マーケの視点から働き方改革を反省してみた
日本の賃金が上がらないというニュースをよく見ます。その原因として年功制や給与体系、デジタル化の遅れなど色々言われますが、単純に言ってしまえば「労働生産性が低いから」だと思います。労働生産性が低ければ給料は上がらない。政府が「官製賃上げ」を言っても、そんなことで上げられるとは思えません。しかし同じ日本企業でもキーエンスのような会社もあるわけで、必ずしもすべての日本企業の給料が上がらないわけではないと思います。
かつて労働生産性を高めるために「労働時間(残業時間)を減らす」という取組みがコロナ前にありました。そう「働き方改革」です。もちろん時短だけの取組みではなかったと思いますが、記憶にあるのはそれくらいでしょうか。特に大手を中心に取り組みました。しかし、あまり労働生産性のアップにはつながらなかったのではないかと、いま考えてみると思います。「19年(コロナ前)には平均年収だけでなく労働生産性も韓国に抜かれ26位になった(日経新聞4月18日)」。
働き方改革の何がいけなかったのか?マーケティング的な観点から考えてみると、労働時間を減らすだけでは顧客への提供価値も並行して縮小する。これを反転(労働時間は少なくアウトプットは多く)させるにはイノベーションがいる。本当は「イノベーションの促進」を働き方改革の主眼に置くと良かったのだろうと思います。ここに本来はデジタル化の必然性があったのでしょう。しかし当時はデジタル化など大して見向きもされず、それまでの業務を時短のなかで粛々と続けるのが一般的だったと思います。
現在、当時よりは多くの企業がデジタル化に取り組んでいるのでこれはこれで良いとして、「本当にそれで顧客への提供価値が高まるのか」という次の疑問も出てきます。仮にデジタル化しなくても提供価値が高まれば労働生産性はアップするはずですから、2019年当時、ここにも問題があったのではないかと思います。提供価値のアップ。なんだかマーケでは当たり前のように言われることですが、実際には「終わりのない永遠のテーマ」でもある。どこまでいっても僕たちはそれをやり続けるしかない。
提供価値をアップさせるために見直すのはインサイト、それもヒューマンインサイトだと思います。ヒューマンインサイトとは聞き慣れない言葉だと思いますが、特定の製品やブランドに関するインサイト以上に「生活者のライフシーン全般」に存在するインサイトを見つけることです。それを新規事業(いままでの提供価値とは別の提供価値)に活かすことでしょうね。既存事業だけで提供価値を劇的に高めるのは難しいでしょう。新規事業は必要だと言えます。ましてや昨今の市場は、コロナ禍やデジタル化、グローバル経済の行き詰まりなど、急激な社会の変容により市場の潮目が変わってきています。これまでの延長線上の仕事を続けてもなかなかそのようなインサイトは得られず、一度、まっさらな目でこれからの市場・生活者を捉えることが大事だと思います。すると提供価値が高まる。デジタル化は効率を圧倒的に高めるアプローチですが、こちらは効果を高めるものと言えそうです。これが滞ると新規事業も生まれにくいし、仮に生まれても跳躍力の乏しいものになる。そこで一度、モノ寄りの考え方をストップし生活者寄りの考え方をあらためてしてみる。それも「ちょっと先の未来」に思いを巡らす。これが新しい価値を生み出すアプローチです。