冷え性
煙草を受け取る手が触れた瞬間に「末端冷え性ですね」と言われた。そう言われて確か私は、あぁと返事をした様な気がする。自分ではよく忘れてしまうのだけれど、私の手足はいつも酷く冷たい。どんなに厚着をしても何時間ポケットに手を突っ込んでも私の手足は温まらない。冬になると爪の色は薄紫色に染まるし、唇はいつも白い。目の下にあるクマも冬のこの時期はより一層酷くなる気がする。寒くなると顔色が悪くなるのか、よく体調を心配される。体調がいい訳でもないが、悪い訳でもないのでめんどくさい私はよく化粧や口紅で顔色を誤魔化す。顔はなんとか誤魔化しがきくが冷えきった手を誤魔化すのは中々難しい。ポッケに手を入れてもすぐに冷てしまうし、カイロで温めた手で触れて冷たい!と言われた事もあったのでもうなんというか諦めている。私は昔から冷え性であることが恥ずかしかった。顔色が悪く見えるし、触れた時にびっくりされてしまうのももちろんだがなにより温めてもすぐに冷えきってしまうこの身体がすごく嫌だった。冷たいからとカイロを貰ったり、誰かの手で温めてくれても一向に温まらないこの身体が私自身を表しているみたいで凄く恥ずかしかった。よく「手が冷たい人は心が温かい」なんて言葉を使われたが私はその言葉がすごく嫌いだ。いくら愛や温かさを貰っても満足出来ずに、すぐ端からどんどん冷たくなっていく私自身が優しいなんて到底思えなかったし、そんな風に言ってくれる優しい人達の手はみんな温かかった。夜風が冷たい帰り道、買ったコンポタージュは駅に着く頃にはもう冷め切っていた。