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機嫌、あるいは頭脳
ドイツの心理学の研究チームによる、よく知られた研究がある。ある問題を用意して、それに「直感で」答えてもらう、というものだ。たとえば次のような問題である。
次の3つに共通するものは何か?
ダイビング 青 ロケット
2秒で次の問題に移ってしまうため、被験者は直感で答えなければならない。空=スカイという正解にたどり着けるかどうかはさほど重要ではなく、被験者のグループにこの実験の面白さがある。
1つめのグループには、この実験の前に「楽しいこと」を考えてもらうように指示があった。もう1つのグループには「悲しいこと」を考えてもらったのだ。
直感による正答率が高かったのはどちらのグループか。驚くほどの大差で前者が勝った。
人は機嫌がいいと直感が冴え渡り、一方で論理的なエラーを犯しやすくなる。上機嫌ということは、物事がうまくいっており、警戒心を強める必要がない状態である。そんなときは「なんとなく」でだいたいのことがこなせてしまう。不機嫌だとあらゆる可能性を警戒し、考えすぎてしまうのだ。そのおかげで、論理的な間違いは意外と犯さない。直感に理性が邪魔をするようなイメージだ。
これはギャンブルをやるメンタルにも敷衍できる話である。
不的中が続いて機嫌を損ねたとき、次のレースを過剰に考えすぎてしまうことはないだろうか。逆に勝っているときは、いつも以上に直感でラフにベットしているのではないだろうか。
機嫌と思考回路はなかなか切り離せないため、こうした認知的な不合理が発生する。本当はいつでも同じ手順で同じように賭けたいのだが、それは並大抵の努力では達成できない。我々は動物なのだ。
本能をコントロールするのは理性である。理性とは知識だ。自分がこうした思考回路の「クセ」を持っているのだということを認識し、ことあるごとに思い出すようにしてみよう。機嫌がいいときに立ち止まり、不機嫌なときに力を抜く。これが意識的にできるようになってはじめて、自分の能力に見合った収支になる。どうやら、予想手法に思いを馳せる前に、己のメンタリティを理解する時間を十分にとった方がよさそうだ。
「ギャンブルはメンタルゲーだ」などと簡単に表現されがちだが、そのメンタルは知識でコントロールできる領域であり、諦めるべき聖域などではない。
心という抽象的なものの前に、貴方の頭脳が立ちはだかる。そもそも、人間の心理は「特定の神経回路網を電気パルス信号が流れること」だと言われている。貴方が貴方をコントロールするために、けっして神の力など必要ない。必要なのは、知識と論理で武装し、日々考え抜くことだ。
それが楽しいと思える奇特な人間だけが、敗者のゲームで生き残る。