その結果を描画するものとする。再現性の確認は行わない。
以下は筆者の感覚に基づく採点を踏まえた考察である。あくまで参考値である旨理解いただければ幸いである。

手始めに、東大数学の前期入試問題のうち、直近の2024年(令和6年)の問題を扱おう。

第1問

問題

東京大学 令和6年度 入学試験問題 数学(理科)第1問

o1 proによる回答

1. 与えられた点とベクトル表記:
点 $${A}$$ は $${A(0, -1, 1)}$$、原点は $${O(0,0,0)}$$、点$${P}$$ は $${xy}$$-平面上の点として $${P(x,y,0)}$$ とおく。

2. 条件 (ii) の幾何学的解釈:
条件 (ii) は $${\angle AOP \geq \frac{2}{3}\pi}$$(120度以上)を意味する。
ベクトルで表すと、$${\angle AOP}$$ は $${O}$$ における角度であり、

$$
\cos(\angle AOP) = \frac{\overrightarrow{OA}\cdot \overrightarrow{OP}}{\|\overrightarrow{OA}\|\|\overrightarrow{OP}\|}.
$$

ここで、$${\overrightarrow{OA} = (0,-1,1)}$$、$${\overrightarrow{OP}=(x,y,0)}$$。

内積は

$$
\overrightarrow{OA} \cdot \overrightarrow{OP} = (0,-1,1)\cdot(x,y,0) = 0\cdot x + (-1)\cdot y + 1\cdot 0 = -y.
$$

また、$${|\overrightarrow{OA}| = \sqrt{0^2 + (-1)^2 + 1^2} = \sqrt{2}}$$、$${|\overrightarrow{OP}| = \sqrt{x^2 + y^2}}$$。
よって

$$
\cos(\angle AOP) = \frac{-y}{\sqrt{2}\sqrt{x^2 + y^2}}.
$$

条件 (ii) より、

$$
\angle AOP \geq 120^\circ \implies \cos(\angle AOP) \leq \cos(120^\circ) = -\frac{1}{2}.
$$

よって

$$
\frac{-y}{\sqrt{2}\sqrt{x^2 + y^2}} \leq -\frac{1}{2}.
$$

両辺に正数 $${\sqrt{2}\sqrt{x^2+y^2}}$$ をかけ、さらに不等号向きを間違えないよう注意すると、

$$
-y \leq -\frac{1}{2}\sqrt{2}\sqrt{x^2+y^2}.
$$

両辺を -1 で掛けて反転すると

$$
y \geq \frac{\sqrt{x^2+y^2}}{\sqrt{2}}.
$$

この不等式は右辺が常に正なので、$${y}$$ は必ず正でなければならない($${y>0}$$)。
両辺2乗すると

$$
y^2 \geq \frac{x^2+y^2}{2} \implies 2y^2 \geq x^2+y^2 \implies y^2 \geq x^2.
$$

よって $${y>0}$$ かつ $${y^2 \geq x^2}$$、つまり $${y \geq |x|}$$ となる。
従って条件 (ii) は「$${y \geq |x|}$$ かつ $${y > 0}$$」という領域を示す($${xy}$$ 平面上で、$${y=|x|}$$ でできる上向きのV字領域の内部および境界を含むが、下側は排除される)。

3. 条件 (iii) の幾何学的解釈:
条件 (iii) は $${\angle OAP \leq \frac{\pi}{6}}$$ を意味する。
角度は点 $${A}$$ における角度であり、

$$
\cos(\angle OAP) = \frac{\overrightarrow{AO}\cdot \overrightarrow{AP}}{\|\overrightarrow{AO}\|\|\overrightarrow{AP}\|}.
$$

ベクトルは、

$$
\overrightarrow{AO} = O - A = (0-0,0+1,0-1) = (0,1,-1),
$$

$$
\overrightarrow{AP} = P - A = (x-0,y+1,0-1) = (x, y+1, -1).
$$

内積は

$$
\overrightarrow{AO}\cdot \overrightarrow{AP} = (0,1,-1)\cdot(x,y+1,-1) = 0\cdot x + 1\cdot(y+1) + (-1)\cdot(-1) = y+1+1 = y+2.
$$

ノルムは

$$
\|\overrightarrow{AO}\| = \sqrt{0^2+1^2+(-1)^2}=\sqrt{2},
$$

$$
\|\overrightarrow{AP}\| = \sqrt{x^2+(y+1)^2+(-1)^2} = \sqrt{x^2+(y+1)^2+1}.
$$

