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明日に向かって打て!


実家が破産した元ホテヘル従業員(元ホテ)

黒猫合唱団事務局(黒猫)


あなたが見ている世界は、他の誰かが見ている「世界」とは違う。そんな当たり前のことも、ギャンブルという特異な市場を目の前にすると、ふと忘れてしまう瞬間がある。
オッズとは、数多の人間の「意思」と「思考」、大袈裟に言うなら「世界」を、簡略的な数字で表したものだ。その意識がないと、このシビアな市場で勝ち抜くことはできない。x倍ついた、やったあ。そこで止まっている人が大多数だから、そこで止まらないあなたは勝つことができる。


元ホテ:お久しぶりです。相変わらずオーバーワークのご様子ですね。

黒猫:お疲れ様です。ご無沙汰しておりました。急な気温の変化なのか、競艇にまつわる数値取得の多角化に手を伸ばしすぎたか、食傷気味の黒猫です。

元ホテ:この記事で心と脳を温めましょう。今回のテーマはこちらです。


オッズの予測は可能か?


元ホテ:オッズ×枚数で払戻が決まるギャンブルにおいて、その数値は非常に大切なのですが、これがなかなか難しいんですよね。

黒猫:我々は凄い舞台で闘っていますからね。

2022年9月26日 児島11R

元ホテ:僕の買った出目がめちゃくちゃ下落したレースじゃないですか(笑)

黒猫:この直前投票比率、酷いですよね。最終表示オッズは5万票、つまり500万円の売上で作られています。それが、確定では表示の通り。3倍以上のボリュームになってしまう。

元ホテ:最終表示オッズを手がかりに、このオッズなら買える!と踏んで投票しても、まるっきり違うオッズになってしまうんですよね。このあたりは前回の記事でも説明しました。

黒猫:オッズがブラックボックスである以上、確定オッズを「予測する」という態度が必要ですね。

元ホテ:それをしないとただのロト6抽選会になってしまう。なにが「期待値」だって話なんですよね。最終表示の合成オッズが5倍の〔1=2-34〕があったとして、それが確定で3倍まで急降下したとしたら、それでも期待値があったと言えるのか。絶対に言えないはずです。

黒猫:しかし、確定オッズの予測は非常に難しい。特に売上の少ないレースは目も当てられない。

元ホテ:そこで、ひとつの戦略として「売上の少ない会場には気をつける」という結論が出せるのですが、話はそれほど単純ではありません。売上が多くても気をつけなければいけない番組があります。そして、その番組でとれる最適な戦略も見つけることができます。その前に、売上売上というけど、実際どのくらいのボリュームがどうなのか、ご意見をお聞かせください。


売上と稼ぎやすさの妙


黒猫:ベッター側から見て「売上が増えること」の最大のメリットは、売上推移のカーブが緩やかになることです。

元ホテ:というと?

黒猫:売上の規模が大きくなると、一定程度「最終表示オッズ」時点で見通す「確定オッズ」の確度を上げます。つまり、最終表示までに既に1億売り上げていたら、直前に3,000万円追加されてもたいして影響がありません。

元ホテ:それが売上推移のカーブが緩やか、ってことですね。先ほどの例は逆にカーブが急すぎてオッズがぐちゃぐちゃになった。

黒猫:そういうことです。ただ、売上が増えすぎると、当然期待値は収斂されます。

元ホテ:集団に集まる人間が多ければ多いほど予想が正確になる、っていうことですね。これは科学的にも証明されています。牛の逸話が有名です。目の前の牛の体重を当てろ、という課題を大勢の素人にやらせた場合、当然素人であるが故にバラバラな見積りが集まるのですが、平均すると実際の牛の体重に近づいた。その値は、目利き一人の結論よりも真の値に近かったといいます。

黒猫:その傾向は不変でしょうね。だから記念レースは期待値をとるのが難しい。というか、妙味とやらが残っている出目を見つけるのが非常に困難です。

元ホテ:では、実際にどのくらいの売上規模がベストなのでしょうか。予測が収斂するほど大きくなく、しかしオッズもぐちゃぐちゃな動きを見せない強度がある市場とは。

黒猫:参加者のるつぼをより鮮明に見通せるまでは、オッズボラティリティの低下の方がメリットが高いように感じます。共感を得にくい数値かもしれませんが、ずばり3,000万円。

