試し読み:『デザインリーダーシップ』冒頭部分
2018年5月に刊行した書籍『デザインリーダーシップ デザインリーダーはいかにして組織を構築し、成功に導くのか?』(リチャード・ベンフィールド 著、三浦和子 訳)より、冒頭部分をご紹介します。少し古い本ですが、今でも色褪せない内容です。
序文
なぜこの本を書いたのか? 誰のために?
どういうわけか、リーダーは「すべての答えを持っているべきだ」と思い込まされている。私たちは企業のリーダーシップをほとんど神話的レベルにまで引き上げ、リーダーは何もかもわかっていて、決してミスを犯さないものだと考えている。だが実際は、プロダクトのデザインであれウェブサイトのデザインであれ、あらゆるリーダーは他の人と同じように戸惑っているのだ。ミスを犯し、大失敗し、途中で話をでっち上げる。そして教訓を忘れて、方向を見失う。本書のための調査で、デザインリーダーの50%近くは、自分が「まあまあのリーダー」にすぎず、「まだまだ学ぶべきことが山積みだ」と述べている。自分が「優秀な」リーダーだと思う人は13%だけだ。彼らは北米の一流デザイン会社の責任者なのだから、最も賢明で経験豊かなリーダーでさえ、リーダーシップの課題で苦労していることは間違いない。
本書を執筆したのは、個人的なフラストレーションを抱えているからでもあり、デザインリーダーシップの意味がひどく誤解されているからでもある。デジタルデザイン組織を成功に導くのは、複雑で骨の折れることだ。明確なマニュアルもガイドブックもない。ところが、リーダーなら何でもわかっているという誤った認識のために、リーダーたちは助けを求めにくくなる。そんな認識を持っていると、リーダーもその指示を待つ従業員も結局は失望するだけだ。デザインリーダーは適切なガイドと洞察を必要としている。この本で、そうした知識を提供するつもりである。
私も戸惑っているデザインリーダーのひとりで、成人後はほとんどテクノロジーとデジタルデザインのアントレプレナーとして過ごしてきた。念のために言っておくと、ほぼ20年間だが、そのあいだ辛い経験を通じて学んだのは、「すべての答えを持っている人は誰もいない」ということだ。またリーダーとして、試行錯誤を通して答えを見つけることもできるし、情報源にじかに当たることもできるとわかった。ただ私には、情報源に当たるほうが性に合っている。偉大なデザインリーダーになる方法を知りたければ、最高のデザインリーダーに直接聞けばいい。10年前にデザイン会社Fresh Tilled Soilを設立したとき、私は多くの疑問を抱いていた。明確な答えのない疑問である。しばらくは試行錯誤を通して身をもって答えを学ぶつもりだったものの、やがて、これは非効率的で高くつくことがわかった。そこで本を読み、他のリーダーたちがこうした問題をどのように解決しているのかを知ろうとしたが、本に書かれている答えは少々一般的すぎるように思えた。しかし、私より賢明で経験豊かなデザインリーダーたちと直接話す機会を得たことが突破口となった。彼らとの会話にインスパイアされて作り上げた戦略が成功し、借り入れも外部投資家の支援もなく、ゼロから数百万ドル規模のデザイン会社に育てることができたのだ。こうした会話に大いに助けられた私は、自分をはるかにしのぐデザインリーダーたちのもとへ旅行や出張の折に訪ね、日常的に助言を求めることにした。
さらに、疑問を抱いているのは私だけではないことに気づいた。会議、業界の会合、何げない会話の最中にしばしばこういった話題が出るのだ。私はこれらの会話を記録し、すべての見解と解答を書物としてまとめる価値があると思うようになった。自分にとって有益なら、他のデザインリーダーの役に立つかもしれないと考えたのだ。というわけで、その目的のために本書が誕生したのである。
