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カセドリは山形にいる
それは2023年の12月。
オードリーの東京ドームライブのチケットが取れず(既に先行4回撃沈)テーブルに小一時間顔を沈めていた。開催日の2/18は私の誕生日よ?このために2023年頑張って来たのに?転売ヤーへの怒りと悲しみが心に吹き荒れてひとしきり済んで、ふと気づく。
チケット代と東京までの往復交通費と宿泊費…6〜7万円浮いたな。
これカセドリ行くのと同等か、むしろお釣り来るんじゃね?
カセドリ(加勢鳥)とは毎年2月に山形県上山市で行われる伝統の民俗行事のこと。
藁蓑を頭からすっぽり被った妖怪…ではなく神の使い「カセドリ」が街を練り歩き、沿道で待つ住人たちが手桶から水をかけたり、抜けた藁を拾ったりする神事です。
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Twitterで動画を見ていつかは行ってみたいと思っていたものの、オードリー in 東京ドームで金銭が消し飛ぶ予定だったので2024年は諦めていた。
しかしドームでオードリーを見る夢が消し飛んだ今、2月の予定にぽっかり空いたこの大きな穴を埋めるのはカセドリしか無くない?
未知の土地へ行き、未知の文化に触れて、ワクワクするしかなくない?私、行ってくる!
(オードリーのドームライブは梅田の映画館でライブビューイングで見ました。最高でした。)
心を揺らすほどの趣味は2個以上持っておくもんです。
一人旅の孤独を慰めてくれたのもまたラジオ。ラジオに夢中になったが故の穴を埋めるのは、旅と祭。ありがとう!みんなありがとう!
カセドリの予定を立てていたらすっかり元気に。友達が言ってくれた「自家発電が出来るタイプ」はこういう所かもしれない。
ちょろい、ちょろ過ぎるカセドリ!
前に行った祭がパーントゥで、宮古島の島尻地区にて開催(市街地からアクセスほぼなし)、開催日非公開(現地での地道な聞き込みと奇跡的な巡り合わせで開催日を知った)だったので、カセドリもそう簡単には行かせてくれないだろう。気合を入れて情報収集だ!
と「カセドリ」で検索したら一番上に出てきたページで欲しい情報が全て手に入った。
カセドリちょろすぎね?いや、パーントゥの難易度がS級なだけか…。
京都市内〜関空 / 高速バス🚌
関空〜仙台空港 / 飛行機✈️
仙台駅〜山形駅 / 高速バス🚌
山形駅〜かみのやま温泉駅 / レンタカー🚗
かみのやま温泉駅〜上山城模擬天守 / 徒歩🚶
で、カセドリのスタート地点に到着する。こう書き出すとめちゃくちゃ面倒くさいな。
情報収集はちょろいけど、旅としてのハードルはやや高い。でもパーントゥと違って持ち前のガッツで何とかなりそうだ。
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ちなみに「カセドリ」で検索して知ったのだけど、佐賀県にも同じように頭から藁蓑を被った神の使いで、名前も開催時期も同じ神事「カセドリ」があるそうな。
藁蓑のデザインがやや違うけど、どう考えても起源同じよね?佐賀県と山形県、こんなに離れててなぜ?ネットで軽く調べただけではルーツが交わっているのかどうか分かりませんでした。気になる。
愛されて、カセドリ。
カセドリが開催される「かみのやま温泉駅」も、言うだけあって温泉宿はございました。しかし高くね?カセドリがあるから?
予算オーバーのため「かみのやま温泉駅」まで車で30分かかる南陽市の温泉宿に宿泊。旅館って書いてあったけどありゃ民宿だ。
温泉と食事は最高でしたが、電気毛布と電気布団に挟まれて上からダウンコートをかけてもまだ寒かったです。共同トイレに行くまでの廊下が極寒だったこと、きっとずっと忘れないよ。朝起きたら雪が降ってら…。
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朝食を済ませて、車に張り付いた雪と氷を削り剥がす作業で想定外のタイムロス。コンビニでコーヒーを買いたいと言う夫に「早くね、急ごうね。」とキレ気味で懇願し、何とか開始時刻に間に合ってカセドリのスタート地点「上山城模擬天守」へ。
近隣の駐車場は早くに埋まっていました。ちょっと離れたところは空いていたので、行く予定の人はファイト!
模擬天守前には屋台が出ていたり、家族連れで賑わっていたり、始まる前からお祭りムードでもう楽しい。
カセドリの演舞が始まる前に、上山市市長の挨拶、祈願式、参加するカセドリの紹介コーナーがありました。しょしょ、紹介コーナー!?
