試し読み:『配色スタイル ハンドブック ファッション・パレット』
2024年7月に刊行した『配色スタイル ハンドブック ファッション・パレット』。ベストセラーの配色本『配色スタイル ハンドブック』シリーズ、待望の続編です。
今作では、美しいコーディネート写真とともに、ファッションに特化したカラーパレットの数々を提案しています。本書の冒頭部分の「はじめに」「本書に寄せて」を紹介します。
はじめに
ローレン・ウェイジャー(共著者)
私はずっとファッションに夢中だった。子どものときは、1週間分の服を全部並べて準備していた。曜日ごとに色分けしたラベルをつくって、コーディネートした服の上に置いていた。中学生のときは、フランネルシャツ、オーバーオール、ベルベットのワンピース、シュシュがお気に入りだった。深い緑、鮮やかなオレンジ、濃いめのターコイズなど、エネルギッシュなジュエルトーン(宝石の色)に惹かれた。持ち物は全部、大好きなスマイリーフェイスや、陰陽マーク、にぎやかな幾何学模様にしていた。
ブログが流行りだすと、「Style Bubble」「Honestly WTF」「The Sartorialist」などのファッションブログをGoogleリーダーで購読していた。ハイファッションからカジュアルなストリートスタイルまで、あらゆるものからインスピレーションを受けた。週末は『プロジェクト・ランウェイ』を見たり、J.クルーのカタログや『ラッキー』誌でコラージュをつくったりで忙しかった。特に、ドリス・ヴァン・ノッテン、マーク・ジェイコブス、ケンゾーといったデザイナーの色使いに魅せられた。色と素材との関係性、色同士の相互作用、コレクションごとの色彩選定。そのすべてがとても魅力的に思えた。
これまでの『配色スタイルハンドブック』を読んでくださった人ならご存じのように、私の色彩コレクションには通常、ファッションだけでなく、絵やイラストレーション、陶器、ジュエリー、フラワーデザインなど、さまざまなグラフィックを使っている。だからファッションに特化した本をつくるのは、新鮮でうれしい変化だった。ほぼ毎日をスウェットで過ごしていながら、ファッション写真を色ごとにキュレーションするなんて夢のような仕事だ。
ソフィア・ノリーン・アフマド(共著者)
本書では、コンテンポラリー・ファッションのレンズを通して色を探求する。言葉が私たちの色に対する認識を形成していることは言うまでもない。ファッション業界では、響きの美しさと市場性で色名が決まることが多く、フルーツや花、宝石の名前が頻繁に使われる。古代に起源を持つ色名もあるが、そのすべてが永遠に同じ色を指すとは限らない。ファッションにおける色の移ろいやすさを示す最近の例は「ヌード」だ。ヌードはもはや淡いベージュに限らず、明るい色から暗い色まで、幅広い肌色を想起させる名前なのだ。
ローレンと私とで、今を物語る32の色名を選んだ。各色に1章をあて、パレットとモダンファッションの画像を使って解説している。文章では、文化によって大きく異なる色彩象徴(訳注:色の意味)にはあまり焦点を当てず、それぞれの色名の、現在の英語圏での由来を掘り下げている。また色彩が、本書で紹介する例のように、他の色や、さまざまなファッション素材と組み合わされたとき、どのような視覚効果が生まれるかについても考察している。そして各章の合間には、5人の著名な色彩の専門家との対談を掲載。デザイナー、スタイリスト、パターンデザイナー、トレンドフォーキャスター(訳注:トレンドに注目して、それを追う人)、カラリストなど、みなそれぞれに、今日のファッションの色彩計画を形成するうえで重要な役割を担う人たちである。
本書に寄せて
セレステ・エヴァンズ(ファッションクリエイティブ)
この世のすべてに色がある。それぞれの色が異なる気分や感情に訴えかけてくる。その原理は、アートやデザインに生かされているが、ファッションにも同じ考え方が当てはまるのだ。
この本は、ファッションを通して、いかに生き生きとした色彩表現ができるかを示している。私がこの本に強く共感するのは、自分自身が、人生のあらゆる年齢、段階において、いつも色彩に夢中だったからだ。
私の育った家庭では、両親ともがクリエイティブ業界に携わっていた。母はデザイナー兼トレンドフォーキャスターで、色彩や模様、素材について、とてもたくさんのことを私に教えてくれた。色彩を使った表現は、まさに母から授かった才能だ。私も、人々にインスピレーションを与え、自分自身を色彩で表現する手伝いをしたいと思っている。
私に言わせれば、自分の肌の色がこうだから、髪の色がこうだから、この色が着られないというのは神話だ。すべての色が、すべての人、すべての季節に合う。私は、大部分の人がニュートラルカラーを着る感覚で、鮮やかな色を着る。鮮やかな色は、私にとってのベーシックカラーなのだ。そして、同じことが誰にでも言える。質の高いファッションアイテムへの投資は、季節に関係なくミックス&マッチできるワードローブを構築するために重要だ。夏に着るアイテムでも冬のレイヤリングに使えるし、深い色合いを夏に着たり、明るい色を冬に着たりと、好きなようにしていいのだ。