本書は、既存のデザインリーダーと、リーダーへの道を歩んでいる人に向けた本だ。デザインリーダーへの理解を深めたいと願う部下にとっても有益だろう。つまりこの本は、デザインチームを率いる人、新興デザイン会社の経営者、あるいはデザインリーダーと緊密に協力して仕事をする人のための書籍である。あなたが駆け出しであろうと何十年も冒険的事業に打ち込んでいる人物であろうと、本書はあなたを導き、最高の人材の雇用、強い文化の創造、個人としてバランスの取れた生活、リーダーシップスキルの向上、最適なワークスペースのデザイン、健全なセールスパイプラインの構築といったテーマについて、知識を伝授する。
私たちは、新興企業や既存企業のリーダーたちにインタビューを行った。デザインリーダーがオーナーを務める独立系デザイン会社の場合は、従業員数5~100人の会社に焦点を合わせた。若干の例外はあったが、私たちの目標は、典型的な産みの苦しみに対処しているリーダーと話すことだった。ESPNやFidelity Investmentsなどの大企業のリーダーとも話したが、たいていは小規模および中規模のデザインチームに注目した。インタビューした会社の約60%は5~15人の従業員、約40%は20人以上の従業員を抱え、数社は75人以上のチームメンバーを有していた。これらの会社間の文化的な違いはきわめて大きく、その相違を定量化するのは難しい。その代わりに私たちは、個別の物語、共通の洞察、そしてデザイングループをより生産的かつ創造的でフォーカスの定まった集団にするための戦略的アプローチを記録してきた。
本書は、教科書でもなく簡単なワークブックでもない。この本は、会話なのだ。私は、同僚で友人のダン・アラードの協力を得て何百回もインタビューを行ったが、そのなかから選び抜いた会話を集めた本である。ダンはFresh Tilled Soil創業時からの社員で、私と同様にデザインリーダーシップに関心を持っている。私がインタビューを行っているあいだ、ダンは重いビデオやオーディオ機器を引きずり回し、北米全域の何十もの都市まで同行してくれた。コロラド州ボールダーのHaught Codeworksのような小企業からコネティカット州ブリストルに120エーカー(約48万5000平方メートル)の敷地を持つESPNなどの巨大企業まで、デザインリーダーへの100回近いインタビューを録画してくれた。2013年後半から2015年半ばまで、私たちは北米のデジタルデザインリーダーたちの視点、洞察、逸話、個人的な話を記録した。こうしたインタビューの多くは、未編集版がYouTubeで公開されている。「digital design leader」で検索すれば、何十もの示唆に富むインタビューを視聴できる。この2年のあいだに、こうしたビデオのいくつかはポッドキャストや記事になったが、すべてのインタビューが一度に公開されるのは本書が初めてである。
私がこの本を書くのを楽しんだように、本書を楽しんで読んでいただきたい。私はリーダーたちとの交流から大いに学んだが、みなさんもそうなってほしい。彼らと親しくなったことですばらしい友情を得たうえに、いくつかのパートナーシップまで生まれたのだ。本書の記述に際しては、編集者、校閲者、出版社の助けを借りて、明確で魅力的なものになるよう努めた。本書をデザイン組織経営の規範的マニュアルにすることは意図的に避けている。むしろ、「最善の」アプローチを収集・整理し、読者が自分のチームにとっていちばん効果的な方法を選択できるようにそれらを提示した。私たちの目標は、テーマを包括的に取り上げることだったが、詳細に立ち入りすぎてあなたが居眠りすることにならないよう心がけた。あなたのデザインリーダーシップの地位や野心がどんなものであれ、本書を読めば、価値ある何かを見つけられることを確信している。
また私たちは、ソーシャルメディアで、あるいは直接会って、読者や投稿者とこうした会話を続けたいと考えている。先に述べたように、デザインリーダーはすべての答えを持っているわけではなく、さらに探求し学ぶべきことがたっぷりある。より賢明になるよう互いに協力し合い、その知識を広めて役立たせよう。上げ潮はすべての船を持ち上げる。デザインリーダーとして情報に通じているほど、自らの組織に効果が現れるのは早い。分かち合う情報が多いほど、献身的なチーム、幸せなクライアント、金銭的リターンを得られるのである。
