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バンコクの街並みを変えたストリートアート
バンコクへの出張があり、一日前乗りして街を歩いてみた。前回はひたすら歩き続けて、タイ人の妻からも「その距離を歩くのはおかしい」と言われるほど、長距離を歩いた。今回は、ライドシェアアプリのGrabを活用して、もう少し広く探索してみることにした。
Google Mapで見てみると、カメラマークのついているストリートアートエリアがいくつかあることに気づいた。前回も、壁一面にイラストが描かれている場所には気づいたのだが、ここまで点在しているとなると、ちょっと気になってくる。朝から、ストリートアートを寄り道しながらバンコクを歩いてみた。
まず立ち寄ったのが、Khlong San駅近くのストリートアート(1 Lat Ya Rd, Khlong San, Bangkok 10600)だ。Google Mapのコメントによれば、日本人の河野ルルも参加しているという。行ってみると、完全に住宅地の中で、Grabの運転手も「ここに何しにきたんだ?」と怪訝な表情を浮かべるくらい、観光客の目的地としては違和感があるところだった。それでも、コンクリートの壁が絵で覆われている風景は、それなりに面白く感じた。
生活がすぐ横にあるので、写真を撮るのも少し憚られる。それだけに、観光客がこうして少しでもやってくる生活環境が、住民にどのような影響を与えるのか、興味深い。ジョン・アーリの「観光のまなざし」の議論につながるだろう。
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そこから歩いて15分、次はロン1919(248 Chiang Mai Rd, Khlong San, Bangkok 10600)に行った。ここは、19世紀の中国人の大邸宅を修復し、ショッピングやレストランを併設した寺院として、観光名所の一つとなっているところである。2017年にリノベーションしてオープンした場所なのだが、実はここにリッツ・カールトンが建設されることになった。文化財を保護しながら、同時に開発を進めていくいわゆる持続可能な文化財保護の、ひとつの事例となるだろう。
こうした資本主義による文化財の「搾取」は批判もあるだろうが、個人的には、そこはむしろ積極的に活用しながら、保護を強化する方向に進むとよいのではないかと思っている。税金で保護するのにも限界があるわけで、市場原理を取り入れつつ、民間によって支えられる「生きた文化財」として、新しい生命を謳歌する、というのが、昨今の文化財保護の方向性だろう。その意味で、このリッツ・カールトンの取り組みは要注目だろう。
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そこからさらに、中華街に向かった。タイの中華街に行くのは初めてなのだが、タイの国王に対するリスペクトが随所に見られ、タイの文化に溶け込もうとする意思を感じる。たとえば、中華街門は、1999年に設置された比較的新しいものなのだが、これは、プミポン前国王の在位60年を記念して建てられた。日本で言えば、天皇陛下の在位を記念して作るようなものであり、その文化的な配慮が伝わってくる。昨年訪れたイスラム教徒の居住エリアもそうだったが、バンコクにおいては、融和的な雰囲気があるのが面白い。
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この中華街から少し歩いたところにも、ストリートアートがある。タラートノーイ(22 ถ. เจริญกรุง Talat Noi, Samphanthawong, Bangkok 10100)の細い道では、右に写真展示、左にはびっしりと描かれたストリートアートを楽しむことができる。外国人も多く訪れており、観光名所になっていることがわかる。突き当り右側にはカフェがあるのだが、この地域の産業である整備工場跡を一階に残したまま、2階だけをカフェにしている。入るのに勇気がいるのだが、その分、二階のカフェにたどり着いたときにはちょっとした開放感も感じられる。一種のアトラクションとして機能しているところが面白い。この通りのストリートアートも、地域の伝統を描いているものも多く、穏健な雰囲気であった。
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ほかにも、さまざまなおしゃれカフェが展開しており、たまたま入った、ギャラリーとしてアートが販売されているカフェには、日本人の方が運営されていてびっくりした。「日本人ですか?」と聞かれたので、丸わかりだったようだ。
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このエリアの産業である整備工場。さまざまな部品が無造作に積まれている。バイクや自動車部品などの修理が行われていた。
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そのあと訪れた最後のストリートアートエリアは、倉庫をショッピングギャラリーに改装したウェアハウス30(48 Charoen Krung 30, Bang Rak, Bangkok 10500)と、タイ・クリエイティブ&デザインセンターに挟まれた場所にある(PGG7+XR6, Charoen Krung 32 Alley, Bang Rak, Bangkok 10500)。ここは反権力的なメッセージが感じられる、いわゆるグラフィティっぽいものが多かった。
先のタラートノーイが、どちらかというと、それまで町工場の集積地をジェントリフィケーションしようという目論見が感じられたのに対して、こちらは倉庫のような、人が居住していないがゆえに過激な表現をしても許されたのではないか、というのが、私の印象だ。エリアによってストリートアートにも個性が出ているところが面白い。
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このようなストリートアートのメッカとなっているバンコクだが、そのきっかけとなったのが、Bukruk Urban Arts Festivalというアートフェスティバルだった。第一回が2013年、第2回が2016年に行われ、タイと海外のアーティストが協働し、大規模な壁画やインスタレーションを制作した。Bukrukとは侵略を意味するらしく、都市に侵略するようなストリートアートをメインに制作・展示がなされた。その後、展示エリアを中心にアートシーンが展開されるようになり、地域活性化が進められた。
建物の壁や塀をキャンバスと見立てて描き、街の風景を一変させていく手法は、インスタレーションを接地するよりも安価で、かつレガシーとしても残しやすい。ボストンでもそうした壁画を見たが、バンコクほど広く展開はされていなかった。バンクシーはこうした活動のさきがけであり、それがより一般化されて地域活性化の手法のひとつとして広がりつつある。2010年以降、ハワイやマレーシア、ニュージーランド、イタリアなどでも取り組まれている。これからどのような展開を見せるのか、チェックしていきたい。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師
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小山龍介のビジネスモデルノート
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