人間は、バランスの整ったものを、視覚的に心地よいと感じる傾向がある。洋服のコーディネートでは、いろいろなバランスのとり方がある。たとえば、同じような強度(訳注:鮮やかさ、あるいはくすみ具合。彩度、クロマ、飽和度とも呼ばれる)の色同士を合わせるのも一つの方法だし、私が「カラーディネーション」と呼んでいる同系色コーディネートもいい。中でも気に入っている着こなしは、頭からつま先まで単一の色相(訳注:物を見たときに感じる、赤、オレンジ、黄、緑、青、紫などの色)のバリエーションで揃え、テクスチャーやシルエットで遊ぶやり方だ。
カラートレンドは認識しているが、それによって私のファッションの選択が左右されることはない。色彩に強い愛着を持つ私は、色が与えてくれるエネルギーに乗っかる。私が身につける色は、その時々の人生のフェーズを反映している。今ハマっているのは、鮮やかなコバルトブルー。とても大胆、かつ洗練されていて、力強くもある色だ。フェミニンとマスキュリンを同時に表現できる。そこが最高だ。スタイリングに関しては、私はいつも、あえての違和感、すなわちちょっとした意外性を加えるようにしているのだが、同時にバランスも求めている。コバルトブルーは、その両方を満たしてくれるのだ。
ピンクは愛を感じさせてくれる。これは比喩ではなくて、本当に、ピンクを着ることを恐れないわが夫が思い出されるのだ。また、ピンクのクレヨンで塗り絵をしたり、ピンクのおもちゃをたくさん持っていた子どもの頃に戻れる。ピンクは他の色とも相性がいい。ピンクと緑! ピンクとオレンジ。ピンクと茶色。私が大好きなピンクのバリエーションはたくさんある。
赤は私があまり身につけない色だ。とてもドラマチックで強烈な印象を与えるので、私の性格にあまり合わない。でも、他の色と同様、赤にもたくさんの色合いがある。私の好みはオレンジ寄りの赤だ。
オレンジは大好きだ。ぬくもりのある色で、スタイリングもしやすい。オレンジには、美しいバリエーションがたくさんある。夕日、温かさ、旅行に行くことを連想させる。ワクワクし、楽しいことが頭に浮かぶ。オレンジは私にとって喜びの色なのだ。
黄色は昔から変わらず好きな色の一つだ。必ずしも身につける色としてではなく、ブランディングやデザインによく使う。黄色は最も幸せな色。喜びと好奇心をかき立ててくれる。注意を引きつけ、太陽であり、月である。陽気で軽快。私の性格に最も合っている色だ。
緑は本当に大好きで、特に身につけるのが好き! 瞬時に成長、進化、成熟を想起させる。そしてバージョンアップした自分がイメージできる。30歳を過ぎてから、緑をとてもよく着るようになった。緑は気持ちを落ち着かせてくれる。
青も昔から大好きだ。青に平穏を感じるのは、私の好きな場所であるビーチを連想させるから。落ち着きと安定の色。私の定番カラーの一つだ。青は安全を感じさせてくれる。
紫は神秘的で、高貴で、高級な色だ。精神を表す色であり、考えさせ、「今ここ」を実感させる。私にとっては勝利を意味する。身につけるのが好きで、特に紫色のコートが好きだ。たぶん神秘的なせいだろう。紫は思わず二度見したくなる色である。
好きな色を一つ選ぶことなんてできない。色彩は気分であり、体験であり、エネルギー、感情、雰囲気である。色同士を組み合わせることで、さらにすばらしくなる。私の好きな色は「カラフル」なのだ!
ワードローブに色を取り入れるというのは、私にとっては当たり前でも、難しいと感じている人が多い。どの色とどの色が合うのかを理解するには、一定の努力が必要になる。だからこそ、この本を一家に一冊置いてほしいのだ。ローレンのつくる配色パレットは、今まで考えたこともなかったような色や組み合わせのインスピレーションを得るのに絶好のツールだ。掲載された写真を見ていると、まるで美しいファッション雑誌をめくっているような気分になる。この本の色彩をヒントにして、どんなことができるか考えてみよう!
本書について
本書では、ロータスピンク、マホガニー、アイス、エバーグリーン…など、ファッションで用いられる32のカラーテーマからパレットを複数展開し、色名の由来、色と素材の関係や相互作用について解説しています。
さらに5名の著名な色彩の専門家へのインタビューを掲載し、色の扱い方やスタイリングのコツなどを伺います。デザインやスタイリングのインスピレーションを得るための、とっておきの配色パレット集です。
デザインや、日々のスタイリング、メイク、ネイルなど、様々なシーンで本書がみなさまのお役に立てば幸いです。
Amazonページはこちら。Kindle版(固定形式)もあります。