よって

$$
\cos(\angle OAP) = \frac{y+2}{\sqrt{2}\sqrt{x^2+(y+1)^2+1}}.
$$

$${\angle OAP \leq \frac{\pi}{6}}$$ より $${\cos(\angle OAP) \geq \cos(\pi/6)=\sqrt{3}/2}$$。
よって

$$
\frac{y+2}{\sqrt{2}\sqrt{x^2+(y+1)^2+1}} \geq \frac{\sqrt{3}}{2}.
$$

両辺に正数を掛けて整理すると

$$
y+2 \geq \frac{\sqrt{3}}{2}\sqrt{2}\sqrt{x^2+(y+1)^2+1}.
$$

$${\frac{\sqrt{3}}{2}\sqrt{2} = \frac{\sqrt{6}}{2}}$$ なので

$$
y+2 \geq \frac{\sqrt{6}}{2}\sqrt{x^2+(y+1)^2+1}.
$$

両辺2乗して

$$
(y+2)^2 \geq \frac{6}{4}(x^2+(y+1)^2+1) = \frac{3}{2}(x^2+(y+1)^2+1).
$$

両辺に2を掛けると

$$
2(y+2)^2 \geq 3(x^2+(y+1)^2+1).
$$

左辺展開:$${2(y^2+4y+4)=2y^2+8y+8}$$。
右辺展開:$${3(x^2+(y+1)^2+1)=3(x^2+y^2+2y+2)=3x^2+3y^2+6y+6}$$。
不等式は

$$
2y^2+8y+8 \geq 3x^2+3y^2+6y+6.
$$

移項すると

$$
2y^2 - 3y^2 + 8y - 6y + 8 - 6 - 3x^2 \geq 0 \implies -y^2 + 2y + 2 - 3x^2 \geq 0.
$$

並べ替えて

$$
-3x^2 - y^2 + 2y + 2 \geq 0 \implies 3x^2 + y^2 - 2y -2 \leq 0.
$$

$${y}$$について平方完成すると、

$$
y^2 - 2y = (y-1)^2 -1.
$$

よって

$$
3x^2 + (y-1)^2 -1 -2 \leq 0 \implies 3x^2+(y-1)^2 \leq 3.
$$

両辺3で割ると

$$
x^2 + \frac{(y-1)^2}{3} \leq 1.
$$

これは中心$${(0,1)}$$、縦方向に伸びた楕円を表す。
従って条件 (iii) は、「点$${(x,y)}$$が楕円 $${x^2+\frac{(y-1)^2}{3}\leq 1}$$ の内部または境界にあること」を意味する。

4. 条件 (i) $${P \neq O}$$:
$${O=(0,0)}$$を除くこと。

5. 全条件の統合:
条件(ii)より $${y \geq |x|}$$ かつ $${y>0}$$。
条件(iii)より $${x^2 + \frac{(y-1)^2}{3} \leq 1}$$ の楕円内部。
条件(i)より $${(x,y) \neq (0,0)}$$。
よって最終的な領域は「楕円 $${x^2 + \frac{(y-1)^2}{3}\leq 1}$$ の内部かつ $${y \geq |x|}$$ を満たす上半平面寄りの領域」から原点を除いた部分となる。
図的には、$${y=|x|}$$ で形成される上向きV字の中(境界含む)で、中心が$${(0,1)}$$である楕円の内部に収まる領域が $${P}$$ の取りうる範囲である。ただし、原点は除く。

以上、思考時間 4分1秒


考察

回答は冗長かつ大学受験のお作法的な解答記述からするとやや違和感はある(同値変形を意識する等)ものの、問題なく正解のグラフに辿り着いている。o1 proは思考時間を長く取るため、o1より長く考えるが、それでも学生に一問あたり与えられた時間 = 25分よりは遥かに短時間で解答に辿り着いている。予備校の難易度評価は「やや易」とのことだ。
参考: 代々木ゼミナールによる回答

但し、note用にLaTeXの記法を修正したり、Pythonを実行してグラフを作成し添付するといった手を動かした時間を除いてはいる。

大学受験を控えた高校生のトップ層とは遜色ない数学的思考力を持っていると捉えて良さそうな結果である。

次回は第2問を解いてみよう。

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