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楽園-Eの物語-切り替えスイッチ

日が落ちる頃、四人はテントを二つ張った。
 セランが敷物の左右に杭を打つのを見て、オグが首を傾げた。
《それは何だ?》
《杭だけど》
 セランは不思議顔だ。
《それは分かるが、何でそこに打つんだ?》
《紐を止めるんです。僕の腰に付けた》
《何の為に》
《僕がテントからはみ出さないように》
 セランがうっとりと瞬きをする。
《ルージュが考えてくれるんです。僕は彼女の愛に縛られて眠るんですよ。思えば最初からそうでした。ああ、あの出会いの日!》
 セランが両腕を胸の前で交差させ、宙を見る。
 オグは別の疑問に眉をしかめた。
《お前は国立学院の教授なんだよな。のそれで講義になるのか?》
《こうぎ?ああ、講義》
 セランの意識が戻って来た。
《しますよ。僕の教鞭は恩師から譲り受けたものなのです。それが手元にある時は、僕は教授。教え、授ける者なのです》
《たった三日で旅の準備が出来たのも不思議だ》
《私の仕事と研究は、私のものであるのと同時に学院の、この国の、学問をする人達の、ひいては世の中全てのものなのです。そして人生いつ何があるか分からない。ましてや僕はルージュの夫ですからね。引き継げることはいつでもそう出来るよう、日頃から整えてあるんです》
 セランは真っ直ぐな視線を、オグに向けた。
 その姿は寛容な神のように、揺るぎの無い平穏と、威厳を湛えている。
 内側から光が放たれて見える程、端正な美しさだ。
《どんな恩師なんだ?》
 オグの問い掛けに、セランが嬉しそうに微笑んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 

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