楽園-Eの物語-声の出会い
聞こえてくるのは風の音だけだった。
隠された園から戻ると、セランはずっとルージュの歌を探していた。
自分は果物を口にし、水も飲んだ。
それでも腹は減り、とても寒い。
水だけで歌い続けるルージュサンの消耗は、比にならない激しさの筈だ。
それでもきっと、歌うことを止めはしない。
村の為に、山の為に、この地方の為に、そして自分の為に。
ふいに、風の音が止んだ。
セランは急いで入り口の岩に駆け寄る。
ルージュサンの歌声が聞こえてきた。
凛とした、あの懐かしい声。
セランも歌いだした。
ルージュサンの歌に合わせて。
セランの声は、ルージュサンの歌を温かく包み込み、引き立て合い、絡み合って、山を滑り、覆っていった。
気が付くと、セランとルージュサンは白い宙に浮いていた。
目が覚めているのではない。
歌いながらも、意識だけが感じているのだ。
「ルージュ」
セランの全てが、喜びに輝く。
そして強く、抱き締めた。
「怖かった!もう会えないかと思うと、凄く、怖かった!」
「セラン、私は」
ルージュサンも抱き締め返す。
「怖かった。セランと出会うまで、ずっと」
「出会うまで?僕は羽毛のようだった。ふわふわと、とても楽しかったけど」
セランが抱擁を緩め、ルージュサンの額に口付けた。
「ルージュと出会って、核が出来た。ルージュを包み込んだり、羽ばたかせたりする、翼になりたくなったんだ」
ルージュサンがセランの頬に頬を擦り付ける。
「私はセランに包まれて、始めて心から安心出来ました」
「ルージュ」
白い光の中、二人は抱き合った。
そのまま一つに溶け合って、くるくると回る。
九色の光の筋が、花火のように放たれた。
それは目映い雨になり、山々に降り注いだ。
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