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【ショートショート】不機嫌ストロー
雲の上では、神様たちが特別なストローを使って
人間の「不機嫌」を吸い取っていた。
不機嫌は目に見えないが、
確実に上空へと溜まり、
放置すれば世界は重苦しい空気に包まれてしまう。
吸い取った不機嫌は「不機嫌貯蔵庫」に蓄えられ、
満杯になる前に天候へと変換し、
地上へと放出される仕組みだった。
日本では夏は台風、
冬は大雪といった具合に形を変え、
人々を適度に困らせることでバランスを取っていたのだ。
しかし、時代が進むにつれ、
地球の人口は増え、
不機嫌の総量も凄まじい勢いで膨れ上がった。
ストローで吸い込んでも吸い込んでも追いつかず、
貯蔵庫をいくら増設しても足りない。
やむを得ず、神様たちはかつてない規模で放出するしかなくなった。
結果、世界各地で異常気象が頻発するようになった。
記録的な熱波、想定外の豪雨、制御不能な竜巻——
すべて、溜まりすぎた不機嫌のしわ寄せだった。
「さすがに、地球がもたないな……」
神々の長が頭を抱えた。
そこで考えたのが、
不機嫌貯蔵庫ごと宇宙に放出する計画だった。
地球の大気圏を超え、
無限に広がる宇宙へと捨ててしまえば、
地球の負担は減るだろう。
だが、一部の神が懸念を示した。
「それ、宇宙ゴミになるんじゃ……?」
「うーん……」
地球から出した不機嫌が、
宇宙のどこかで漂い続けるとしたら?
あるいは、予期せぬ形で跳ね返ってくるとしたら?
神々は悩んだ。
だが、地球のためには何かしらの決断を下さねばならない。
「もういっそ、人間たちに自分で処理させるか?」
そう呟いた神様の言葉に、皆が静かに頷いた。
こうして、ある日突然、
人間たちは「自分の不機嫌を自分で処理しなければならない世界」
に放り込まれることになったのだった。
(おしまい)
ショートショート⑭
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