元ホテ:おお、同感です(笑) 僕も常々そのくらいの市場が一番好ましいと考えています。好ましいというより、選択肢が広がる。2,000万を切るような市場だと「絶対的妙味」がないと張りづらく、億超えだともうだいたいオッズが正しくなってしまう。このくらいの市場だと、自分の予想を準備した上で、オッズを見ながら取捨選択を厳密に行う余地があります。

黒猫:モーニングやデイの人気どころ、ナイター前半までが該当するでしょうね。

元ホテ:こういった番組であれば、やや投げやりに言ってしまえば「あなたの実力しっかり出してください」になりますよね。上手ければ勝てるし、下手なら負ける。売上が少ないレースは「上手くても割を食う可能性がある」し、規模が大きいレースは「よっぽど上手くないと勝てない」という。

元ホテ:ただ、大規模な市場はすべて捨てるべきかといわれるとそうではなくて、今回考えたいのはそこなんです。


最終レースのロジック


元ホテ:ナイターの最終レースって、その日の最後のレースじゃないですか。

黒猫:禅問答ですね。

元ホテ:そうです。いや、でもこれ大事なんですよ。その日の最後レースということは、そこで当てれば逆転できるわけです。張る枚数は負け分に応じて調整すればいいわけで。

黒猫:そんなベッターをSNSでよく見かけます。

元ホテ:優勝戦とかなら、それを目当てに1日頑張ったファンも大勢います。しかし、ナイター最終レースには捨て戦のような番組がありますよね。たとえば2022年9月22日、この日は普通の平日で、ナイターの進行は桐生がオールレディース、売上的なボスとして君臨していました。あとはすべて一般シリーズです。

2022年9月22日 タイムテーブル

元ホテ:この若松12Rって、丸亀ドリームや下関から流れてくるギャン中の受け皿としての役割しかなさそうじゃないですか。売上が独特だと思います。

黒猫:面白いアウトプットになりました。

2022年9月22日 若松12R

元ホテ:番組だけ見たら、さすがに直前の1分で5,000万円近く売り上げるようなレースじゃない。

黒猫:オッズはもっと興味深いです。

RTは最終表示オッズ、TTはそこからの投票のみで作られたオッズ。
100%を下回っている出目は、要するに「直前投票でオッズが下がった」ところ。

黒猫:直前荒れ狂って、熱狂しております。

元ホテ:これは凄いです。ロクに検討されてないじゃないですか(笑)

黒猫:このオッズ(売れているところ)ならもしかしたら……とオッズ買いしてますね。オッズから確率を想像するスタイル。

元ホテ:こんな混戦レース、1-23-2345を厳密に比較して絞るならともかく、内から順に漁って取り戻せるような甘い市場ではないのに、冷静さを欠いていますね。これは非常に面白いケーススタディになりました。

黒猫:ここしか取り戻せる機会がない。しかし検討は済んでいない。だからオッズを拠り所にしてしまう。

元ホテ:最終レースだし、誰だって当てたくなりますよね。浮き分で遊ぶっていう人もいるでしょうけど、そうなると投票は少額になりがちです。しかも穴目を狙いそうなもんです。こんな夜更けに捨て番組のガッチガチ1桁をわざわざ買う人は、何かしら事情がある。

黒猫:別の例です。似たような状況に置かれた夏の桐生12R。

元ホテ:これも凄いですね。逃げから2枠絡みに直前投票が集中している。たとえば〔1-2=34〕の最終表示合成オッズが2倍ちょうど。これが確定で合成を計算すると1.8倍まで落ちています。

黒猫:1割ダウンは致死量ですね。

元ホテ:視点を変えて、最終表示時点で2倍以下になっている〔1-2=34〕は、いったいどのくらい的中するのか。対象1,952レースで48.0%でした。このあたりの「事前確率」は、しっかり身につけておかないといけませんね。


最終レースの戦略から


元ホテ:「最後のチャンスだから」という理由だけで参加されやすい最終レースは、本命寄りの出目にも直前で突っ込まれやすく、そこの推定期待値が著しく低いという概観が得られました。

黒猫:参加機会でいうと「その日最後」であることは明らかですよね。仰るように、的中確率が相対的に高い目はオッズが低くあるのは常なので、「当てて少しでも……。」の心理は人気目への投票を促すでしょう。それがオッズをさらに不利にし、期待値も地に落ちる。

元ホテ:では、この最終レースにおける最適な戦略はどのようなものになるか。基本的な姿勢はずばり「その日に取り返そうとしない」だと思うんですよね。

黒猫:まさしく。最終に限らず人気目が過熱するレースは、どうせそこには期待値なんてないのだから見送るか、的中確率的には不利でも収束まで忍耐強くベットし続けるが最適戦略になりますよね。

《最終レースの最適戦略》

人気目を避ける→レース自体見送る
       →無視されている目に張る

※的中確率は明らかに下がるが、その日に取り返す必要がないならまったく問題ない。明日に向かって打て!

