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試し読み:『行政×デザイン 実践ガイド』はじめに

今月24日発売の新刊『行政×デザイン 実践ガイド 官民連携に向けた協働のデザイン入門』(中山郁英 著)より、「はじめに」のテキストをご紹介します。

著者の中山さんは「行政×デザイン」領域の研究者であり、地元・滋賀県長浜市で官民連携の取り組みにずっと携わってきた実践者でもあります。ぜひ読んでみてください。

【お知らせ】
8月2日(金)19時より、著者の中山郁英さんと、本書のもととなった中山さんの博士論文の主査を務められた京都工繊大教授・水野大二郎さんにご出演いただき、トークイベント(配信のみ)を開催いたします。

チケット代は500円(税別)、BNNストアで書籍をご購入いただいた方は無料でご視聴いただけます。この機会にぜひチェックしてみてください。

▶️詳細: 
「行政×デザインの泥臭さと可能性について」|書籍『行政×デザイン 実践ガイド』刊行記念トーク配信


はじめに

 本書は、デザインの考え方やそこで培われてきた手法を、どうすれば行政という特殊な組織で活用できるのか、その方法や考え方について解説した本です。
 また、そもそもなぜ行政でデザインが注目されているのかという背景や、そこで使われる「デザイン」とは何を意味するのかといったことについて、デザインという言葉に馴染みのない方にとってもなるべくわかりやすいようにお話しています。

 「デザイン」という言葉は、誤解を受けやすい言葉のように思います。どこかキラキラした華やかなイメージがあって、近づきがたい印象をお持ちの方もおられるかもしれません。ましてや、行政というお堅い組織とはなおさら縁遠いもの。そのような声をこれまでたくさん聞いてきました。
 一方、海外に目を向けてみると、欧米を中心に、行政組織や公的機関におけるデザイン手法の活用について実践や研究が進んでいます。欧米だけでなく、南米やアジアの国々でも取り組みが広がり、そしてもちろん日本でも試みが始まっています。2010年あたりからは論文や書籍が出版されるようになり、実践的なレポートやガイドも多数公開されています。しかしながら、日本語で参照できるものはまだあまり多くありません。

 世の中の移り変わりが激しく、市民の生活環境やライフスタイルも多様化し、前例踏襲や付け足し型での課題解決が機能しなくなってきた現代社会において、公共的な課題に立ち向かう行政組織だからこそ、デザインという考え方やそこで用いられる手法が有効に活用できる可能性が多くあります。
 とはいえ、デザインは魔法ではありません。泥臭い、小さな行動の積み重ねから、未来の道を切り開いていくものです。デザインという言葉の誤解を解きほぐしつつ、組織内外でデザインが共通言語として機能するようになることを目標に、本書を執筆しました。

 私は、デザイン学の視点から「行政によるデザインの実践」をテーマに研究をしており、おそらく日本では初めてそのようなテーマで博士号を取得した者だと思います(この研究分野に興味を持った理由は「おわりに」に書いています)。ずっと研究者として生きてきたわけではなく、民間企業や大学での勤務を経て、近年は出身地である滋賀県長浜市を拠点に行政や地域の方と地域づくりや産業振興、教育など幅広いテーマでデザインの実践を行ってきました。本書は、その研究と実践経験を踏まえて書いたものです。

本書の対象読者

 本書の読者としてまず想定するのは、地域社会をより良いものにしようと日々奮闘されている行政職員の方です。本書を手にとってくださった方は、「デザイン」というものに多少なりとも可能性を感じてくださっているのだと思います。そのような方が、考え方や知識を蓄え、具体的に一歩踏み出せるような内容にしています。
 また、デザインにまったく馴染みのない同僚や上司の方にも紹介してもらえるよう、内容が柔らかすぎずまた堅すぎないようバランスに配慮しました。巻末にはさらに深く学べるようにおすすめ書籍もピックアップしてご紹介しています。

 加えて、行政組織と直接仕事をするデザイナーの方や民間企業の方、また一市民として身近な地域の課題解決に関わったり興味関心をお持ちの方にも読んでいただけるような内容を目指しました。公共的な課題をテーマに活動をしていると、自ずと行政と関わる機会が出てきます。これまで行政と一緒に活動をしていて疑問に思ったり、もっとこうだったらいいのにと思われたことも多くあるのではないかと思います。その一部は、デザインという視点から紐解くことで前進する部分があるはずです。
 また、公共的課題をテーマとした活動に興味があるデザインを専攻する学生の方にもぜひ読んでいただきたいと思っています。その力が発揮できる場面は思っているよりも多くあるはずです。論文やレポート作成の助けにもなるよう、なるべく参考文献を示すようにしました。

本書の構成

 本書は、2つのパートと4つの章からなります。自分に必要だと思われる部分から読んでいただければと思いますが、順番としては大きな考え方(1章、2章)から具体的な実践(3章、4章)につながる流れとなるよう構成しています。それぞれの章でどのようなことが書かれているか、簡単に解説します。

 まず第1章では、「どうして行政にデザインが必要なのか」ということを大きなテーマに、そもそもデザインとは何かということから、そこで大切にされる概念、行政でデザインが注目される背景について解説しています。ここから読んでいただくと、行政組織によるデザイン実践というものの大きな見取り図を持つことができるのではないかと思います。

 次に第2章では、政策立案と実施にデザイン手法をどのように活用できる可能性があるか、またそれを支える市民協働や仕組みについて、主に行政側の視点から検討をしています。
 行政職員でない方でも、本章を読んでいただくことで、政策とは何で、どのようにつくられ実施されるのかということがご理解いただけると思います。

 デザインでは、実際に行動することが大事にされます。第3章では、「実際にやってみよう」ということで、具体的にデザイン手法をどのように活用できるのか、どんな時にどんな手法を活用すべきか、まず知っておくべき手法はどのようなものがあるか、といったことについて記載しています。読めば、自分にもできるかも、やってみようかな、と思っていただける内容になっているはずです。

 そして最後の第4章です。デザインという新しく感じられるものを行政組織で実践する際には難しさもあります。実践するうえで気をつけるべき点や、その難しさを乗り越えていくための方策について、よく聞かれる質問をきっかけとして検討しています。これから始めるというときに留意してもらえることも多くありますし、すでに実践を試みているという方にとってもプロジェクトを前に進める参考になる部分があるでしょう。

 今ご自身が携わっている事業や活動と照らし合わせながら、また、こんなことができるんじゃないかと妄想を膨らませながら、読んでいただければと思います。
 どこから読み進めるか、準備はよいでしょうか。では、始めましょう。


Amazonページはこちら。Kindle版(リフロー形式)もあります。

また、中山さんに寄稿していただいた『行政とデザイン 公共セクターに変化をもたらすデザイン思考の使い方』の序文とイントロダクションはこちら。


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