この本を購入して読んでいただき、ありがとう。本書を執筆し、他の多くのデザインリーダーに伝えることができて本当にうれしく思う。
リチャード・べンフィールド
本書の構成
第1章 企業文化
投資家のジョナサン・ビアレがかつて私に言ったように、「すべての会社には独自の文化と政治がある。あなたはどの文化と政治が最も興味深いか見極めなければならない」。この章では、デザインリーダーが組織を成功に導くために文化を創造し育む方法を探る。デザインスタジオのオーナーや経営幹部から、文化、人材の誘致、生産性、目的の関連性について聞く。
第2章 人材
あらゆる組織の礎は人である。優れた人が優れた組織を作るのだ。このような人材を見いだし、彼らが仕事に専念して幸せを感じられるようにするのが、デザインリーダーにとって最重要の責任である。私たちは、これらのリーダーが組織に人材を惹きつけて育てる画期的な方法を探る。
第3章 オフィススペースとリモートワーク
今日のワークスペースは、あなたの父親の20年前のオフィスとはまったく違う。壁は取り払われ、クリエイティブワーカーはこれまで以上にリモートワークで働くようになっている。この章では、チームメンバーとクライアントに生産的なスペースを保証するためのオフィス環境の在り方を、トップデザインリーダーに尋ねる。さらに彼らに、チームメンバー間の強い文化的絆を維持しながら、増加するリモートワーカーをどう管理しているかを聞く。
第4章 個人的成長とバランスの取れた生活
デザインリーダーたちは常に学び、成長し、バランスの取れた生活を送ろうと奮闘している。私たちは、こうしたトップパフォーマーが本当に重要なこと―家族、友人、個人的成長―を見失わずに、どのように日々の要求をうまくさばいているのかを学んだ。だが、ここにも万能のアプローチは存在しない。さまざまな個性の人物が自身の直感と創造性によって、この普遍的問題をいかに解決しているかを探る。
第5章 将来計画
デザインスタジオやチームの運営には不透明さがつきまとい、ますます困難な状況となりつつある。急速に変化する技術トレンドは、リーダーにすばやくフレキシブルな対応を要求する。刻々と変化する未来に向けて計画を立てるには、戦略的かつ戦術的なリーダーシップスキルが必要である。この章では、デザインリーダーたちが現在の要請に対応しつつ、どのように将来計画を立てているかを説明する。
第6章 リーダーシップスタイル
私たちがインタビューした人々は、それぞれが独自の持ち味とスタイルのあるリーダーシップ術を持っている。2つとして同じスタイルはないのだが、成功しているリーダーには共通したパターンがある。本章では、リーダーたちがこうしたリーダーシップスタイルによってどのように自らのビジネスビジョンや企業文化と結びついているのかを論じる。デザインリーダーは、時とともに変化する環境や新しい課題に自らのスタイルを合わせていくのだ。
第7章 セールスとマーケティング
すべてのデザインビジネスには仕事のパイプラインが必要である。リーダーは、新たな顧客を取り込み、既存のクライアントを保持する課題に取り組むとき、真っ先にそのことを考える。私たちはインタビューによって、大小さまざまな企業に関する洞察を得て、多種多様なテクニックやアプローチの仕方を学んだ。
第8章 最大の失敗から学ぶ
間違いを犯すことは避けられない。しかし残念ながら、必ずしも失敗から学べるとは限らない。ここでは、優れたデザインリーダーたちの失敗と、彼らが失敗から立ち直るために行ったことを掘り下げる。これらの話からわかるように、失敗は避けるべきものではなく、むしろ失敗によって成長し改善するメカニズムを持つことがリーダーの強みとなる。
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原書はこちら。