元ホテ:誰だって最後のレースは当てたい。気持ちよく終わること以上のご褒美はないでしょう。そこで、あえてその日の最終レースを「連続している長期のレースの一部」として認識できるか。

黒猫:1日中打って生き残っているような参加者はなんだか我慢できそうですが、日収支というのも気になるかもしれません。どちらかといえば、ボリュームの大きい堅気の? ナイター参加者のラストチャンス。彼らはその視点を持ちようがないと思います。

元ホテ:つまりこれは予想能力というより、メンタル、特に「自分の戦略を信じ切れるか」という素養が試されているんでしょうね。

黒猫:参加者の中央値として、適正な賭け額を上回ってしまっているんですよね。上回るどころか、その日暮らしのオールインみたいな。

元ホテ:やってますね。

黒猫:そういった参加者の投票行動は“無謀な追い上げ”と運命を一にするので、その過酷なプレッシャーから早く楽になりたいと近視眼的になるのではないか。そう考えています。

元ホテ:厄介なことに、それがギャンブルの娯楽的要素を支えているところでもあるんですよね。近視眼的だから楽しい。楽しいから非合理的なベットで負ける。そしてそれは悪いことではありません。長期的な視点で「勝つ」ことを目的にする方が圧倒的にマイノリティでしょうね。

黒猫:仰る通りですね。次の瞬間、〇倍になる愉しさに人が集まっていることを否定しません。25%も源泉徴収されてなお、コンスタントに黒字化するベッターがいることは参加者構成の実情を物語っていると思います。


これからのギャンブル


元ホテ:人間の本来的な欲求に根ざしている以上、この傾向はある程度まで不変だと思います。そういったマクロなことまで考えることの楽しさ、あるいはその延長線で「勝つ」ことの楽しさ、これが界隈のほとんどに気づかれていないのは少し残念ですよね。

黒猫:それが人生で1回のくじ引きなら、「どうぞお好きなリスクをお選びください」で結構だと思うのですが、今日も明日も明後日も走る競艇で立ち回りたいのなら、繰り返し試行の収束から目を逸らしてはいけませんね。賭ければ賭けるほどに、己の期待値が忠実に返ってきます。

元ホテ:予想配信の立場にたつと、そのジレンマが強烈に浮かび上がってきます。1レースごとの的中/不的中に依存する界隈で、繰り返し試行の収束をどう伝えるのか。

黒猫:そうなんですよ。ここについては様々な次元で相反してしまいますよね。ユーザー側に立つと、目の前のレースを当てさせてくれよ!が究極のニーズなわけです。多少、デカいところを取らせてくれるなら数レースなら我慢してくれる。しかしその程度の忍耐で足りるでしょうか?

元ホテ:無理でしょうね(笑)

黒猫:はい。一般的なユーザーはべらぼうな的中確率を予想屋に望みます。それは普段自身が追っている法外な的中率、リターンの延長で、予想屋に期待する側面だけではなく、そもそも世間知らずちゃんになっているとも考えられるでしょう。

世間知らずちゃんとの攻防

黒猫:さらに供給者側から見れば、そういったニーズに応えてナンボ。俺は当てるぜ!と優良誤認表示をするわけです。当たらないじゃないかというお客様の声には、穴狙いを謳い辛抱をお願いするしかない。そう考えると、穴狙いの予想は沢山購入しないと収束しないので、ある市場原理的には予想の確度による価格設定があるべきですよね。

元ホテ:ガチガチ予想(確率0.5)と穴予想(確率0.05)が同じ値段ではやってられませんね。

黒猫:それもまあ、もちろん前提として「同じプラス期待値を持つ」ということがあってのことですが。この誤謬を解決するために本命から遊びまでを記したちゃんぽん予想があるんですかね? あまり詳しくないですが(笑)

元ホテ:いえ、まさにその通りだと思います。当てなければいけない、しかし穴狙いもしたい。そんなちゃんぽん予想に意味があるとは到底思えませんが、皮肉なことにニーズには合ってしまっています。