「ケンダイ(藁蓑)」を被ってカセドリになる前の、頭に手拭いを巻いたさらし姿の参加者が30人ほど天守閣の前に並び、一人ずつ名前、居住地、参加回数が読み上げられていました。
参加回数33回のカセドリジャンキーが登場したところで会場が「おお〜!」と盛り上がる。
このコーナーがすごく良くて、いかにカセドリがこの土地で愛されて続いて来たのか、どれぐらい開けた祭なのかが初見の私でもよく分かる。県外からの参加者、何なら海外から来た人も、女性も結構多い。
継承者が減って消えていくことばかり心配される日本各地の祭だけど、カセドリはインターネットで情報を得やすくして、カセドリになる人をそこで公募して、外からの人を積極的に受け入れている。そのオープンな姿勢に、文化を外に押し広げて、盛り上げて、続けていく気概を感じました。町の大きな観光資源ってのもあるだろうけど。
そもそも「来訪神」自体が外から来た者(神)を受け入れる文化だもんな〜と考えてて気付いたけど、カセドリはパーントゥと違って「神」ではなく「神の使い」だし、江戸時代からで歴史も比較的浅いから、その辺がいい意味でゆるゆるなのかもしれませんね。
【追記】
ちょうどこれ書いた翌日に読んだ「異界にふれる ニッポンの祭り紀行(大石始)」によると、
今あるカセドリは昭和61年に復活したものだそうです。私と同い年じゃないか。
そうこうムニャムニャ考えているうちに、参加者の皆さんがケンダイを被ってカセドリになって再登場しました。かわいい!
カセドリ様の、おでましだ〜!!
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はっぴを着て纏を振り回した人がそう叫ぶと、カセドリが円になって片足でピョンピョン跳ねながら「カッカッカ〜のカッカッカ」と声を掛けながら回る。その周りを囲む人々がキャッキャ言いながら手桶に杓子で水をかける。
この水は「祝い水」といい、カセドリにかけることで火の用心や五穀豊穣を願います。決してカセドリをいびりたい訳ではないのです。みんなめっちゃ笑ってるけど。
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最初の方は「うお!」「冷た〜!」「寒!」と言っているカセドリたち。それを取り囲む人だかりの中から「⚫︎⚫︎のおじちゃ〜ん!」という子供の声が聞こえる。今日はおじちゃんじゃないよ、カセドリだよ。
模擬天守でひとしきり舞ったら、次の演舞場所へぞろぞろ移動。この神(神の使い)と地元民や観光客がぞろぞろ移動する「間」がいつも好き。
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カセドリの演舞タイムテーブルがネットに出ているので、多少見失っても安心です。この辺も神出鬼没のパーントゥと違ってまったりしてる。パーントゥ、めちゃくちゃ足が速いかんね。いつの間にか居なくなってるかんね。
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カセドリを追いつつ、上山城付近を散策。今日は人が賑わってるけど、普段はほとんど人がおらんのやろなあ…という古いシャッターが閉まった店と、こんな日でも数少ない開いてるお店。
時間切れで駅の方までは行けなかったけど、たぶんそっちはもっと栄えてるっぽい。カセドリうどんやカセドリ公式キャラクター「カセ坊」のグッズが売ってたそうです。
最後まで見ると凍えそうだったのと、せっかく冬の山形に来たし蔵王の樹氷見たい!という訳で2時間ほど演舞を楽しんで「火の用心」のお札だけ買って撤収。
お札の価格は投げ銭制で、500円渡したら「え、マジ?こんなに…?」とボランティアスタッフ2人がざわついていた。相場はいくらだったのかしら。
カセドリ様、やる?
カセドリは公募制!君も神の使いになれるチャンスだ!
やら〜、ない!ヤー!
地元以外の人が主役として参加できる「カセドリ」はなかなか貴重だと思う。本当はちょっと興味ある。
でも、私である。体力には人一倍自信が無い私である。
ただでさえ寒いのに行く先々で水をかけられて、水を吸って藁蓑は重くなるし、それで4時間街を練り歩くのは無理よ。途中で倒れるよ。
でもきっと「カッカッカーのカッカッカ!」と掛け声と動きの反復、太鼓のリズムでトランス状態に入って寒さも辛さもをバグるんだろうな…と、目がバキバキになっていくカセドリの皆さんを見て思った。
33回参加してるカセドリジャンキーがいるぐらいだし、楽しいのは間違いない。