途上の揺蕩
まず前提として、競艇に限らずギャンブルは「実力が即座に成績に現れるとは限らない」という性質があります。どんなに達者なプレイヤーでも、短期成績でのマイナスはつきものです。だから、こうした質問に対して「もう少し様子を見るしかないのでは」という回答は十分成立します。500レースやって現れなかった実力が、5,000レースの集計では如実に出たりする、そんな厄介なゲームをしています。
それでは味気ないので、ここでは、少し違った観点から検討してみようと思います。エビデンスを示すというよりも、私が個人的に抱いている「市場変化」についての感覚的エッセイです。
石野が賞金王を獲ったのは2019年末です。そこから二年半の月日が経ちました。
私が初めて競艇に触れたのは、茅原が賞金王を獲った2014年です。月に数回、舟券売場に足を運ぶようなライト層でした。それがいつしか「2号艇平均STに過剰なセンチメントがある中で、1-3=関連にはそれなりにチューニングされたものの、他もランダムな投票でノイズが多い……」などというよくわからないことをブツブツ言い続ける仕上がりになってしまいました。Twitterで予想をあげるようになってからに限定しても、予想への態度や投票の考え方は相当に変化しています。
さて、ご質問いただいた方は、激動の二年半を駆け抜けたのだとお見受けします。競艇全体の市場規模は、この二年半で爆増しています。2019年に1兆5,000億円だった総売上は、2021年には2兆3,000億円を超え、今年はさらに増えることでしょう。単純計算で、1.5倍の上積みです。
例の疫病で暇になり、可処分所得の行先を見失った人が、いったいどれだけいたことでしょうか。SNSで競艇に興味を持ったり、渋くなったパチスロから移行してきたり、せっせとbotを開発したりと、様々な意思で参入してきた彼らは、未だ「途上」にあると言えます。こなしたレースは20,000にも満たないでしょう。二年半、人力で投票するならその程度が限界です。
溢れんばかりの情報に触れ、目まぐるしく開催されるレースに翻弄され、一喜一憂し、選手や展開への印象を形成し、それはやがて不安定で脆い「信念」になる。その途上です。
やや乱暴に言ってしまえば、以前は能動的に情報を取得しないといけなかったニッチな市場が、今では受動的に揺蕩うことのできるメジャーな市場になったのです。そして当然、その傾向は、売上が多くなる記念競走に顕著です。
質問者様の抱いている違和感は、その「市場変化」と関係があるかもしれません。
どのように変化しているのか、それが自分にとって都合のいい変化なのか、どう対応すべきなのか……その先に考えることは山ほどあります。ですが、とりあえず「自分が変わってなくても成績は変化する」という点を念頭に置くべきだと言えます。話はそれからです。
記念競走の成績の分散が激しいのは、試行回数が少なく、市場変化がより顕著だから。私の当座の結論とさせていただきます。
その先は、著名なポーカープレイヤーであるクリス・ファーガソンの体験談をご紹介するにとどめておきましょうか。彼は、
とインタビューで語っています。その途上に、挫折と迷いはつきものです。いたって正常に上達しているのだと思います。
それでは、このへんで。