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クマホン必勝法


 突然ですがクイズです。なぜクマホンキャッシュバックキャンペーンの応募条件が「期間中にテレボートで1,000円以上購入」なのか、その理由が分かりますか?
 もちろん、テレボートに登録させるという目的がひとつ。しかしそれなら、もう少し買わせてもいいと思いませんか。期間は1ヶ月程度あります。意識しないと1,000円超えなさそうという人は手をあげてください。いませんね。いたらその手はペラで吹っ飛ばします。

 この問題に答える前に、ちょっとクマホンの親であるボートレースの運営団体について考えてみましょう。ちなみにクマホンが生まれたのは平成27年5月26日です。あやまんJAPANの監督と同じ誕生日。
 時は経て令和。昨年、ボートレースは驚愕の2兆4,000億円という売上を叩き出しました。では、それはどう使われていくでしょうか。下のいかにも役所仕事といった風情のある図をご覧ください。

出典:全国モーターボート競走施行者協議会

 つまり、売上である2兆4,000億円のうち、開催経費や収益として使用できるのは25%の6,000億円ということです。一般的な企業における「売上」がこれにあたります。施行者の収益はさらにその25%弱で、1,500億円程度。企業ならこれを「純利益」と表現するでしょうか。
 では、売上における広告費の目安はどのくらいなのか。ギャンブル業界は特殊すぎて出てきませんが、最も広告にお金をかける通販業でも20%と言われています。これを参考にするなら1,200億円。クマホンキャッシュバックキャンペーンは、そのうち2億円を使って行われるイベントというわけです。飽きることなく行われているので、運営からしたら採算がとれている自信があるのでしょう。

 クマホンキャッシュバックキャンペーンは、いったい何に一役買っているのでしょうか。経営的な視点ではなく、少しマクロな視点で考えてみたいと思います。
 競艇はギャンブルであり、同時に社会的関係が発生する場でもあります。SNSや周囲の人間と共に楽しみ、競艇場で予想屋と駄弁って、的中も不的中も思い出にする。そこには紛れもなく「社会」があります。
 社会に参加するには、普通、いくらかの出資金が必要です。競艇なら舟券代ですね。上で見たように、25%は絶対に主催者が徴収できるお金です。私たちはその支払いに、舟券を通じて「合意」しています。
 ここに参加して必死に資源を奪い合ううちに、どんどんその「場」に対する忠誠心が強くなってきます。ピエール・プルデューという経済学者は「イルーシオ(集団的な幻想)」という概念を導入した上で、この状態のことを「自発的な奴隷」と表現しました。
 控除率として当然念頭に置くべき参加費なのに、その意識が抜け落ちる。舟券の収支は、当たったか外れたかで考えるでしょう。当たろうが外れようが、払戻を受けようが受けまいがそこには必ずコストが発生しているのですが、そのことについては無自覚になっていきます。これが競艇における自発的な奴隷状態で、運営は参加者をその状態にすることで稼いでいるのです。まさに幻想。
 そして、クマホンは参加者のイルーシオを強くするために一役買っています。

問題のキャンペーン

 クマホンに当たると、当たった人は喜びのツイートをします。外れた人も、恨み節を言うのは一瞬で、だいたいすぐに忘れます。それに、シーズンごとに開催されるからいつかは当たります。このサイクルに身を置いていると、いつしかクマホンから「何かを貰えるチャンスが来る」のが当たり前になっていきます。本来なら払ったお金から少し戻ってくるだけの話なのに。
    いやいやそれの何が悪いのよ、どうせ使う舟券代で応募できるんだもん。……どうせ? まさにその言葉が「習慣」になっている証拠で、言葉を強くするなら「忠誠心」の表れなのです。
 私たちが払っている6,000億円の参加費のうち、たった2億円を戻せば忠誠心が買えるなら、それは安いもの。これが運営の勝算です。

 なぜクマホンキャッシュバックキャンペーンの応募条件が1,000円なのか、これでわかったでしょうか。どうせ買う舟券、そう思わせたら勝ちだからです。むしろ、そこにこのキャンペーンの肝があります。
 これが応募条件100万円とかなら、多くの人が忠誠のサイクルから逃れてしまいます。どうせ買う程度の金額でなければ意味がないのです。その手続きを自明にしてしまうことで、あなたを自発的な奴隷にしています。

 もちろん、だからクマホンCBCに応募するのが損だとは言いません。仮に10万人が参加しても、期待値は純粋に+2,000円です。しかし、それがタダでもらえるお金だと思ってはいけません。
 あなたが支払っているコストは、明示されていないだけでそこかしこにあります。繰り返しますが、運営は参加費で年間6,000億円稼いでいるのです。それがどれだけ大きい市場か分かりますか。彼らはそれを維持するためなら2億円くらい喜んでバラ撒きます。

 クマホン必勝法。それは、上記の仕組みを理解して、競艇をひとつの大きな市場だと捉えて、その上でクマホンの結果云々によって意思決定を変えないことです。貰えて嬉しいとか、だからいつもはやらないレースをやろうとか、そういった奴隷状態から抜け出すのです。
 イルーシオと距離を置いて、あなたはあなたの世界のルールに、クマホンごと組み込んでやりましょう。参加費は毎回払っているんです。何も遠慮することはありません。ナゲットのソースを2つ貰うくらいの気持ちで、さも当然だと言わんばかりの表情で、淡々とクマホンの胸ぐらを掴んでください。






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