黒猫:こんな予想屋が居たら気味悪いですが、
「私は0.1~0.2くらいの確率計で、1.1~1.2くらいの期待値を追っています!」
みたいなのが好感持てますね。あ、こちらにいらっしゃいましたか。

元ホテ:ええ(笑) ですが、彼もまた界隈で生きるために試行錯誤しています。勝つために重要な考え方って、どうしても地味で退屈で正論めいてしまう。刺さる層も極端に薄い。どれだけ手応えあっても数百人に読まれればいい方です。万舟のインプレッションには敵わない。

黒猫:需給ともに大きな改善の余地があることは確かですが、それには相当な時間がかかるでしょうね。

元ホテ:ギャンブラーの心に訴えかけるには、こちらが工夫しなければならない部分も多いと思うんですよ。読ませる文章、目を引く題材。この対談のテーマのように、最終レースのロジックを解き明かす過程で、さりげなく伝えたいことを散りばめる。どうでしょう。「これは読まれそうだ」と感じられるような、最近気になっているトピック、何かありますか?

黒猫:なんという無茶ぶりでしょう。私はしがないオッズ監視・物体検知員ですよ(笑)
でも、つまるところどう転んだってニーズはありもしない「必勝法」なわけです。しかし、一朝一夕に手にできるそれはどこを探したって無い。膨大なデータ収集、解析、学習を経て、人間の脳みそが悩みぬいた間違いを掬いとると言うアプローチはありますが……。

元ホテ:誰もができることじゃない。

黒猫:はい。さもなくば、人の「ココロ」を読み切って鋭い手を打ち続ける他ないわけです。「唐津のシードレースで1番人気が3倍台の場合、10~20番人気を平買いしてればプラスになるよ!」なんてよした方がいいのです。

元ホテ:真の確率が明かされない以上、すべての投票に間違いが潜む余地がある。我々が挑んでいるのは、その間違いを探す競争なんですよね。

黒猫:それは機械で探しても、ダウジングで探しても、シャーマンに聞いて探しても構わない。ただ、私の知る限り、生身の参加者ができる最もリーズナブルな手法は、他の参加者のアタマとココロに宿る間違いを見抜くこと。オリジナル展示タイムのコンマ数秒に頭を抱えることではないと思っています。

元ホテ:そうなると用いるべきは、競艇に関する知識よりも「我々人間」に関する知見ですね。それってもはや学問じゃないですか。似非学問をギャンブルに持ち込むのではなく、学問の麓からギャンブルを眺める。最終レースのどの目が不合理かは、そのレースの解析だけでなく、人間そのものの思考のクセを解き明かすことでも見えてくる。こういった題材はたくさんあるんでしょうね。誰もやらないだけで。

黒猫:不確実な結果を当てるゲームですから、アプローチはいくらでもあるのです。誕生日舟券を買い続ける者がいれば、心理学、統計数理、行動経済学といった学問で紐解こうとする者も居ていいですよね。
学問のための学問がずいぶん増えましたが、本来は大切な人を病から救いたいとか、金を人より多く掘りたいとか、ミサイルを遠くに飛ばして戦争に勝ちたいとか目的のある営み。競艇で金を儲けたいから、既存の学問を用いて理論を検証し、積み上げる。それが学問と成り、目的に結実したら気持ちいい。私たち「小難しい」チームの快楽はこのあたりにあるのかもしれませんね。

元ホテ:そうですよ。そもそもこうして我々が当たり前のように使っている確率論だって、パスカルとフェルマーがサイコロ遊びについて語り合ったところに起源があります。遊びから学術が生まれる。面白いじゃないですか。是非同志が増えてほしいものです。

黒猫:もっとも、こんな頭でっかちが増殖したら、オッズが辛いなんてもんじゃなくなります。最終表示オッズを見て、確定オッズに向けて何を買うか、いわば「じゃんけん」みたいなゲームになりそうですね。

元ホテ:大丈夫です。じゃんけんにも研究の余地がありますよ。一説によると、気の強い男性はグーを出しやすい傾向にあるとか……。




 リスクという言葉の語源に着目してみると、その由来は「rischiare」という古いイタリア語で、意味するところは「挑戦」です。
 挑戦するという行為の拠り所は、積み重なった知識です。ありがちなライフハックなどではなく、冷静で悩ましくて曖昧で誠実な知識をどれだけ蓄えられるか。ギャンブルにとっても、それが重要なんだと信じています。
 賭けに対する情熱を、一時的な興奮以外に向けられる貴方へ。

 お読みいただきありがとうございました。




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